世界各国で活躍する日本人ライター集団『海外書き人クラブ』(お世話係・柳沢有紀夫氏)

柳沢有紀夫氏|海外書き人クラブのお世話係

外資系の広告代理店でコピーライターをしていた柳沢有紀夫氏。まだインターネットも普及していなかった1990年代に先んじて海外移住し、『海外書き人クラブ』を立ち上げた。世界115カ国・350名以上(2023年9月時点)の現地に在住する日本人ライターが所属する組織を作り上げた。柳沢氏が『海外書き人クラブ』を立ち上げた背景や想いなど、深層に隠れた真相にせまる。

ー簡単にこれまでの経歴を教えてください。

社会人をはじめた頃は、外資系の広告代理店でコピーライターをしていました。結婚して子供ができたのですが、子供との接点がとれないほど忙しい仕事でした。妻は専業主婦で、子供との出来事を毎日手紙みたいにしてくれて、帰宅してからその手紙を見ることが楽しみでした。

しかし、ある時ふと思ったんです。

「なんでこんなかわいい子供の様子を父親なのに見られていないんだ」
「子育てできるのは今だけで、仕事は後でもできる」

そして、会社を辞めることにしました。妻も「いいんじゃないの?絶対面白いと思う」と賛成してくれました。

結婚するときから「リタイアしたらオーストラリアに住もうね」と妻と話していたことを思い出して、年を取っていくよりも今のうちに行った方が絶対いいと思ってオーストラリアへ行くことにしました。今となっては海外移住は当たり前のような話ですが、私は1990年代に移住したので、かなり先駆的だったと思います。永住ビザも無事取れたのですが、日本語のコピーライターとしての就職先はオーストラリアには当然ありません。そこで同じ執筆の仕事ということでフリーライターになって日本に記事を送ろうと考えました。

ー海外書き人クラブはどのように始まったのでしょうか?

フリーライターとしての実績はなかったのですが、自分がつくった広告作品のなかから文章が長めのものを様々な雑誌社へサンプルとして送っていたところ、「おもしろいから一度書いてみてください」という仕事がいくつか出てきました。そして、フリーライターとして仕事を始めました。

とはいえすべて順風満帆だったわけではありません。「日本とオーストラリアの違いのような記事を書かせてください」と雑誌社へ伝えても「それだけを単発で書いてもらう枠がない」と反応はよくありませんでした。そこで思いついたことが、世界各国のライターを集めることでした。つまり、オーストラリアと日本の違いだけだったらダメだけど、今月はオーストラリア、来月はアメリカ、再来月はフランス、韓国のように、毎月国を変えて続けられたら、枠が埋まって編集者としても取り上げやすいと考えたのです。

アイデアは良いけど、どうやって実現するかが課題でした。そもそも知り合いがほとんどいなくて悩んでいたところ、当時からよく執筆していた日本航空の機内誌の副編集長に相談に乗ってもらいました。

「そのアイデアはおもしろい!海外のいろいろなことを発信したくてもできなくて困ってる人もいっぱいいるんじゃないか」と、編集長は背中を押してくれました。彼は機内誌の副編集者だから各国のライターを知っていて、ライターを紹介してもらいました。各国の機内誌で書くようなライターだから、凄腕ばかりです。ライターが集まって組織体制になった団体が、海外書き人クラブの始まりです。

ー海外書き人クラブで現在注力していることや、柳沢さんが大事に思っていることはなんでしょうか?

海外書き人クラブを立ち上げたのは2000年。インターネットを使っている人があまりいない時代で、海外書き人クラブは先駆けのクラウドワーキングでした。知り合いからは「会社にしてみては?」と提案いただきましたが、結論、会社にはしませんでした。会社にしたら儲かる可能性は高くなりますが、ライターの皆さんへ払うお金が減ると思ったからです。

自分がライターの気持ちをよくわかっているからこそ、ライターの皆さんへ払うお金が少しでも多くなることを優先に考えてきました。

海外書き人クラブでは、「ライター同士は同じパイを食いあう一匹オオカミ。だけど力を合わせてパイ(仕事)を増やせば仲間になれる」という理念があって入会希望者にもそれを理解した上で問い合わせしてもらう流れにしています。

私たちが大切にしているのは、社会人としての常識です。立ち上げ当初に、原稿をお願いしているのに1ヶ月連絡つかないことがありました。こちらから何度も催促してやっと返ってきた返事が「すいません、本業で忙しかったんです」と。仕事を受けたら本業が何だろうが、受けたものに対して締め切りを守ることは常識だと思います。

社会人としての常識があれば、ライターとしての経験は浅くても構いません。特にライターが少ない国であれば、あなたが持っているその国の生情報っていうのは、文章の上手い下手を超越して大切なことだと伝えています。現地の話は絶対そこにいなきゃわからないし、現地にいる人でしか撮れない写真もあります。

ライターそれぞれの文章力が上達するように、仕事を通じて良いところも改善点も伝えるようにしています。いろいろな国の、いろいろな方がいて、私はそういった意味でお世話係なんですが、ちょっとしたサポートをするだけでライターとしてどんどんよくなります。

一緒に仕事をつくったら仕事が増えるじゃないですか。そういう意味で仲間になると絶対に最終的には得だから、利害関係は完全に一致していますよね。

ー海外書き人クラブの今後のビジョンを教えてください。

ライターやイラストレーターが集まる商談会に出展する柳沢有紀夫氏

海外書き人クラブのビジョンは、「日本を良くすること」です。海外に関する記事を書くときには、海外の良い点を日本へ取り入れたらどうか提案したい。「海外から見て日本は素晴らしい」という記事を書くときには、日本人としての誇りと自信を持って欲しいと思います。どちらにしても日本を良くするために情報を発信しているので、これからも引き続きやっていきます。

もうひとつは、海外書き人クラブで新たな取り組みにチャレンジしていきたいです。『海外書き人クラブ』という名称にしたのはそもそも「ライターの集まり」だからですが、仕事の領域は雑誌やウェブを本での「執筆」の領域を超えて広がってきています。

ただそれも自分がすべて考えたわけではありません。ライターやイラストレーターといったクリエイターたちが小さなブースを出して見込み客に来ていただく「クリエイターエキスポ」という商談会があるのですが、そこに来てくださる頭のいい方々が「えっ、海外在住の日本人が集まったそんな組織をやっているんですか!だったら執筆ではないんですが、こんなことはできませんか?」と、私が思ってもみなかったいろいろなことを向こうから提案してくれるんです。たとえば、海外のビデオ撮影だったり、企業の社内オンラインセミナーでの講師業みたいな話を提案いただいて、活躍のフィールドがどんどん広がってきています。

「雑誌やWebで記事を書いたり、本を書く組織」という型にハマらず、自由にチャレンジすることで、ますます面白いことができるんじゃないかと思っています。これからも様々な国々の会員たち、そしていろいろな分野のクライアントを巻き込んで、海外から日本をおもしろくしていきたいです。

(プロフィール)

「書く組織」というライターの型にハマらず海外でも活動していく日本人ライター集団『海外書き人クラブ』のお世話係・柳沢有紀夫氏
海外書き人クラブ お世話係・柳沢 有紀夫

・経歴
日本にある外資系広告会社でコピーライターをしたあと、オーストラリアに移住。そこでフリーランスのライターを始める。2000年に海外書き人クラブを結成し、以来お世話係を務める。「お世話係」という肩書きを名乗っているのは、小学校の花壇やウサギ小屋のお世話係のような気持ちで仕事をしたいから。

・実績
海外書き人クラブの仲間たちとの共著も含めて、著書多数。またペンネームの竹内雄紀名義でも小説を3冊出版。

海外書き人クラブ
https://www.kaigaikakibito.com/

柳沢有紀夫氏(日本人ライター集団『海外書き人クラブ』お世話係)が出版した著書①
柳沢有紀夫氏(日本人ライター集団『海外書き人クラブ』お世話係)が出版した著書②

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