【論文紹介】子どもの認知能力 そして認知症と小児喘息の関連性

「【論文紹介】子どもの認知能力 そして認知症と小児喘息の関連性」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

今回紹介する論文は、米カリフォルニア大学デービス校 心と脳センターのSimona Ghetti氏らが「JAMA Network Open」に、2024年11月に報告したものです。

小児喘息管理が子どもの認知能力、そして認知症にも関連性があるのでは?という仮説を基にした研究報告です。

論文:
Nicholas J Christopher-Hayes,Sarah C Haynes,Nicholas J Kenyon,et al.Asthma and Memory Function in Children.JAMA Netw Open. 2024 Nov 4;7(11):e2442803.
doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.42803

はじめに

喘息は、小児期に最も一般的な慢性疾患の一つであり、さらに米国の子どもの約6.5%が罹患しており、男性の間でより高い頻度で発症しています。
米国では、子どもの喘息患者数は460万人程度と見積もられていますが、喘息が小児の記憶障害と関連しているかどうかはほとんど不明です。

喘息は、4歳から12歳に発症がピークに達します。
これまでの研究では、注意力、実行機能、視覚記憶と作業記憶の困難を報告しましたが、喘息を発症する確率と、認知障害の両方に影響を与える可能性がある社会経済的要因の交絡効果は、説明されていませんでした。

エピソード記憶……つまり過去の出来事を特定の詳細に記憶する能力には、脳の海馬が重要だということです。
この能力は、小児期に大幅に成長します。したがって、喘息の発症が早い子どもは、喘息の発症が遅い子ども、また喘息のない子どもの比較グループとは対照的に、時間の経過とともに記憶の発達が遅いと考えます。私たちは、思春期の脳と認知発達研究から収集された縦断的データを活用して、喘息の子どもの記憶能力が低いかどうかを評価しました。

方法

米カリフォルニア大学デービス校の心と脳センターに在籍しているSimona Ghetti氏らは、9歳から10歳の子ども約1万1,800人を登録し、2015年に開始された思春期脳認知発達(Adolescent Brain Cognitive Development;ABCD)研究の観察データを用いて、喘息が記憶能力に及ぼす影響を縦断的および横断的に検討しています。

ベースライン時と2年間の追跡期間中に、親が喘息指標を報告した子ども(小児期早期発症群)と、2年後の追跡期間のみ喘息指標を報告した子ども(小児期後期発症群)に分類しました。

結果

縦断的な分析では、喘息のある子ども、および喘息のない子ども(対照群、平均年齢9.89歳、男子51%)237人ずつを対象とした場合、主要評価項目としたエピソード記憶は全体的に向上していたものの、早期発症群では、対照群に比べて、その向上率が有意に低かったことが明らかになりました。そして、後期発症群と対照群との間に有意な差は認められませんでした。

横断的な分析では、研究期間のいずれかの時点で喘息があった子ども(1,031人、平均年齢11.99歳、男子57%)と、喘息歴のない子ども(1,031人、平均年齢12.00歳、女子54%)が対象とした場合、喘息のある子どもでは喘息のない子どもに比べて、エピソード記憶、副次評価項目とした処理速度、抑制力、注意力の全ての指標において、スコアが有意に低いことが分かりました。

結論と考察

この研究結果は、子どもの認知能力を低下させる原因として、喘息を考慮することの重要性を強調していると示しました。

また、喘息だけでなく、糖尿病や心臓病などの慢性疾患が、子どもの認知能力に問題が生じるリスクを上昇させることに対する認識は高まりつつあります。リスクを高める要因やその保護要因について、理解する必要があるといえるでしょう。

記憶能力の低下は、長期的な影響を及ぼす可能性があるとの見方を示し、高齢者の喘息が、認知症やアルツハイマー病のリスク増大と関連付けられていることが分かりました。つまり喘息は、子どもが大人になってから、認知症のような、より深刻な病気を発症するリスクを高める可能性があるということです。

Simona Ghetti氏らは、このような記憶能力の低下は、喘息による長期にわたる炎症、あるいは喘息発作による脳への酸素供給の度重なる中断が原因となっている可能性があると推測しています。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. 落合陽一氏が手がける「null2」
    2025年大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの一つ「null²(ヌルヌル)」は、メディアアーティ…
  2. 【医師の論文解説】 精神疾患や発達障害にも 有効な音楽療法|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)
    古くから人類の娯楽として定着している音楽。この音楽に秘められた力は、いまだに全て解明しきれていないほ…
  3. 「Dialogue Theater –いのちのあかし–」の外観(1)
    2025年大阪・関西万博で、映画監督・河瀨直美氏がプロデュースするシグネチャーパビリオン「Dialo…

おすすめ記事

  1. 2024-8-22

    Mr.Childrenの所属事務所代表、谷口和弘氏に懲役2年6ヶ月の求刑 起訴内容を認める

    人気ロックバンド「Mr.Children」の所属事務所を揺るがす事件が起きました。芸能プロダクション…
  2. 「サッカーのポジションと性格の関連性 最新の論文を2つご紹介」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

    2024-12-1

    サッカーのポジションと性格の関連性 最新の論文を2つご紹介

    サッカーで、ピッチ上の各ポジションには、常にゴールを狙うフォワードや、最後の砦としてチームを支えるゴ…
  3. 東京報道新聞が取材した青森刑務所でムショ飯の献立を考える管理栄養士さん

    2024-1-29

    刑務所の食事ってどんなもの?青森刑務所の管理栄養士に聞く令和の「ムショ飯」

    刑務所の中の食事というと、”臭い飯”というイメージを持っていた人もいるかもしれませんが、最近では「務…

2025年度矯正展まとめ

2024年に開催された全国矯正展の様子

【募集】コンテスト

ライティングコンテスト企画2025年5-6月(大阪・関西万博 第2回)募集|東京報道新聞

インタビュー

  1. 「境界知能の僕が見つけた人生を楽しむコツ」という本を出版したなんばさん
    境界知能とは、IQの平均85〜110に届かず、知的障害(IQ70以下)にも該当しない、IQ71〜84…
  2. 「とかちむら」社長室長・小松さん
    十勝観光の新定番「とかちむら」の今と未来。社長室長・小松氏が語る、地域活性化への熱い想いと具体的な取…
  3. 障がい者支援施設では、暴力事件や突発的な問題行動などさまざまなことが起き、最悪の場合は逮捕されること…

アーカイブ

ページ上部へ戻る