深刻な問題を抱えるヤングケアラー 医療の視点から見た現状と課題

「深刻な問題を抱えるヤングケアラー 医療の視点から見た現状と課題」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

ヤングケアラーとは、家族の介護や世話といった、本来子どもが担うべきではない責任を背負っている人たちのこと。本来背負うべきできない家族の仕事を担い、本来の子どものあり方から外れた結果、ヤングケアラーは心身の健康、学業、そして社会的な人間関係において、深刻な影響を受けています。

ヤングケアラーは決して珍しい現象ではありません。
最近の調査では、中学2年生の約5.7%、高校2年生の約4.1%がヤングケアラーである可能性が示唆されています。これは、決して少なくない数字です。しかもヤングケアラーの約半数は、誰にも相談できずに一人で悩みを抱え込んでいるのです。

自分の本来の仕事に加えて、時間を作って家族の介護や世話をしているのですから、当然自身の健康管理もおろそかにしがちです。定期的な健康診断や予防接種を受けられない、病気になっても医療機関を受診できないなどの問題も生じるかもしれません。

今回、ヤングケアラーについて、医療的な側面からの問題点を浮き彫りにしつつ、ヤングケアラーの支援をどうすべきか、意見を述べていきます。

ヤングケアラーは健康面にも大きな問題点がある

ヤングケアラーを医療的な側面から考えるうえで、まず知っておいてほしいのは「ヤングケアラーは精神面だけでなく身体面でも大きな問題を抱えている」ということです。ここではヤングケアラーと考えられる児童の割合を表にしました。

     世話をしている
家族がいる割合
小学6年生6.5%
中学2年生5.70%
高校2年生4.10%
大学3年生6.2%
表.児童の学年と世話をしている家族がいる割合(厚生労働省. 2020年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)

「若いころには苦労すべきだから」などで済まされる問題ではありません。

実際、2022年に報告された25件の厳選された研究をまとめた論文によると、ヤングケアラーは介護をしていない同年代の人よりも、以下のような健康的な影響があることがわかっています。

  • 自己申告による健康状態の悪化:複数の研究で、ヤングケアラーは自身の健康状態を「悪い」と評価する傾向が強いことが報告されています。特に、週20時間以上のケアを提供しているヤングケアラーにおいて、健康状態の悪化が顕著に見られます。
  • 身体症状の増加:ヤングケアラーは、睡眠障害、頭痛、疲労感、腰痛などの身体症状を訴える頻度が高いことが報告されています。これらの症状は、慢性的なストレスや睡眠不足、身体的な負担などが原因と考えられます。
  • 慢性疾患のリスク増加:長期にわたるケアの負担は、喘息や乾癬、胃や消化器系の問題、排尿や膀胱の問題などの慢性疾患のリスクを高める可能性も指摘されています。

これらはいずれも18歳以下の子どもたちの話です。未来を担う子どもたちの健康を害してまで行われる介護とは、一体なんなのでしょうか。

参照
The mental and physical health of young carers: a systematic review. the lancet public health. Volume 7, Issue 9e787-e796September 2022

ヤングケアラーが健康的であるために必要な「5つの要素」

では、ヤングケアラーが健康的に暮らせる方法はないのでしょうか。

2023年の日本の論文によると、ヤングケアラーがケアという大きな責任を担いながらも、健康的かつ前向きに生きていくために必要な「答え」として、以下の5点をあげています。

①親子としての関わりが良好である

ケアが必要な家族との関係が、ケアラーとしての役割に限定されないことが重要です。

親子の絆や愛情を感じられるふれあいやコミュニケーションを大切にすることで、子どもは安心感を得て、自己肯定感を育むことができます。

そのため、例えば、以下の2点のような取り組みが大切です。

  • 病気の親であっても、一緒にご飯を食べたり、他愛もない話をする時間を設ける。
  • 子どもの学校行事や趣味活動に参加したり、応援したりする。

②家族内での協力体制をつくる

ケアを家族全員で分担し、協力し合う環境が必要です。

一人で抱え込まず、お互いを支え合うことで、ヤングケアラーの負担を軽減し、精神的な安定を図ることができます。

例えば、以下の3点のように責任を分散させることは必要条件です。

  • 兄弟姉妹で家事を分担する。
  • 祖父母に子供の世話をお願いする。
  • 親戚や近隣住民に協力を求める。

③家族以外の人との繋がりをつくる

家族以外に悩みや不安を打ち明けられる存在がいることは、ヤングケアラーの孤立を防ぎ、精神的な支えとなります。友人、学校の先生、相談機関など、信頼できる大人との繋がりを持つことが重要になってきます。

実際、半分の人は他の人に相談することができていません。すると、自分の中で鬱々とした感情が募り、健康状態にも出てきます。

例えば、以下の3点のように家庭内だけで解決しようとしない姿勢が大切です。

  • 学校の先生に相談する。
  • 地域のyouth clubに参加する。
  • オンラインコミュニティで同じ境遇の仲間と交流する。

④ケアを受ける側が、積極的に社会参加をする

ヤングケアラーが孤立しないためにも、むしろ気をつけたいのが「ケア」を受ける側です。

ケアを受ける側が、社会との繋がりを持ち、役割や生きがいを感じられる機会を持つことで、ヤングケアラーが「自分がなんとかしなくちゃ」という強い責任を持つことを回避します。

そのため、ケアを受ける側が以下の2点のようなことも、ヤングケアラーの負担を減らすことにつながります。

  • 可能な範囲で仕事やボランティア活動に参加する。
  • 趣味のサークルや地域活動に参加する。

⑤自分自身の時間とやりたいことを持つ

ヤングケアラーであっても、自分自身の時間を持つこと、そしてやりたいことに集中できる環境が確保されることが重要です。趣味や勉強、友人との交流など、子どもらしい経験を通して、自己肯定感や将来への希望を持つことができます。

このように見てみると、なかなか実行できない家庭の事情はあるかもしれませんが、

周りの支援や、本人の発信の仕方次第で「青春をつぶした」という事態を回避できるかもしれません。

ヤングケアラーへの日本の対応は発展途上

ヤングケアラーに対して、日本でもさまざまな支援が始まってきていますが、まだ発展途上な部分も多く存在します。

ヤングケアラーが健康的に暮らせるためにも、まずは周りの人がヤングケアラーを気遣って、自分自身でも発信して前向きな生活に送れるようになってほしいですね。

参照
ヤングケアラーの健康的で前向きな生活を支える要因の検討―複線径路・等至性モデルを用いて ―. リハビリテイション心理学研究 2023,49(1)31-42

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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