【医師の論文解説】ゲームの音は耳にどれだけ影響するのか?ビデオゲームの音が聴力に与える影響

【医師の論文解説】ゲームの音は耳にどれだけ影響するのか?ビデオゲームの音が聴力に与える影響|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)

私たちの生活環境は、様々な音にあふれています。
なかには、長時間聴き続けると聴力に悪影響を与えるものがあり、長時間のイヤホンやヘッドホンの使用やスマートフォンなどが、代表的なものとして挙げられています。
そんななかで、近年増加しているゲームやeスポーツを長時間高音量で行なっている人たちへの影響について研究した論文が発表されました。今回は、ゲームの音が聴覚に与える影響について調べた論文を紹介します。

論文

Lauren K Dillard, Peter Mulas, Carolina Der,et al.Risk of sound-induced hearing loss from exposure to video gaming or esports: a systematic scoping review.BMJ public health. 2024 Jun;2(1);e000253. pii: e000253.

米サウスカロライナ医科大学のLauren Dillard氏らはビデオゲームの大音量は、不可逆的な難聴や耳鳴りをもたらす可能性のあることを「BMJ Public Health」誌に2024年6月報告しました。

研究の背景と目的

聴覚障害の主な原因の一つに、過度の「音」の曝露があります(例:コンサート、ヘッドホン)。
ゲーム音も大音量で、しかも長時間聞くケースがあり、若年層を中心に潜在的リスクが高いと考えられています 。一方で、ゲーム音に関し大規模に調査された例は少なく、実態は不明でした。
この研究では、ゲーム音と聴覚障害(難聴・耳鳴り)との関連性について、既存の研究を整理・評価し、関連性の有無やリスクレベルを明らかにしようとしています 。

研究の方法

この論文の研究は、システマティックレビューという方式で行われました。システマティックレビューは、特定の研究課題について既存の研究を体系的に収集・評価・統合する方法です。ゲームやeスポーツに関連する音響性難聴のリスクを明らかにするために、英語・中国語・スペイン語で発表された文献を対象に、PubMed、Scopus、Ovid MEDLINEなどの主要データベースから、2023年1月までに発表された研究を網羅的に検索し、最終的に14件(11件の観察研究と3件の横断研究)を抽出して分析しました。

研究の結果

今回の研究の結果、以下のようなことが分かりました。
レビュー対象となった14件の研究(観察研究11件、横断研究3件)のうち、5件がゲームやeスポーツの使用と聴覚障害(音響性難聴や耳鳴り)との関連性を分析しており、そのうち、4件でゲームのプレイ時間が長いことや高音量での使用が、聴覚への悪影響と統計的に有意な関連を持つことが示されました。

さらに、ゲームプレイ時の音量データに関する研究では、平均音量が85dBを超える例やインパルス音(銃声・爆発音など)が、短時間でも120dB以上に達するケースも報告されています。これは、世界保健機関(WHO)や国際電気通信連合(ITU)が定める、安全な音量・時間のガイドライン(例えば85dBで最大週40時間まで)を上回る可能性があります。

そのため、特に若年層のゲーマーにおいて、音響性難聴や耳鳴りなどのリスクが上昇する恐れがあると考えられます。

研究から得られた知見

この研究で、ゲームやeスポーツにおける音響曝露が、WHOや国際電気通信連合(ITU)が示す安全基準を超える可能性が高いことが示唆されました。
これにより、ゲームオンは若年層を中心に、音響性難聴や耳鳴りなどの聴覚障害リスクを高める重要な要因であることを示しています。聴覚障害は不可逆的であるため、予防が極めて重要であり、機器側の音量制限機能やユーザーの自己管理、さらには公衆衛生的な教育啓発が急務であるといえるでしょう。

耳への影響も考えたゲームの音量にする

今回は、ゲームが聴力に与える影響を調査した研究を紹介しました。
ゲームの没入感を高めるために、ついつい音を大きくしてプレイしがちですが、耳に与える影響は永続的に残ってしまいます。
人生の最後までしっかりと聴こえる耳を維持するために、ゲームをするときの音量には気を使うようにしましょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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