医療現場のハラル対応 カプセルや軟膏の動物由来成分に要注意な現状と解決策

医療現場のハラル対応

日本の医療機関でも在留外国人や観光客の増加に伴い、イスラム教徒の患者さんをお迎えする機会が増えています。病院食でのハラル対応への理解は少しずつ浸透していますが、意外と知られていないのが薬に関する問題です。普段処方される薬の中には、イスラム教で禁じられている豚由来の成分が含まれていることがあります。

今回は、医療現場におけるハラル対応の現状と、安心して治療を受けていただくための選択肢についてお話しします。

医療とハラル(Halal)の関係

ハラル制度は、イスラム教徒にとって重要な制度です。ハラルとは「許されている」ということを指し、反対語のハラムは「禁じられている」ことを指しています。特に豚は不浄なものとされ、豚肉そのものはもちろん、豚由来の食品添加物や成分を口にすることも禁じられています。

現在、食品分野では対応が進んでいますが、医療用医薬品においては、基準が厳格なためハラル認証を取得しているものが少ない状態です。というのも、ハラル認証とは単に禁止成分を含まないだけでなく、製造環境やプロセス全体も清浄であることを保証する品質基準でもあるからです。

動物由来成分およびアルコールは医薬品において多岐にわたる

豚由来成分で問題になりやすい医薬品は、多岐にわたっています。同じような効果を持つ薬でも、製剤上の工夫で他の成分で作られた代替薬が存在する場合があります。

1.内服薬からワクチンまで。多岐にわたる動物由来成分

医薬品製造において、動物由来の成分は意外なほど多く使われています。東京北医療センターが公開している「牛豚原料含有薬品データブック」によると、内服薬、外用薬、そしてワクチンをはじめとする注射剤など、多岐にわたる医薬品に牛・豚・乳糖水和物(乳)・ゼラチン(骨)が使用されています。例えば、保湿剤のヒルドイドも、豚由来成分が含まれている製品です。

外見からは判別がつかないため、患者さん自身が気づかずに服用・使用してしまうリスクがあります。添加物情報は添付文書よりも詳細なインタビューフォームに記載されていることが多いですが、企業独自のノウハウや企業機密に関わることもあるため、記載されていない場合もあります。その際は、製薬会社に問い合わせて確認することが可能です。

2.ハラル認証の医薬品 動物由来やアルコールなど禁止成分ではない薬という選択肢

ハラル(ハラール)認証とは、宗教と食品衛生の専門家(ハラル認証機関)が検査を行い、製品がハラルであることを保証する制度です。認証マークのある製品は、豚やアルコールなどの禁止成分が含まれていないことだけでなく、製造環境・品質・プロセスを含む全てがイスラム法に則り基準をクリアしていることを意味します。そのため、ムスリムの方々にとって「安心・安全な製品」を見分ける重要な判断材料となります。

原則としてアルコールを含む製品はハラル認証を取得できません。製造過程でアルコールを使用することの多い日本の医薬品において、ハラル認証付きのものを探すのは現時点では非常に困難です。だからといって治療を諦める必要はありません。現時点では「ハラル認証薬」を探すのではなく、「豚由来ではない薬(代替薬)」を探すというアプローチが有効です。同じような効果を持つ薬でも、製剤上の工夫で植物由来や化学合成由来の成分で作られた代替薬があります。

植物由来や化学合成由来の成分で作られた代替薬の例は、以下のとおりです。

  • ネキシウムカプセル(植物由来のヒプロメロース)
  • アリセプト内服ゼリー(海藻由来のカラギーナン)
  • イソソルビド内服ゼリー(カンテン)など

薬の選択肢は一つではないこともあり、医師や薬剤師が成分を確認し、豚由来を含まない薬を選定できる場合があります。

医療現場におけるハラル対応 緊急時には、明確に禁じられているわけではない?

代替薬がない場合や、緊急を要する救命処置の場合、コーラン(クルアーン)には「緊急避難的な許容」の概念があります。また、主要なイスラム教の国の一つであるマレーシアの当局者より、「現段階では病気という緊急時に動物由来のゼラチンを用いた非ハラル医薬品の使用をはっきりと禁じているわけではない」とのコメントもあります。

しかし、この概念は、医療者が「治療のためだから仕方ない」と一方的に決めてよい理由にはなりません。基本的には患者さんの倫理的・宗教的背景(Preferences)を尊重し、対話することが重要です。医療従事者は、「なぜこの薬が必要なのか」「どのような成分が含まれているか」を対話し、患者さんご自身が納得して治療方針を決定できるプロセスを重視します。

ハラルについて悩まず診察室で相談しましょう

薬には豚由来成分が含まれることがありますが、植物由来などの代替案を提案できるケースは多くあります。患者さんの宗教を含む価値観や不安に寄り添い、可能な限りご希望に沿った処方を検討することは可能です。受診の際は、お薬手帳を持参いただくとともに、診察時に「宗教上の制限がある」と一言お伝えください。安心して治療に取り組めるよう、一緒に考えましょう。

参考文献:
東京北医療センター.牛豚原料含有薬品データブック.
ハラル(ハラール)認証とは
よくあるご質問 | 一般社団法人日本ハラール認定推進機構
医療問題研究会. くすりのコラム 宗教と薬(NEWS No.518 p08)
イスラム教徒患者さんの食事制限と動物由来製剤
イスラム教徒が飲めない薬?宗教上の理由で飲めない薬
Lena Tieu,Jasmine Uchi,Nirva Patel,et al.Embracing Medication Needs of Patients based on Ethical, Dietary, and Religious Preferences.Am J Lifestyle Med.2022 Oct 30;18(3):351-363.
中田雄一郎. 医薬品とハラル制度

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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