皆さんは「テトリス」というゲームをご存知でしょうか?
テトリスは、1984年に当時のソビエト連邦で発案された落ものパズルの元祖となるゲームです。画面の上から落ちてくるテトリミノと呼ばれるブロックを、きれいに敷き詰めるように並べていくシンプルなゲームです。シンプルながら奥深く、没頭してしまうゲーム性でいまだに世界中で人気のゲームです。
そんなテトリスですが、メンタルヘルスの分野から熱い視線が送られています。
というのも、テトリスをプレイすることで、大きなストレスで発症するPTSDのフラッシュバックを抑制することができるということが明らかになっているからです。
今回は、テトリスがメンタルヘルスに与える影響について、解説していきます。
テトリスが効くというPTSDとはどんな状態?
テトリスがPTSDに効くという話を冒頭でしましたが、まずはPTSDとはどのような状態なのか見ていきましょう。
PTSDとは、心的外傷後ステレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)という言葉を略したものです。
命の危険や、性暴力などの過度に強いストレスを与えられるような状況に直面した後に、その体験の記憶が、自分の意思と無関係に急に思い出したり(フラッシュバックと言います)、悪夢として出てきたりします。
それを繰り返すことで、不安を感じたり緊張したりする状態が続き、精神的に追い込まれてしまいます。通常でも辛い思いをすると、しばらくは不安や不眠などの症状は起きますが、時間が経つと落ち着いてきます。
PTSDでは、時間が経っても楽にならず、むしろ時間が経つとますます辛くなることもあります。また、辛い出来事に直面してから数ヶ月〜数年経って、PTSDの症状が出てくることがあります。PTSDの症状があるときは、一人で抱え込まずに専門家に相談することが重要です。
参考:MSDマニュアル 家庭版
PTSDに対してテトリスが及ぼす効果
スウェーデンにあるカロリンスカ研究所と、ウプサラ大学心理学教授のエミリーホームズが、2009年に行った研究で、PTSDにテトリスが有効であることが示されています。
この研究では、研究室で被験者にトラウマを引き起こすような映像を見せてから30分後に、テトリスをプレイする群と何もしなかった群に分けて比較しました。すると、テトリスをした群の被験者は何もしなかった群の被験者と比較して、その映像を日常生活で思い出す回数が優位に少なくなりました。
これは、テトリスというゲームが想像力と、視覚を使うパズルゲームであることに起因する現象です。
PTSDは衝撃的な出来事が恐怖と結びついて、何度も記憶に蘇り、脳に固定されることで起こるのですが、テトリスのように視覚と想像力を使う課題を行なっていると、脳が情報を同時に処理できず、衝撃的な出来事の記憶が固定されるのを防止できるのです。
テトリス以外にも、PTSDに効果的な方法が今後出てくるかもしれませんが、簡単にルールを覚えられて、しかも気軽にできるテトリスというゲームにそのような効果があるということで、多くのPTSD患者を救うきっかけになる可能性があり、今後の研究が待たれるところです。
他にもあるテトリスの効果
テトリスはトラウマに効果的なだけでなく、プレイする人の作業記憶能力や処理速度を上昇させるという研究も行われています。
2013年に行われた研究では、32人のボランティアに、脳トレゲームを行う群とテトリスを行う群に分けて、それぞれ1日15分週5回以上、4週間プレイしてもらい、認知機能の測定を実施しました。その結果、脳トレゲームした群でも実行機能や作業記憶、処理速度が向上しましたが、テトリスをやった群では、脳トレゲームを行う群に比較して、注意力の向上や、視空間能力の向上がより望めるという結果になりました。
この効果は高齢者でも得られ、テトリスは高齢者でも実行機能や処理機能を改善することが明らかになっています。
こちらも視覚を使いつつ、ブロックをどこに入れれば良い結果を得られるかという想像を働かせながらゲームすることで、多くの脳の領域が使われることに関係していると思われます。
テトリスを取り入れてPTSDを防ぐ
今回は、テトリスの持つPTSDを防ぐ効果、脳を活性化する効果について解説しました。
単純なゲームなので、それほど脳に影響するように思えないかもしれませんが、テトリスは視覚情報の処理を行いつつ、どこに何を配置するかを考え実行するという、複雑な思考プロセスを行うゲームなのです。
暇なときに時間を潰す方法として、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。