一夜漬けは結局無駄になる?記憶の脳科学から見た効果的な睡眠時間

「一夜漬けは結局無駄になる?記憶の脳科学から見た効果的な睡眠時間」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

「試験が迫ってきたけど、まだ十分に勉強ができていないから徹夜で勉強する」

そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
実はこの一夜漬けには、非常に大きなデメリットがいくつもあり、決しておすすめできない勉強法なのです。

今回は、なぜ一夜漬けを避けるべきなのかを解説していきます。

一夜漬けを避けるべき理由①:試験当日のパフォーマンスが落ちる

一夜漬けで勉強すると、当然ながら睡眠をほとんど取らないことになります。
睡眠不足が体に与える影響は、みなさんが想像するよりもかなり大きなものなのです。
睡眠を削ることで、集中力や注意力、判断力といった試験に必要なパフォーマンスは、軒並み低下することが知られています。

ドイツのリュベック大学の研究では、以下のような報告がされています。

集まった被験者に、超難問と言われるような難しい問題を見せます。
その後、被験者を2つのグループに分けます。

  1. 8時間睡眠を取ってから問題を解いたグループ
  2. 8時間徹夜で勉強してから解いたグループ

正解率が高いのは、一夜漬けで勉強した方と思いがちですが、実は睡眠を取ったグループの正解率は60%、徹夜したグループは20%という結果になったのです。

徹夜で知識を詰め込むと、単純な暗記はできるのかもしれませんが、睡眠不足のためにその知識をうまく使うことができなくなったり、ひらめきが必要な問題に極端に弱くなったりと、デメリットが非常に多いのです。
ケアレスミスも当然多くなるため、試験を一夜漬けでなんとかしようとするのは、かなりリスクの大きい行為であると言えるでしょう。

一夜漬けを避けるべき理由②:記憶が定着しない

みなさんは、「エビングハウスの忘却曲線」をご存じでしょうか。

これは、ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが発表した研究です。
人が何かを学んだ時に、時間経過でどれだけ学んだ内容を忘却するのかを表した曲線です。

被験者に無意味な音節を記憶してもらい、時間と共にどれだけ忘れるかを数値化しています。
この曲線を見てみると、学習してからの記憶保持率は、学習20分後に58%となっていました。
つまり、人は丸暗記によって知識を詰め込むと、20分で42%の情報を忘れてしまうのです。
その後も、時間と共に知識はどんどん失われていき、丸一日経つ頃には33%しか残らないのです。

「エビングハウスの忘却曲線」(作成:秋谷進)
※筆者作成により無断複製・無断転載禁止

このデータを見るにあたって重要なポイントがあります。
それは、このデータは意味のない音節を覚えたときのデータということです。

例えば、「”なあしあくね”という言葉を覚えてください」と言われたときを考えてみます。

意味がわからないから、そのまま覚えるしかありませんね。
この文字列が、1日後に頭に残っている自信のある人は少ないと思われます。
このような内容は、頭にも残らず記憶しづらいのです。

では、こちらはどうでしょう。
「田中さんは新幹線に乗って東京を経由して京都に行った」

文字数では「なあしあくね」より圧倒的に多いですが、こちらの方が圧倒的に覚えやすいと思います。
つまり、私たちの脳は、ある知識が意味を持って理解できるとき、圧倒的に記憶しやすくなるのです。

一夜漬けでは、多くの情報を無意味な文字列として覚えなくてはなりません。
また、一度忘れたものを反復して覚えることもできません。

毎日コツコツ勉強していると、「あ、昨日勉強した知識にはこんな意味があったのか」という感じに、知識の意味づけがなされたり、「あ、これは忘れていた、ちゃんと覚えておこう」というように反復学習ができりするため、しっかりと記憶に定着するのです。

勉強のために日頃の睡眠時間を削るのは無意味?

少し前には「四当五落」という言葉がありました。

これは、4時間しか寝ずに勉強している人は合格して、5時間以上ねると不合格になるという意味で、昔の受験戦争と呼ばれる時期に流行した言葉です。
今ではあまり聞きませんが、実際はどうなのでしょうか。

精神論的には、これくらい勉強できる熱意のある人は受かるのかもしれませんが、科学的には全くのデタラメと言っていいでしょう。
効率的な学習のためには、6時間睡眠でも足りないことが分かっています。

ペンシルベニア大学の研究では、6時間睡眠を14日継続すると、48時間徹夜したのと同じくらい脳の認知機能が低下することが分かったのです。
これは、日本酒を1~2合飲んだ場合と同じくらいの状態といわれます。
そのような状態で受験勉強をして、良い成績など取れるはずもありません。
実際、多くの研究で、睡眠時間をきっちりとる方が学業成績は優れていることが証明されています。

短絡的に睡眠時間を削るより、はじめにきっちりと計画を立てることこそが、学業を上昇させる最大の秘訣といえるでしょう。

一夜漬けよりも8時間睡眠で計画的に勉強する

今回は、学習効果と睡眠の関係について解説していきました。

「四当五落」と言われていたのも今は昔。
今はむしろ、6時間以内の睡眠時間では落ちて、8時間寝ると受かる「八当六落」であることが分かっています。

しっかり寝て、しっかり勉強することで、記憶にも定着しますし、なにより勉強することが好きになります。
しっかり勉強してほしい気持ちもあるかと思いますが、それと同じくらい睡眠は大切なのです。

参考文献:
1.Susanne Diekelmann,Christian Büchel, Jan Born,Björn Rasch. Labile or stable: opposing consequences for memory when reactivated during waking and sleep. Nat Neurosci. 2011 Mar;14:381-386. doi: 10.1038/nn.2744. Epub 2011 Jan 23
2.Ullrich Wagner,Steffen Gais,Hilde Haider,et al. Sleep inspires insight. Nature. 2004 Jan 22;427:352-355. doi: 10.1038/nature02223
3. Ebbinghaus, H.著.宇津木保訳. Über das Gedächtnis. Leipzig: Dunker und Humbolt. 記憶について : 実験心理学への貢献,東京.誠信書房 1978
4.Hermann Ebbinghaus. Memory: A Contribution to Experimental Psychology. Ann Neurosci. 2013 Oct; 20(4): 155–156.doi: 10.5214/ans.0972.7531.200408
5. Hans P A Van Dongen, Greg Maislin, Janet M Mullington,et al. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003 Mar 15;26(2):117-26. doi: 10.1093/sleep/26.2.117

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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