高市首相、労働時間規制の緩和検討を指示 労働者側と経営側で意見対立

高市首相、労働時間規制の緩和検討を指示 労働者側と経営側で意見対立

高市早苗首相は10月21日、上野賢一郎厚生労働相に対し、心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和を検討するよう指示しました。上野氏は記者会見で「誰もが働きやすい労働環境を実現する必要性や、上限が過労死認定ラインであることを踏まえて規制緩和を検討する必要がある」と述べています。

現行の労働時間規制は、2019年施行の「働き方改革関連法」で導入されました。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情で労使が合意した場合でも、月100時間未満、年720時間が上限です。違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

​過労死ラインは、発症前1か月に100時間以上、または発症前2〜6か月平均で月80時間を超える時間外労働で、現行の上限規制はこのラインぎりぎりの水準です。

今回の緩和検討の背景には、深刻な人手不足に直面する中小企業からの規制緩和を求める声がありました。自民党は7月の参院選で「働きたい改革」を公約に掲げ、労働者が意欲と能力を最大限活かせる社会の実現を目指しています。

こうした動きを受け、高市首相は労働時間規制の緩和検討に踏み切りました。首相の指示を受けて初めてとなる厚生労働省の労働政策審議会分科会が10月27日に開催され、労働者側と使用者側の意見が真っ向から対立しています。​

労働者側の連合・冨高裕子副事務局長は「過労死がなくなっていない状況を政府は重く受け止めるべきだ」「過労死ライン水準の時間外労働の上限規制緩和など断じてあってはならない」と訴えました。そのうえで「柔軟な働き方は現行法制上も十分対応可能で、緩和は必要ない」と強調し、働き方改革を逆行させることへの強い懸念を示しています。​

一方、使用者側の経団連・鈴木重也労働法制本部長は、首相の指示について支持する姿勢を示し、「自律的に働く人にも規制が一律適用されていることが問題だ」と裁量労働制の対象拡大を主張しました。

過労死遺族が強く反対 労基法改正議論は継続

過労死遺族も強く反対しています。2015年に長時間労働で自殺した高橋まつり氏の母・幸美氏は、立憲民主党の会合に喪服で参加し「大切な子どもたちが本当に危険にさらされるような職場をつくらないでほしい」と訴えました。幸美氏は「上司や会社から『君はやれるか』と聞かれたときに『やれません』とは言えない」と指摘し、労働者の選択を前提とする規制緩和の問題点を示しました。

厚生労働省は現在、働き方改革関連法の施行5年後の見直しで労働基準法の改正を議論しています。分科会は今年1月から、有識者研究会の報告書に基づき、14日以上の連続勤務の禁止や副業の割増賃金算定方法の見直しなどを検討しています。早ければ来年の通常国会で法案提出を目指す方針です。厚生労働省は労働時間に関する調査の結果を踏まえ、今後も議論を進めるとしています。​

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