なぜ大事?子どもの読書習慣

「なぜ大事?子どもの読書習慣」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

小さい頃から親に「本を読みなさい」と言われた。
そのような人はとても多いでしょう。

でも「本を読むと、どんないいことがあるのか」という問いに、自信を持ってはっきり答えることができないという人も、中にはいるかもしれません。
本を読みなさいと子どもに言ってみたものの、なんで本を読まないといけないのか?と聞き返されて、言葉に詰まってしまっては、読書習慣をつけることは難しくなるかもしれません。

そこで今回は、読書習慣をつけることでどんな効果があるのかについて、解説していきます。

日本の読書の現状

まずは今、日本人がどれだけ読書をしているのかについてみてみましょう。

国立青少年教育振興機構が実施した、子どもの頃の読書活動の効果に関する研究調査のなかで、1ヶ月に読む本の数が調査されています。
その結果、紙媒体では年代に関係なく、半数以上または半数近くが0冊、電子書籍では年代に関係なく、70%以上が0冊でした。

参照:国立青少年教育振興機構. 子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究

     2003年2009年2014年2016年
高校生58.7%47.0%48.7%57.1%
中学生31.9%13.2%15.0%15.4%
小学生9.3%5.4%3.8%4.0%
表1.不読率(1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒の割合)

この結果を見ていると、読書の習慣は放っておいてもつくというものではなく、子どもの頃からの習慣づけを行う必要があるということがわかります。

読書のもたらす効果とは

読書をすることは良いことだ、というイメージがある人は多いと思われますが、具体的にどのような効果があるのでしょうか。

この疑問に応える研究が、2015年に我が国で実施されています。
小学1~6年生の児童992名に対しての調査で、小学校の図書貸出数や本のタイトル再認テストなどから読書量を推定するテストを実施。語彙力との関係を調べたところ、読書量が多いと推定されることと、語彙力が高いことに相関があることがわかっています。

また、2015年に朝日新聞とベネッセが共同で行なった調査では、全国の高校生から社会人3,130名を対象に調査が行われています。
その結果、読書が好きな人ほど語彙力が高く、「とても好き」と答えた人と「全く好きではない」では29.5%もの差があることがわかりました。
この調査では、語彙力が後の将来にとって、非常に重要であることを示す結果も出ています。

世帯年収別の語彙力を見てみると、世帯年収が高い人ほど語彙力が高く、主観的幸福度(自分でどれだけ幸せだと思っているか)が高い人ほど、語彙力が高い傾向が見られたのです。
そして、読書をすることが多い子どもほど、コミュニケーションスキルや礼儀・マナースキルが高い傾向にあると報告されています。

参照:
Benesseことばの力、高めるカギは「第1回 現代人の語彙に関する調査」.「第1回 現代人の語彙に関する調査」
(独)国立青少年教育振興機構.子どもの生活力に関する実態調査
文部科学省生涯学習政策局青少年教育課.子供の読書活動に関する現状と論点

語彙力は単なる学力だけでなく、日頃の会話などのコミュニケーションにも関わっています。
文化庁が、言語コミュニケーションを円滑に行うためには、「正確さ」「わかりやすさ」「ふさわしさ」「敬意と親しさ」が重要であると言及しています。

その上で、円滑なコミュニケーションに必要になってくるのは、以下のような時と場合によって使い分ける言葉を選ぶことです。

専門家同士が専門用語を使って伝え合うような場合や,いわゆる若者言葉や新語,インターネット上に特有の言葉,地域の言葉などにふだんから通じている人同士のやり取りなどである。
しかし,共有するものの少ない人たちとの間では,仲間内で用いる言葉を使って意思や気持ちを伝え合おうとしてもうまくいかないことを意識し,一般に通用する言葉遣いを用いるように工夫したい。

引用元:文化庁.分かり合うための言語コミュニケーション

この能力の最も基礎となるのが語彙力であり、生きた文書の中から新しい言葉を学ぶことは、子どもから大人になり、社会生活を営む上では非常に重要であると言えます。

読書習慣をつけるには

読書習慣をつけるには、そのきっかけが必要です。
先述の朝日新聞とベネッセが共同で行なった調査では、読書が好きになったきっかけについて、「子どもの頃に本を読み聞かせてもらったこと」「身近な人が本好きだったこと」という答えを選んだ人は、語彙力が高い傾向にあるという結果が出ています。

やはり、子どもに読書習慣をつけて本を好きになってもらうには、親が本を読んだり、読み聞かせをすることが重要なのです。

まとめ

今回は子どもの読書習慣について解説しました。

小さなうちから読み聞かせで本の世界に触れることで、今後の生活の質は大きく変わります。
読書は、社会の中の一人として、周りの人とうまく関係性を作る能力を養う教育になっています。
ぜひ簡単な絵本から読み聞かせをしてみましょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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