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今回紹介する論文は、米カリフォルニア大学デービス校 心と脳センターのSimona Ghetti氏らが「JAMA Network Open」に、2024年11月に報告したものです。
小児喘息管理が子どもの認知能力、そして認知症にも関連性があるのでは?という仮説を基にした研究報告です。
はじめに
喘息は、小児期に最も一般的な慢性疾患の一つであり、さらに米国の子どもの約6.5%が罹患しており、男性の間でより高い頻度で発症しています。
米国では、子どもの喘息患者数は460万人程度と見積もられていますが、喘息が小児の記憶障害と関連しているかどうかはほとんど不明です。
喘息は、4歳から12歳に発症がピークに達します。
これまでの研究では、注意力、実行機能、視覚記憶と作業記憶の困難を報告しましたが、喘息を発症する確率と、認知障害の両方に影響を与える可能性がある社会経済的要因の交絡効果は、説明されていませんでした。
エピソード記憶……つまり過去の出来事を特定の詳細に記憶する能力には、脳の海馬が重要だということです。
この能力は、小児期に大幅に成長します。したがって、喘息の発症が早い子どもは、喘息の発症が遅い子ども、また喘息のない子どもの比較グループとは対照的に、時間の経過とともに記憶の発達が遅いと考えます。私たちは、思春期の脳と認知発達研究から収集された縦断的データを活用して、喘息の子どもの記憶能力が低いかどうかを評価しました。
方法
米カリフォルニア大学デービス校の心と脳センターに在籍しているSimona Ghetti氏らは、9歳から10歳の子ども約1万1,800人を登録し、2015年に開始された思春期脳認知発達(Adolescent Brain Cognitive Development;ABCD)研究の観察データを用いて、喘息が記憶能力に及ぼす影響を縦断的および横断的に検討しています。
ベースライン時と2年間の追跡期間中に、親が喘息指標を報告した子ども(小児期早期発症群)と、2年後の追跡期間のみ喘息指標を報告した子ども(小児期後期発症群)に分類しました。
結果
縦断的な分析では、喘息のある子ども、および喘息のない子ども(対照群、平均年齢9.89歳、男子51%)237人ずつを対象とした場合、主要評価項目としたエピソード記憶は全体的に向上していたものの、早期発症群では、対照群に比べて、その向上率が有意に低かったことが明らかになりました。そして、後期発症群と対照群との間に有意な差は認められませんでした。
横断的な分析では、研究期間のいずれかの時点で喘息があった子ども(1,031人、平均年齢11.99歳、男子57%)と、喘息歴のない子ども(1,031人、平均年齢12.00歳、女子54%)が対象とした場合、喘息のある子どもでは喘息のない子どもに比べて、エピソード記憶、副次評価項目とした処理速度、抑制力、注意力の全ての指標において、スコアが有意に低いことが分かりました。
結論と考察
この研究結果は、子どもの認知能力を低下させる原因として、喘息を考慮することの重要性を強調していると示しました。
また、喘息だけでなく、糖尿病や心臓病などの慢性疾患が、子どもの認知能力に問題が生じるリスクを上昇させることに対する認識は高まりつつあります。リスクを高める要因やその保護要因について、理解する必要があるといえるでしょう。
記憶能力の低下は、長期的な影響を及ぼす可能性があるとの見方を示し、高齢者の喘息が、認知症やアルツハイマー病のリスク増大と関連付けられていることが分かりました。つまり喘息は、子どもが大人になってから、認知症のような、より深刻な病気を発症するリスクを高める可能性があるということです。
Simona Ghetti氏らは、このような記憶能力の低下は、喘息による長期にわたる炎症、あるいは喘息発作による脳への酸素供給の度重なる中断が原因となっている可能性があると推測しています。