
全国社会福祉法人経営者協議会は、2018年に福祉業界で活躍する若手職員を称える「社会福祉ヒーローズ」を創立しました。毎年、福祉の世界を変える意欲と実績のある若手を表彰し、その功績を広く発信しています。この賞は「社会福祉の甲子園」と称され、日本一の福祉ヒーローを決める全国大会として位置づけられています。
本記事では、2025年2月19日に渋谷ヒカリエホールで行われた「社会福祉ヒーローズ2024」の様子をお伝えします。
若手福祉職員を称える「社会福祉ヒーローズ」とは?
2018年に始まった「社会福祉ヒーローズ」は、介護・保育・障害者支援などに従事する20~30代(応募時の年齢)の若手職員を全国から選び、表彰する賞です。選考は大学教授や福祉関連の起業家など、6名の有識者によって行われます。

超高齢化社会と少子化が進む日本において、社会福祉の世界をもっと身近にオープンにするためにスタートした同賞。
昨年度からは、福祉活動に取り組む学生を対象とした「社会福祉学生ヒーローズ」賞も新設され、高校・大学・専門学校の団体やサークルを表彰する枠も設けられました。
「社会福祉ヒーローズ2024」では、千葉、神奈川、京都、愛媛、長崎、大分の1府5県から選ばれたファイナリスト7人が会場でプレゼンテーションを行い、最優秀賞である「ベストヒーロー賞」を決定しました。
「社会福祉ヒーローズ2024」の選考プロセスは以下のとおりです。
・一次審査(2024年10月18日):主催者による書類選考(エントリーシートをもとに選考)
・二次審査(2024年11月5日・6 日):ビデオチャットによる面談選考
・最終選考会(2024年11月13日):エントリーシートと二次審査の録画データを基に、有識者を交えた選考
ファイナリスト7人による熱いプレゼン
当日は、ファイナリスト7人によるプレゼンテーションが行われました。6人の審査員に加え、会場観覧者やYouTubeのライブ配信を視聴した学生審査員の投票によって、ベストヒーロー賞が決定。特別ゲストとして、お笑いタレントで福祉活動にも携わられたことがあるみやぞんさんを迎え、会場は、熱気あふれる雰囲気で大いに盛り上がりました。
自身の挫折と経験を力に変えた西田夏音さん

京都府宮津市の特別養護老人ホーム「マ・ルート エルダータウン」(社会福祉法人みねやま福祉会)で介護職として働く西田夏音さん。彼女は進学の挫折や不登校を経験し、その後、北海道でのツアーガイドや幼稚園勤務を経て、多世代が関わり合うことの意義を模索しました。現在の職場に出会ったことから社会福祉の世界が広がりました。

西田さんが働く施設は、年齢や疾患、障害の有無を問わず、地域の人々が支え合う「ごちゃまぜ福祉」を実践する複合型施設です。この施設の特徴的な取り組みの一つが「ライフミュージアム」です。ここでは入居者が自らの人生を語り、その中で共通点を見つけ、会話を広げていくことを目指しています。例えば、101歳で入所し「個室で一人静かに過ごしたい」と話していた女性が、102歳の誕生日には自ら制作した作品を子どもたちに披露するようになりました。
「”ごちゃまぜ”を通して、誰しもが誰かの可能性を開くことができると感じました。役割を持って支え合っていくことが地域の当たり前になってほしい。みなさんもぜひ、一緒にごちゃまざってください」と、プレゼンテーションを締めくくりました。
ゲストのみやぞんさんは、西田さんに対して次のようにコメントしました。
「一見マイナスに見える不登校の経験も、人に寄り添える優しさになったように失敗も素晴らしい未来に繋がるんですよね。また、ごちゃまぜというのは自由であり愛だと思う。こうしちゃダメという制限より、これもできる、これでいいじゃないかと自由があると感じました」
空回りを乗り越え、サポート役に徹する小野海利さん

大分県大分市の就労継続支援A型事業所「博愛会地域総合支援センター」(社会福祉法人博愛会)で支援リーダーを務める小野海利さん。
小野さんは、九州で最も小さな町・福岡県吉富町で育ちました。就職活動の際、何気なく勧められた現在の法人の見学会に参加。そこで、障害のある方々が高度な接客スキルを発揮している姿に衝撃を受け、入職を決意しました。
現在は、障害のある方の「喫茶店(カフェ)」への就労支援に取り組む小野さん。入職して数年経った頃、現在の業務である障害者技能競技大会(アビリンピック)の担当になりました。

初めて指導にあたった際は、熱意が空回りし、利用者への厳しい指導を重ねたものの、結果は惨敗。そこで、自身の指導が利用者の個性を奪っていたことに気づき、サポート役に徹することを決意したといいます。そしてある年の全国大会で、利用者の一人が見事金賞を獲得。小野さんの喜びもひとしおで「人の喜ぶ顔を見て喜びなさい」という法人理念を改めて再認識したそうです。
「なんとなく生きてきた私の仕事への情熱に火をつけてくれた利用者さんたち。接客を通じてひたむきに社会参加を続ける彼らをこれからもサポートしていきたい」と、今後の意気込みを語りました。
手のひらで相手と対話する介護を。中島友美さん

千葉県松戸市の訪問介護「リバーサイド・ヴィラホームヘルプサービス」(社会福祉法人根木内福祉会)に勤務する中島友美さん。中島さんは長年介護職に従事し、自信を持ち始めた31歳のときに訪問介護へ人事異動しました。
訪問介護は利用者の自宅で行う介護です。しかし、ある利用者から「あなたの介護が不安」と言われ、10年のキャリアが打ち砕かれました。これまでの経験や技術が通じない壁にぶつかり、自信を失います。

中島さんは、先輩の介護を必死で学ぶうちに、自分の介護は力業で重たい荷物を運ぶように利用者に触れていたことを痛感。一方、先輩の介護を受ける利用者は、自分の力で動いているように見えました。
「相手を動かす力の入れ具合を介護技術だと思ってましたが、それは大きな誤解でした」と、中島さんは振り返ります。
以降は先輩や仲間と猛特訓を重ね、「介護とは、対話プロセスの総和で共に作り上げていくもの」との考えに至りました。手のひらで対話するように利用者を感じながら、小刻みに介護が展開されていくことを学んでいきます。やがて、利用者の家族利用者から「介護は人を活かしもするが、人を殺しもする。あなたの介護は人を活かす介護」と評価されるまでになりました。
「介護のやり方がわからないと悩む家族の嘆きも多く聞かれます。これからは誰もが介護技術に触れることができる場を作り、地域社会の構築に努めていきたい」と熱く語る中島さん。
審査員からも「介護にも職人の世界があることを知りました。超高齢社会の中で介護職に関わらず、すべての人が手のひらで対話する技術を身につけるべきだと感じました」と高い評価を受けました。
外に出て、自然と触れ合う教育を実践する白川凜太郎さん

愛媛県久万高原町で社会福祉法人育和会が運営する、幼保連携型認定こども園「久万こども園」と、児童館・学童保育「NIKO NIKO館」に保育教諭として勤務する白川凜太郎さん。
自由奔放な少年時代を過ごしてきた白川さんは、小学校以降の「自分の人格が数値で管理されていく」教育に戸惑ったそうです。そこで子どもが育つ環境に興味を持ち、保育学科のある短大に進学します。
しかし、現場で待っていたのは理想とは異なる現実。子どもたちがのびのびと育つ環境であるはずの保育現場が、細かくスケジュール化され、システマチックに管理されていることに疑問を抱きます。一時期は休職しましたが、復帰後は自身の理想を実現するため、新たなアプローチを模索するようになりました。

「遊ぶことは、外に出ることから始まる」と白川さんは考え、子どもたちを積極的に自然の中へ連れ出す保育を実践しています。
「森に連れて行くことで、子どもたちは自ら遊び始めます。雪を踏みしめ、木の中に潜む生き物を探す。外で感覚的な四季を子どもたちが自ら味わうことに本質があると私は信じています。生き物も人間も、一つとして同じものは存在していません。多様性を自然の中で学び、少しずつ受け入れていくことが、子どもたちの成長につながると考えています」と、自身が実践している自然一杯の保育活動を紹介しました。
「今の社会は、経済を発展させようと何もかもスピードが求められています。その波が保育現場にも押し寄せているのが現状です」と白川さん。だからこそ、「外に出る」というシンプルな実践を通じて、子どもたちが本来持つ自由な感性を取り戻す環境を作りたいと訴えます。
「これからの保育は効率を追い求めるだけでなく、人間本来の生活を子どもたちに送ってもらう必要があるのではないでしょうか」と、保育業界へ問題提起も行っていました。
児童が発する思いのサインを見逃さない。飯田真菜さん

京都府亀岡市にある、放課後等デイサービス「はなのき放課後等デイサービス」(社会福祉法人花ノ木)に勤務する飯田真菜さん。彼女が働くのは、特別支援学校に通う重症心身障害児が放課後を過ごす施設です。
言葉での意思表示が難しい子どもたちに対し、飯田さんは「意思を引き出すこと」を大切にしています。遊びや日常の行動の中で、意思表示のサインを見逃さないよう注意を払っているといいます。
たとえば、散歩の帰りに「好きな絵本を一冊選ぶ」というプログラムでは、子どもが自ら本を選び終えるまで根気よく待ち続けるそうです。児童が「どれにしよう」と悩む時間を大切にするなどの日々を積み重ね、何かを要求するときにその物を自分で手に取る行為が見られるようになったと話します。

「児童の興味関心を限りなく引き出し、新しい遊びや体験の機会を提供することが大切です。そうすることで選択肢が広がり、将来的に本人の意思決定に影響を及ぼすと思います。言葉で表現しなくても、視線や心拍数、緊張のほぐれなど、児童に眠るたくさんの『思い』を引き出そうと日々奮闘しています」
また、飯田さんは重症心身障害児の親御さんが抱える悩みや不安についても言及。
「地域に子どもたちの居場所ができたら助けてもらえる場所も増えます。学校、家族、地域、放課後等デイサービスなどたくさんの居場所を作れば、子どもだけでなく家族の支えになる。それが当たり前になってほしい」と強調します。
「子どもたちが笑顔になることがスタートライン。そのためにも、自分自身が笑顔になってその輪を広げていきたい」と、前向きな抱負を語りました。
キャリアアドバイザーとして職員に寄り添う西条大地さん

神奈川県横浜市の社会福祉法人若竹大寿会に勤務する西条大地さん。彼は大学生のときにリーマンショックによる就職難を経験し、営業職に就職したものの東日本大震災で会社が倒産するなど苦難のキャリアを歩んできました。
転機は、入院中の祖母を見舞ったときに訪れました。「ありがとう、大ちゃんは優しいね」と涙ながらに感謝されたことが大きなきっかけになりました。営業職で得意先から受け取る「ありがとう」とは違う、本心からの感謝の言葉。自分の優しさに対する「ありがとう」をもらえる仕事をしたいと強く思い、介護職への道を選びました。
介護の現場で働く中で、西条さんはある問題に気づきます。子育て中や、闘病中の職員、外国籍の職員などが、介護の仕事が好きなのにも関わらず仕事を続けられず辞めていく姿を目の当たりにしたのです。彼らの悩みに寄り添い支えたいという思いから、キャリアコンサルタントの資格を取得。その後、会社に「キャリアアドバイザー」という新たな役職を設けてもらい、新人や悩みを抱える職員の相談役を担うことになりました。

「福祉職の人たちは、その優しさから自分ですべて背負って悩み苦しんでしまう人が多いです。これから人口が減る社会では福祉の世界は総力戦。業務内容とは別のことで悩んで辞めるのではなく、誰もがその人らしく輝けるように仲間の気持ちに寄り添いたいです。これまでの人生で『やさしいだけではダメじゃないか』と思わされてきたけど、やっぱり人に優しくありたい。そう思わせてくれた福祉の世界や仲間たちのために、これからも仲間を輝かせていきたい」と、西条さんは熱く語ります。
審査員からは「資格取得や自社内でポジションを作ってもらうなど、アグレッシブな行動力が素晴らしい。やさしくあり続けられる環境作りは貴重な取り組み」と称賛の声が寄せられました。
福祉は「クリエイティブな仕事」と語る原田竜生さん

長崎県長与町の「特別養護老人ホームかがやき」(社会福祉法人ながよ光彩会)の施設長、原田竜生さん。長崎福祉専門学校を卒業後、訪問介護、有料老人ホーム、デイサービスなどの経験を積んできました。
そんなとき同窓会で仕事内容について聞かれたとき、堂々と「介護の仕事をしている」と言えない自分に気づきます。
「当時の自分は介護業務をこなしているだけで、自分らしく働いていませんでした。そこから、やりたい仕事に変えていこうと当たり前の業務を見直しました」と振り返ります。
そのころ、原田さんが働く施設では利用者の方が季節に合わせて壁画を制作していましたが、完成後に制作物は廃棄されていました。そんな折、立ち寄ったコンビニでレジ袋を断った男性が、購入したおにぎりを床に落とす姿を目にして「デイサービスでレジ袋に使える紙袋を作れるのでは」と閃きます。

こうして生まれた紙袋はローソンで採用され、レジ横に無料で設置されることに。単なるレクリエーションだった活動が、利用者にとって生きがいや仕事へと変わる瞬間でした。
現在、原田さんは施設長として、スタッフ一人ひとりが「やりたい仕事」を実現できるようサポートしています。
「認知症があって孫の結婚式に連れて行けない」と悩む家族の話をスタッフから聞いたときには、スタッフ協力のもと短時間でも式に出席し、サプライズで手作りのプレゼントを渡す取り組みを実践しました。
「介護は考え方次第で面白くなる。福祉の仕事はとてもクリエイティブだとスタッフにも伝えています。これからも『まずやってみよう』の精神で福祉を変えていきたい」と、クリエイティブな福祉の魅力を紹介しました。
特別ゲスト・みやぞんさんによるトークイベントも

審査員の集計が行われている間、会場では特別ゲスト・みやぞんさんによるトークイベントが開催されました。お笑い芸人になる前、社会福祉法人で働き、障害のある方が一般就労するためのサポートを行っていたみやぞんさん。園芸作業や、畑で育てたお花を店の前で販売できないかと、スーパーに利用者を一緒に連れて行ったりとさまざまな業務を行っていたそうです。
「『今から花を売りに行くよ!』と言ってメンバーを選んで連れて行ったり、接客も教えていました。鉢に植えた花の売上が10万円になるなど、けっこう頑張ってました。売上は利用者さんの収入になるので『今日はここに行くよ!』と言うと『僕も選ばれた』となってみんな生き生きするんです」と、当時を懐かしみながら語りました。
一方で、みやぞんさんにも苦手な利用者さんがいたそうです。給食をひっくり返したり、テレビを壊そうとしたり、突然「ギャー!」と叫んだりしてしまう利用者に、どう接するべきか悩んだ時期もあったといいます。
「最初は『嫌だな』思っていましたが、あるとき気づいたんです。実は僕のほうが未熟で、この子は僕を試していて、成長を促してくれているんじゃないかと。それからは純粋に『ありがとうね、感謝しているよ』と言えるようになりました。人に感謝できるようになったときに自分も成長できます。『お前何やってるんだよ!』と言うと変わらないけど、『よく頑張っているね、ありがとうね』と言うと相手も変わるじゃないですか。人間関係も同じなんですよね」と振り返りました。

最後に「福祉に興味を持ってほしいし、若いうちは直感でやりたいと思ったら進んでほしい。福祉はどんどん変わっていっています。大変なイメージから脱却している時代ですから」と、社会福祉の業界に興味を持つ若者へエールを贈りました。
福祉業界の働き方改革を推進する西条大地さんが「ベストヒーロー賞」を受賞

審査員の投票の結果、グランプリにあたる最優秀賞「ベストヒーロー賞」には、西条大地さんが選ばれました。働きやすい現場の職員に寄り添った働きやすい職場作りに向き合っている点が高く評価されました。
受賞の瞬間、驚きを隠せない様子の受賞の西条さん。
「まさか自分が選ばれるとは思っていませんでした。現場で話をしてくれた仲間の顔を思い浮かべて、早くまた話を聞きに行きたいです」と喜びを語りました。
人材不足が深刻化する福祉業界。厚生労働省によると、2026年度には全国で約25万人の介護職員が不足し、2040年には57万人が不足すると見込まれています。こうした現状の中で開催された「社会福祉ヒーローズ」は業界の魅力を伝え、広く注目される大きなきっかけになりました。
このイベントでは、若手福祉職の活躍だけでなく、働きやすい職場づくりに取り組む施設の事例も紹介されました。他の法人や施設にとっても参考になる取り組みが多く、今後の業界全体の発展に寄与することでしょう。また、これから福祉の道を志す学生たちにとっても、大きな希望となるはずです。
そんな多方面へのいい影響が感じられた「社会福祉ヒーローズ」は、福祉業界の未来を照らす貴重な場となりました。
