教師は、子どもたちが「社会」を知るうえで、道しるべとなる大切な職業です。
教師という職業は、知識と教養を育む教育のプロフェッショナル。
数学、科学、文学などの教科を教えるだけでなく、生徒たちの人格形成にも深く関与します。
さらに、生徒たちが、社会を作りあげていくのですから、教師がきちんとしていないと社会全体がダメになってしまう…そういう意味で、教師が社会全体の「基盤」となっているといっても過言ではありません。
しかし、その尊敬される仕事の裏側には、教師が直面する様々な問題があることを知っていますか?
今回は、教師の仕事の重要性とともに、その「裏側」にある、年収と健康リスクについて深掘りしていきます。
「尊敬されるべき」教師という職業はどんな職業?
教師という職業は、多くの人々にとって尊敬される存在ですよね。
- 「尊敬する教員・憧れる教員に出会ったから」
- 「教えることが好きだから」
- 「子どもが好きだから」
- 「収入が安定しているから」
- 「専門分野の研究をしたいから」
といった理由で、教師を目指す方が多いようです。
みなさんも一度は教師になりたいと思ったことはないでしょうか?
しかし、教師は勉強を教えればいいというわけではないのです。
一言でいえば教師とは、小学校・中学校・高校などで生徒たちに勉強や社会のルール、道徳を教え、成長へと導く大人のことを指します。
その仕事のためには、生徒たちのお手本となり、時に厳しく、時に優しく、生徒、養育者、同僚ら教育関係者等々、様々な人々と関わっていかなければなりません。
また、教師には、教える技術や生徒とのコミュニケーションを通して、生徒の人生を変える力があります。
あなたも、先生に言われて行動を変えてみたということもあったのではないでしょうか?
もちろん、教師は高い教育的技術と人間力が求められるため、憧れだけでは難しい仕事ではあります。
しかし、正しい方向に生徒たちを導いてあげることができたら、子どもたちは大きく成長し、輝かしい未来を築くことができます。
そう。
教師は生徒の人生を通して、社会の未来を築いていく、大切な職業なのです。
教師の年収はどれくらい?
では、そんな「尊敬されるべき」教師の年収はどれくらいでしょうか?
厚生労働省の職業サイト「Job tag」によると、令和4年における小学校教師・中学校教師・高校教師の平均は以下の通りです。
- 小学校教師:平均年収739.7万
- 中学校教師:平均年収739.7万
- 高等学校教師:平均年収677.5万
順位 | 職業 | 年収(円) |
1 | 航空機操縦士 | 16,000,3100 |
2 | 医師 | 14,288,900 |
3 | 大学教授 | 10,656,600 |
4 | 法務従事者 | 9,713,900 |
5 | 管理的職業従事者 | 8,627,200 |
6 | 大学准教授 | 8,600,400 |
7 | 歯科医師 | 8,104,100 |
8 | その他の経営・金融・保険専門職業従事者 | 7,808,600 |
9 | 公認会計士・税理士 | 7,466,400 |
10 | 小・中学校教員 | 7,397,200 |
教師の実際の構成を見てみると、平均年齢が大体42〜43歳であり、大卒が90%以上と、全体的に高学歴であり、経験を積んだ方が多いことがわかります。
さらに、高校の先生になると、博士課程まで学歴を積んだ方が1割強にも達するので、知識の深さ・学歴の高さがうかがえます。
そう考えると、高校の先生の平均年収が、中学校や小学校の年収よりも低いのは意外な結果です。
しかし、これは実は次の項目で見るように、勤務時間の問題があるのです。
また、令和3年度の国税庁の調査によると、日本人の平均年収は443万と言われているので、比較的「教師」は収入に恵まれた職業といえます。
しかし、その学歴の高さや平均年齢などを考えると「妥当」な年収といえるでしょう。
参照:
国税庁「民間給与実態統計調査」
厚生労働省Jobtag「中学校教員」
厚生労働省Jobtag「小学校教員」
厚生労働省Jobtag「高等学校教員」
日本の教師の勤務時間
学校の学習環境と、教員及び校長の勤務環境に焦点を当てた大規模な国際調査である、OECD 国際教員指導環境調査(Teaching and Learning International Survey: TALIS)の第1回調査が2008年、第3回調査が2018年に行われました。
その中からここでは、日本の教師の問題点、特に仕事時間について解説します。
TALIS 2018 年調査の参加国は、以下の 48 か国・地域です。
OECD 加盟国(31か国・地域)
アルバータ(カナダ)、オーストラリア、オーストリア、ベルギー(フランドルもベルギーの一部として参加)、チリ、コロンビア(国内批准手続中)、チェコ、デンマーク、イングランド(イギリス)、エストニア、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイスランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ラトビア、リトアニア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ
OECD 非加盟国(17か国・地域)
ブラジル、ブルガリア、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、クロアチア、キプロス、ジョージア、カザフスタン、マルタ、ルーマニア、ロシア、サウジアラビア、上海(中国)、シンガポール、南アフリカ共和国、台湾、アラブ首長国連邦、ベトナム
これらの国と地域の教師の勤務時間を抜粋して表にまとめました。
国・地域 | 仕事時間の 合計(時間) | 課外活動の 指導(時間)※ | |
1 | 日本 | 56.0 | 7.5 |
2 | アルバータ (カナダ) | 47.0 | 2.7 |
3 | イングランド (イギリス) | 0.9 | |
4 | アメリカ | 46.2 | 3.0 |
OECD31か国平均 | 38.8 | 1.7 | |
EU23か国全体 | 37.5 | 1.2 | |
TALIS参加48か国平均 | 38.3 | 1.9 |
※例:放課後のスポーツ活動や文化活動
日本の教師は、勤務時間が国際比較において、突出して長いことがわかります。
そして、日本では、最近話題になっている部活動にかける時間が多いのです。
しかも、海外では、基本的に希望する先生が部活動を担当し、週によって変動はありますが、手当が時給当たり15ドルとする報告があります。
しかし、日本では自主的とはいえ、教員の部活指導義務 「全員顧問制度」があり、部活動に従事した場合の手当ては、公立学校の教師は時間外勤務をさせないことが法律に定められており、給与面では時間外勤務手当を支給しない代わりに給料に4%上乗せする対策を取っています。
そしてこれは、1966年文部省「教職員勤務状況調査」において、週当たりの時間外勤務が小学校で1時間20分、中学校で2時間30分であったことに基づいています。
現在では、運動部顧問では当時の8倍、時間外勤務していることがわかっています。
加えて、休日の部活動における支給は、2016年基準において、休日に部活動を4時間以上指導すれば、休日手当の代わりに文部科学省が定めるが定める「部活動手当」の3,000円が支払われます(なお、これらは地方自治体条例によって差異がある)。
時間外勤務が増えているのに手当も増えない。
これが教師の「やりがい搾取」といわれる、教師本来の業務負担となっているのです。
教師にもつきまとう「健康リスク」
尊敬されるべき「教師」ですが、非常に忙しい職業の一つです。
生徒たちの学力を上げるのはもちろんのこと、生徒が精神的にも身体的にも健やかになるように、日々奮闘しています。
学校全体の行事のスケジュール管理はもちろん、生徒ひとりひとりへのケア、スケジュール管理、テストの採点、宿題の管理、さまざまな生徒間のトラブルへの対処など、先生がやることは枚挙にいとまがありません。
そのため、教師もさまざまな健康リスクがあることは、多くの論文で言われています。
例えば、複数の研究をまとめた論文によると、学校の種類に関係なく、以下のような健康リスクがあるといわれています。
(%はアンケート調査で教師が健康被害を訴える確率)
- 首や背中の痛み:71~73%
- 集中力の低下や物忘れ:59~72%
- 睡眠障害:34~44%
- 頭痛:43~52%
- 内面のおちつきのなさ:29~41%
- かすみ目:25~38%
他にも、極度の疲労と倦怠感、緊張、過敏性の増加など、さまざまな健康リスクがあるといわれています。
10人中、7人の教師が首や背中の痛みを感じ、集中力の低下も半数以上、睡眠障害も3〜4割が感じているのは、かなりの健康被害といえますね。
どうして「やりがい」がありそうな教師に、ここまで多くの健康被害があるのでしょうか。
例えば、首や背中の痛みについては、特に現場で働く教師が、授業中講義でずっと立ちっぱなしであるなど、立ち仕事が多い点が挙げられています。
また、黒板を用いて講義をするときに、首を上に向けやすいことも考えられます。
他には、日本の研究によると、長時間労働によって心理的苦痛が大幅に増加するといわれています。
特に、月に45時間以上の時間外労働をしている男性では、精神的苦痛のリスクが大幅に増加しているという報告もあります。
他には、さまざな人間関係によって教師は心理的苦痛を感じやすいとされており、「燃え尽き症候群」に至る教師も少なくありません。
特に、心理的苦痛の有病率は男性 (47.8%) よりも、女性 (57.8%) の方が高いとされています。
その背景として、以下の2点が同論文ではあげられています。
- 女性は長時間労働に加えて、家事が加わり、男性よりも余分に仕事しやすいこと
- 女性にとって、長時間労働はあまり一般的ではなく、仕事と家庭の対立などの観点からよりストレスがかかる可能性があること
要するに、特に日本では、夫が欧米諸国に比べて家事に費やす時間が短いため、女性は男性よりも家庭生活の影響を強く受けやすい、ということですね。
また、教師特有の人間関係も精神的ストレスにつながります。
教師間での人間関係はもちろんのこと、生徒も含めると、教師は独自の人間関係のネットワークがあり、また社会も閉鎖的になりがちです。
また、対人サービスが基本になっています。
そのため、いろいろな場面で「気を遣う」必要があるのですね。
特に女性の場合はなおさらでしょう。
このように、尊敬されるべき「先生」ですが、さまざまな健康リスクを抱えて生徒たちのために奮闘していることが論文上でもうかがえます。
参照
Teachers’ Health. Dtsch Arztebl Int. 2015 May; 112(20): 347–356
Long working hours and psychological distress among school teachers in Japan. J Occup Health 2015; 57: 20–27
教師は「割にあう」職業か?
さて、ここまで教師という職業を見てきて、どのように感じたでしょうか?
生徒たちのために奮闘する教師という職業。
本当に尊敬します。
社会全体の水準を高めるのにも欠かせない職業だと思いますし、これからも頑張ってほしいです。
だからこそ、教師が「なりたくない」職業にならないように、みんなでもっと先生を認め、精神的負担を強いるようなことがないようにしないといけませんね。
教師の質がもっと高まり、いい人材がもっと教師になり、その教師が人を育て、社会全体がよりよい人材によってどんどん活性化される…
そんな社会になっていければよいと心から願っています。
参考文献:
1.文部科学省「令和元年度学校教員統計調査」 学校教員統計調査-令和元年度(確定値)結果の概要
2.文部科学省 令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査について
3.文部科学省 公立学校教員採用選考
4.e-stat.政府統計の総合窓口.統計で見る日本.令和3年賃金構造基本統計調査
5.教員環境の国際比較.OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書
6.文部科学省.「教師不足」に関する実態調査
7.佐野秀樹,蒲原千尋.教員ストレスに影響する要因の検討.東京学芸大学紀要2013;64:189-193
8.中澤篤史.部活動顧問教師の労働問題.日本労働研究雑誌 2017;688:85-94
9.神谷拓『運動部活動の教育学入門─歴史とのダイアローグ』大修館書店,東京,2015