日本自動車産業「100年に一度」の大変革|EVシフトにどう向き合うか

日本の自動車

世界的なEVシフトが叫ばれる中、日本市場では電気自動車の普及が思うように進んでいません。国内乗用車におけるEV販売比率は2023年に1.66%まで上昇したものの、2024年には1.35%へと後退しました。

2025年に入っても状況は好転せず、1〜4月の累計で約1.3%と低水準が続いています。世界最大の自動車メーカーであるトヨタも、2026年のEV生産計画を当初より3割減の100万台程度に見直す方向で調整を進めているとされます。

「100年に一度の変革期」と称されるこの局面で、日本の自動車産業はどのような選択を迫られているのでしょうか。

<目次>

日本のEV普及率はなぜ伸び悩んでいるのか

EVのミニカーを持つ男性

日本国内でEVがなかなか広がらない理由は、複数の要因が絡み合って消費者の購買意欲を抑えています。

まず挙げられるのが、車両価格の高さです。ガソリン車やハイブリッド車と比較すると、同クラスのEVは数十万円から100万円以上高くなるケースも珍しくなく、国や自治体の補助金を活用しても初期費用の負担感は依然として大きいのが実情です。

また、充電インフラの問題も関係しています。2025年3月末時点で、日本国内の公共用充電スタンドは約4万3,000口です。

政府は2030年までに30万口への拡大を目標に掲げていますが、現状ではガソリンスタンドのような手軽さには程遠い状況です。特に地方部では充電スポットが限られ、長距離移動への不安が購入をためらわせる一因になっています。

航続距離に対する懸念も根強く残っており、最新のEVは500キロ以上走れる車種も増えてきましたが、「充電切れが心配」というイメージはまだ払拭されていません。

冬場にはバッテリー性能が低下することも、寒冷地のユーザーにとっては気がかりな点でしょう。

加えて、日本ではハイブリッド車が非常に高い完成度を誇っています。燃費性能に優れ、ガソリンスタンドで給油できる手軽さもあり、「わざわざEVに乗り換える必要があるのか」という声は少なくありません。

2024年の普通乗用車販売において、ハイブリッド車のシェアは61%を超えました。すでに電動化の恩恵を受けている消費者にとって、EVへの移行は切迫した課題として映りにくいのかもしれません。

トヨタが選んだ「全方位戦略」の真意

TOYOTAの東富士研究所

世界の自動車メーカーがEVシフトを加速させる中、トヨタは独自の道を歩んでいます。EV一辺倒ではなく、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、そしてEVの全てを並行して開発する「全方位戦略」を掲げているのです。

2024年1月、トヨタの豊田章男会長は「東京オートサロン2024」の場で「カーボンニュートラルは電気自動車だけではない」と明言しました。

「エンジンにはまだ役割がある」との考えを示し、エンジン開発の新規プロジェクトを立ち上げることも発表しています。

この姿勢の背景には、地域ごとに異なるエネルギー事情への配慮があります。再生可能エネルギーが豊富な国ではEVが最適解かもしれませんが、電力の多くを火力発電に頼る地域では、製造から廃棄までのライフサイクル全体で見たときにEVが必ずしも環境に優しいとは限りません。

多様な選択肢を用意することで、あらゆる市場のニーズに応えようというわけです。

また、雇用の問題も無視できません。豊田章男会長は「(日本の自動車業界で働く)550万人の中にはエンジン部品を造っている仲間も多い」と語り、産業構造の急激な転換がもたらす影響への懸念を示しました。

EVはガソリン車に比べて部品点数が大幅に少なく、サプライチェーン全体に波及する影響は計り知れないものがあります。

もっとも、トヨタがEVを軽視しているわけではありません。次世代電池として期待される全固体電池の開発を進めており、2027年から2028年頃の量産開始を目指しています。

従来のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高く、充電時間の短縮も見込めるこの技術が実用化されれば、EVの弱点とされてきた課題の多くが解消される可能性があります。

世界で進むEVシフト|足元の減速と長期トレンド

充電するEV

日本の状況とは対照的に、世界全体ではEVの販売台数は着実に伸びてきました。国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2025」によれば、2024年の世界におけるEV・PHEV販売台数は約1,750万台に達し、新車販売全体の22%を占めるまでになっています。

ただし、2024年以降は成長の鈍化も見られます。米国では2025年1〜3月のEV販売シェアが約7.5%と、前年の8.1%からやや後退しました。

トランプ政権の復帰により、EV購入支援策の見直しや環境規制の緩和が進められており、先行きは不透明な状態です。ホンダは2025年5月の決算説明会で「アメリカにおけるEVシフトは(当初の想定より)5年遅れている」との見解を示しました。

欧州も一枚岩ではありません。ドイツではEV購入補助金が2023年末に前倒しで終了し、販売の伸び悩みが顕著になっています。

2025年1〜3月の欧州全体のEV販売シェアは約17%と回復傾向にあるものの、自動車メーカーからはCO2排出規制の緩和を求める声が上がっています。

対照的に中国市場は堅調です。2024年のEV販売シェアは約24.6%に達し、2025年1〜3月には25.8%までさらに上昇しました。政府の強力な支援策と、BYDをはじめとする国内メーカーの価格競争力が普及を後押ししています。

ただし、激しい値下げ競争がどこまで持続可能なのかは、注視が必要なところでしょう。こうした足元の減速にもかかわらず、長期的なトレンドが変わるとは考えにくいというのが大方の見立てです。

日本メーカーは変革期をどう乗り越えるか

HONDAの看板

トヨタ以外の日本メーカーも、それぞれの戦略でこの変革期に臨んでいます。

ホンダは2040年までに新車販売を全てEVと燃料電池車に切り替える目標を掲げてきました。しかし米国市場の変調を受けて、次世代ハイブリッド技術の強化にも力を入れる方針へとシフトしています。

軽自動車では、2025年中に「N-ONE」をベースとした軽EVの投入を計画しており、手頃な価格帯での選択肢拡大を狙っています。

日産は経営再建とEV戦略の推進を同時に進めなければならない難しい局面にあります。軽EVの「サクラ」は発売当初こそ好調でしたが、2024年の販売台数は前年を下回りました。次世代電池の開発では2028年度の量産化を目指しています。

各社に共通するのは、単純にEVへ全振りするのではなく、市場の動向を見極めながら柔軟に戦略を調整する姿勢です。

足元ではハイブリッド車の需要が根強いことを踏まえ、収益の柱を維持しつつ次世代技術への投資を続けるという、バランスの取れたアプローチが求められています。

まとめ

充電するEVとソーラーパネル

内燃機関から電動化への移行は、自動車産業の構造そのものを根底から変える可能性を秘めています。部品メーカーからディーラー、整備工場に至るまで、サプライチェーン全体が影響を受けることは避けられません。

日本のEV普及率は現時点で世界の主要国と比べて低い水準にとどまっています。しかしそれは、ハイブリッド技術で先行してきた日本市場特有の事情でもあります。

消費者にとって魅力的なEVが増え、充電インフラが整備され、価格が手の届きやすい水準になれば、状況は変わりうるでしょう。

世界の潮流を見据えながらも、日本の強みを活かした独自の道を切り拓けるかどうか。その答えは、これからの数年間で明らかになっていくはずです。

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