ヤングケアラーとは?幼い心に重すぎる責任を社会全体で支えよう

「ヤングケアラーとは?幼い心に重すぎる責任を社会全体で支えよう」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

あなたは、「ヤングケアラー」という言葉を知っていますか?

ヤングケアラーとは、本来、大人が担うべき家事や家族の世話などを、日常的に行っている子どもたちのこと。
最近、日本でも注目されるようになりました。彼らは、幼い心に重すぎる責任を背負い、本来であればいろいろなことができるはずの「こども時代」を犠牲にしています。

友達と遊ぶ時間、部活に打ち込む時間、将来の夢を描く時間。
ヤングケアラーは、こうした当たり前の時間を家族の世話に費やし、ときに孤独や不安を抱えながら日々を過ごしているのです。

では、どうして今の日本でヤングケアラーという概念が叫ばれるようになったのでしょうか?

今回は、ヤングケアラーが直面する困難、そして彼らを支えるための社会全体の取り組みについて詳しく解説します。

ヤングケアラーとは?

例えば、こんな子どもたちがヤングケアラーです。

  • 身体が不自由な親のために、毎朝食事の準備や着替えの介助をしている小学生。
  • 統合失調症の母親のために、家事を一手に引き受け、幼い弟の世話もしている中学生。
  • 認知症の祖父母のために、買い物をしたり、薬を飲んだか確認したり、身の回りの世話をしている高校生。

ヤングケアラーは、一見すると「家族のお手伝い」をしているように見えるかもしれません。しかし、彼らが行っている「お手伝い」は、本来、大人が担うべき「責務」です。

本来の子どもとしてのあり方を犠牲にしたヤングケアラーの負担は非常に重く、子ども自身の成長や生活に大きな影響を与える可能性があります。

ヤングケアラーは、友達と遊ぶ時間や勉強する時間を削って家族の世話をしていて、ときには進学や将来の夢を諦めなければならないこともあります。

そう。ヤングケアラーは、社会全体で支え、守っていくべき存在なのです。

ヤングケアラーは今、日本にどれくらいいるのか?

このような話をすると「日本でヤングケアラーなんて滅多にいないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、実際は違います。非常によくある現象になりつつあるのです。

実際、令和2年に「子ども・子育て支援推進調査研究事業」により行われた調査によると、

  • 小学6年生の6.5%
  • 中学2年生の5.7%
  • 高校2年生の4.1%
  • 大学3年生の6.2%

上記の子どもが「ヤングケアラーとして世話をしている家族がいる」と答えています。

さらに大学生のなかには、「今ヤングケアラーとして働いていないが、過去にヤングケアラーとして働いていた」という人が4%いることも分かっています。

となると、どの学年においても約20人に1人くらいは「ヤングケアラー」ということになりますから、50人クラスだと2人くらいは「ヤングケアラーとして働いている」ことになります。

このように、ヤングケアラーは非常に身近にある問題なのです。

参照:こども家庭庁 支援局 虐待防止対策課「保健師×ヤングケアラー支援」~~ヤングケアラーに気づく~

ヤングケアラーになると何が問題なの?

では、ヤングケアラーになると何が問題になるのでしょうか。

日本で行われたヤングケアラーに対して、学校生活にどのような影響が生じるかというアンケート調査によると、

  • 遅刻:60.5%
  • 欠席:50.0%
  • 学力不振:18.4%
  • 友達やクラスメイトとの関係を充分に築けない/関係がよくない:18.4%

となっています。
ヤングケアラーのうち、実に約5人に1人が、学業や友達との関係に影響が出ているのです。
本来、日本はきちんとした教育を受けさせるべき義務があります。学校生活をきちんと正しく受けることは、子どもたちの正当な権利です。それを家族の世話のために犠牲にしているのは、非常に由々しきことですよね。

さらに、ヤングケアラーの問題を深刻にしているのは、「自分がヤングケアラーになっている家庭の事情を周りに話さない傾向がある」ということです。

実際、同アンケート調査で、ケアをしていることを家族以外の誰かに話したことがあるかという質問に対しては、206名中「ある」が87名(42.2%)、「ない」が112名(54.4%)となっています。

半分以上は、ヤングケアラーという重大な問題を誰にも相談に打ち明けることなく、1人で抱え込んでいるのです。さらに「ある」と答えた87名のうち、学校の先生に打ち明けているのはたった31名。35.6%しかいません。

したがって、教員がヤングケアラーを把握していない可能性は、むしろ高いといえるのです。となると、学校の先生からしてみれば、ヤングケアラーの実態を知らないわけですから、

  • 遅刻や欠席しているのは、子どもが夜更かししたりして遊んでいるからだ
  • 学業不振になっているのは、普段から勉強しないからだ

と誤った認識になりがちなのです。
ヤングケアラーが社会的に孤立しやすい環境がうかがえます。

参照:ヤングケアラーに関する文献検討(渡邉照美)

日本でもヤングケアラーの支援体制が整いはじめている

非常に深刻な問題を抱えているヤングケアラーですが、日本でも最近こうした問題に対して様々な取り組みがなされるようになってきています。

特にここ最近、ヤングケアラーの認識が大きく変わったのは、令和6年6月12日に考案された「ヤングケアラー支援の強化に係る法改正」です。

国では令和4年度予算から順次、「ヤングケアラー支援体制強化事業」等により、地方自治体での実態調査、支援体制構築などの取り組みを行ってきました。

しかし、ヤングケアラー支援に関する法制上の位置づけがないことに加えて、「誰が」「どのような」支援を行うかが明確ではなく、地方自治体によって取り組みがバラバラな状態でした。

そこで、今年から改正された法律では、子ども・若者育成支援推進法を改正し、「家族
の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象に、ヤングケアラーを明記するようになったのです。

例えば、これまでは、親の代わりに家事を担っている子どもがヤングケアラーと認められるかどうか曖昧な部分がありました。しかし、法改正後は、その状況が「過度」であると判断されれば、ヤングケアラーとして支援対象となります。

さらに、法改正を通じて

  • 支援体制の強化:国や自治体は、ヤングケアラーの実態把握や相談支援、学校との連携、福祉サービスとの連携などを積極的に行う義務を負うことになります。
  • 切れ目のない支援:改正前は18歳未満の子どもが主な支援対象でしたが、改正後は「おおむね30歳未満を中心」とされ、状況に応じて40歳未満まで支援対象となります。
  • 優先的な支援の提供:特に支援の必要性・緊急性が高いヤングケアラー(例:一人でケアを担っている、ケア時間が長時間であるなど)に対しては、優先的に支援を提供することが明確化されました。
  • 地域における連携強化:子ども・若者支援地域協議会と要保護児童対策地域協議会が連携し、ヤングケアラーへの支援を効果的に行えるよう努めることになりました。

なども記載されるようになったので、ヤングケアラーへの支援は大きく前進することになります。

参照:こども家庭庁「ヤングケアラー支援の強化に係る法改正の経緯・施行について」

デロイト・トーマツ「多機関・多職種が連携して行うヤングケアラー支援の重要性」の図
参照:デロイト トーマツ「多機関・多職種が連携して行うヤングケアラー支援の重要性」

現在、日本のヤングケアラーに対するマニュアルでは、ヤングケアラー支援において関わることが考えらえる機関や専門職等のマップを作り、それぞれが得意とする支援の内容をまとめています。

非常に多く、深刻な問題を抱えるヤングケアラーへの対処は、一つの機関でおさまる問題ではありません。1人でも多くの人がヤングケアラーを「問題」としてとらえ、みんなが支えあってヤングケアラーを支えていきたいですね。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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