「小さなありがとうで誰もが輝ける」うつ病のどん底で誕生したゴミ拾いヒーロー「スミレンジャーZ」が目指す未来

ゴミ拾いヒーロー・スミレンジャーZと仲間

東京都杉並区・方南を拠点に活動する「スミレンジャーZ」は炭まみれの黒いボディスーツに身をまとう地域のヒーローです。街に捨てられた吸い殻や空き缶を拾い、地域のイベントで子どもたちと交流を重ねています。

Xでゴミ拾いの活動を発信するスミレンジャーZは「自己顕示欲のための活動だ」と批判されることもあります。それでも活動を続けるのは「ありがとう」と言葉をかけられるからといいます。

「やらない善よりやる偽善。僕の原動力はそれなんです」そう強く語るスミレンジャーZは家庭や学校、企業で疎外感を覚えながら生きてきました。どのように生きづらさと向き合い、地域貢献という道を選んだのか、その挫折と再起の道のりをたどります。

<目次>

子どもの笑顔がきっかけでボランティアがライフワークに

ゴミを集めるスミレンジャーZ

スミレンジャーZは幼少期から特撮作品が好きでした。一方で、勉強には苦手意識を持っていたといいます。勉強が得意な兄弟やいとこと比較し、「家族の中で自分だけが浮いている」という孤独感にさいなまれました。

また、学校ではいじめを経験したり、集団行動が苦手でクラスに馴染めなかったりと、人間関係の難しさに悩むことも多かったといいます。

こうした経験からスミレンジャーZは「誰かに必要とされる感覚」を求める気持ちを強く持ったまま就職します。そして、保育士として働く知人から「休みの日に子どもたちと遊んでみない?」と声をかけられたことをきっかけに、ボランティアを始めました。

「子どもたちが笑顔でよろこんでくれて、すごくうれしかったんです。『誰かに必要とされるってこういうことなんだ』と感じました」

そこから「少しでも役に立てることをやっていこう」という気持ちを胸に、さまざまなボランティア活動をすることに。その一環として訪れたのが、2017年の渋谷ハロウィンでした。

「これまでに見たことがない量のゴミが道端に捨てられていて衝撃を受けました。しかも、渋谷では毎朝ゴミだらけと知って、無視できないと思ったんです」

こうしてハロウィンの仮装で使用したヒーローの衣装を着てゴミ拾いを始めたところ、思った以上の反響が訪れます。この体験が、スミレンジャーの前身となるのボランティアヒーロー「スラウザー」が誕生するきっかけとなりました。

「ヒーローが好きだったので、オリジナルヒーローになろうという軽い気持ちでスタートしました。好評だったので続けていたら、いつのまにかライフワークになっていたんです」

うつ病でどん底の時期に支えられた師匠との出会い

ゴミを拾っているスミレンジャーZ

渋谷でのゴミ拾い活動をきっかけに、「ヒーローの姿で社会貢献をする」というコンセプトに強い手応えを感じるようになったスミレンジャーZ。

Xを中心としたSNSで情報を発信していると、各地のオリジナルヒーローとのつながりも増えていきました。そのなかで気になったのが、杉並区・方南を拠点に活動していた「ベビーカーおろすんジャー」です。

「ベビーカーおろすんジャー」は、方南町駅の階段でベビーカーの上げ下ろしを手伝うご当地ヒーロー。エレベーターとエスカレーターがない地下鉄の駅で淡々とボランティアを続ける姿勢にスミレンジャーZは憧れを抱いたといいます。

「有名になりたいとか、ヒーローに見られたいとかじゃなくて、『人の役に立つのが好きだから』という理由で活動をしていたんです。そういう地道に活動を続けるヒーローにすごく共感しました」

「会って話を聞きたい」と考えたスミレンジャーZは、ベビーカーおろすんジャーが開催していた「おろす祭り」というイベントの手伝いに参加。イベントの準備を共にするなかで、「子どもに愛される地域ヒーロー」の姿に強く影響を受けていきます。この頃から師匠と仰ぐようになりました。

しかし、その後、積極的な活動はできませんでした。働いていた企業でハラスメントを受けてうつ病を発症。心身の状態が不安定になり、転職を繰り返します。スラウザーの活動も休止せざるを得ませんでした。「なにもかも嫌になっていた」と振り返ります。

それでもボランティア活動への想いは残っていました。スラウザーの仮装をせずに素顔でベビーカーおろすんジャーのイベントの手伝いを志願します。

イベントではベビーカーおろすんジャーから譲り受けた黒いヒーロースーツを着て、名無しの仲間として参加。謎のゴミ拾いヒーローとして人気を博したそうです。

子どもたちからクロレンジャーと呼ばれましたが、クロレンジャーとして活動するヒーローはいたため、炭にまみれたことをコンセプトにした『スミレンジャーZ』と名乗りはじめます。

「ボランティアは自分のやりたいことなんだと改めて理解しました。その後、師匠であるベビーカーおろすんジャーは引退しました。身勝手ではありますが、その意思を継ぎたいと思い、活動を再開しました」

街を歩いていると「この前ありがとうね」「ヒーローだ!」と声をかけられることもあるそうです。「ヒーローっぽいことをしてるけど、実際は友達みたいな距離感なんですよね。笑ってくれる子がいるから続けられるんです」とスミレンジャーZは笑顔で語ります。

「誰もが輝けること」を伝える小さなご当地ヒーロー

ゴミを拾うスミレンジャーZ

スミレンジャーZの活動拠点は、東京都杉並区の方南町。かつて師匠のベビーカーおろすんジャーが活動の拠点としていた場所です。いまはその想いを受け継ぐように小さなヒーロー活動を続けています。

ゴミ拾いを中心とした清掃活動、花植えなどの環境整備、学校帰りの子どもたちへのあいさつ運動、地域の夏祭りへの参加など、「地域の一員」としての関わりを大切にしていると、スミレンジャーZは語ります。

「まずは町の名前を知ってもらいたいですね。『ヒーローがいる街だから行ってみたい』と思ってもらえるとうれしいです。それから街のイベントに訪れてくれたり、ゴミ拾いに参加してもらったら最高。ヒーローは特別な人じゃなくてもいいんです。誰かのためにちょっとだけ動く。それだけで人は輝けるし、みんながやれば社会はよくなると思っています」

スミレンジャーは自身の活動を通じて「誰もが輝ける」ことを伝えようとしています。その根底にあるのはかつて障がい者雇用で働いていたときに「社会との距離感”」や「線引き」を感じたからです。

「当時、精神障害者手帳を取得し、障がい者雇用枠で働き始めたものの、そこで表向きは『支援』といいながらも、実態は安価な労働力として扱われる場面を目の当たりにしてきました」

現在、スミレンジャーZは日本能力開発推進協会が認定する「上級メンタル心理カウンセラー」の資格取得に向けて勉強に励んでいます。ゆくゆくは精神疾患や発達障害の当事者を支援するグループを作ったり、施設の運営に携わりたいと考えています。

「教科書どおりではなく、実体験を踏まえたカウンセリングをしたいんです。そのためには地域とつながることが必要なんですよね。ただ、現状は当事者と地域は分断されています。それを少しでも変えたいんです」

取材中、スミレンジャーZは終始、困っている人や、社会に対して自分が何ができるかを考え、未来を見据えていました。この炭で汚れた色をしたスーツの背中を見た子どもたちが、「自分もやってみよう」と思ったとき、次の“小さなヒーロー”が生まれるのかもしれません。

炭まみれのヒーローは、今日もまた「ありがとう」の言葉を力に変えて街に立っています。

翌檜 佑哉ライター

投稿者プロフィール

現地取材や専門家へのインタビューを重ね、一次情報に基づいた正確でわかりやすい記事を執筆。独自の視点から社会や地域の課題を取り上げる。

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