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患者さんの怪我や病気を治して健康を維持する。
皆さんが、医師の仕事として、最初に思い浮かべる内容かと思います。
その治療に使う薬剤や治療法は、こうしている間にもアップデートされており、常に新しい薬剤や治療法が開発されているのです。
しかし、新薬にはより良い治療効果が期待できる一方で、思わぬ副作用が出現する可能性もあります。
ネットでも「治験」は「高額バイト」「高額報酬」などの検索ワードが順位高く見つかります。
さて、新しい治療が本当に今までの治療よりも優れているのか?安全性は大丈夫なのか?それを確認するために行う臨床試験を治験と言います。
「治験になりますが、新薬を使ってみるしかありません」
ドラマで聞いたことがあるセリフかもしれません。
しかし、治験では医師も患者も新しい治療を受けているのか?
それともプラセボなのか?すらわからない二重盲検試験があるのです。
二重盲検試験で、プラセボ群に割り振られた場合に標準治療はストップするの?
そのような疑問に答えるため、今回は新しい治療が開発され、世に出されるまでの治験について解説していきます。
新しい治療が承認されるまでの流れ
新しい治療(今回は薬をメインに解説します)を開発する時の流れを見ていきましょう。
まずは、薬になりそうな新しい物質を探したり、合成したりして、新しい物質を作るところから開発が始まります。
そうして作り出したり、見つけ出されたりした、物資の物理的・科学的な性質を調べる研究が行われます。
その後、動物実験などで新しい物質が、体のどのような部分に、どのような影響を与えるのか。毒性があるのか、などの新しい薬剤の性質を調べていきます。
そこまでの研究を実施して有効性がありそうで、かつ安全であると思われる物質については治験が行われ、薬として承認できるものか確認していきます。
要するに治験とは、新しい薬になる可能性のある物質を、実際に人に投与してその有効性や安全性を確かめる臨床試験のことをいうのです。
この治験にはI〜III相の試験があり、第I相試験では少数の健康な成人について、安全性や薬物が体の中でどのように代謝されるかを調べる試験です。
第II相試験では、開発中の新薬が、ターゲットにしている疾患を持つ患者さんに投与を行いますが、被験者は少数で行います。
有効性と安全性を確かめます。
第III相では、さらに多くの患者さんに投与を行い、いままでの標準治療を比較して、より有効なのか、安全かを確かめる試験です。
これらの試験で有効性が確認され、国による承認審査をクリアすると、新薬として治療に活用されるのです。
治験に影響を与えるプラセボ効果とその対処
ある病気に対して新しい薬剤が効果的かどうか調べるとき、多くの場合、現状で有効性を確認されている治療である「標準治療」と「新薬による治療」を比較します。
標準治療より、新薬による治療の有効性が高く、安全性も悪くないことがわかれば、新しい治療が新たな標準治療となります。
つまり、今までの治療と新しい治療のどちらが有効かを調べるのです。
この治験を行うとき、集まった患者さんたちを2つのグループに分けて、一方には標準治療を、もう一方には新しい治療を行います。
そして、どちらのグループが治療効果が高かったかを確かめるのです。
ここで問題となるのが、「プラセボ効果」です。
ある薬を飲んだと患者の思い込みにより、実際には薬を飲んでいないのにも関わらず、病気の症状が改善したように感じることがあります。
これをプラセボ効果といいます。
治験では、新しい治療を受けていると患者が思い込むことで、実際には新しい治療に標準治療を上回る効果がなくても、より症状が改善したと思い込むことで、治験の結果が過大評価されてしまうのです。
そこで、プラセボなどを使い、2つのグループで飲む錠剤の数を同じにして、患者は標準治療と新しい治療のどちらを受けているか、わからない状態で治験を受けるのです。
それにより、プラセボ効果を排除した正しい評価をすることができるのです。
このような手法を、「盲検法」といいます。
治験における二重盲検法とは
治療を受ける患者さんに、「標準治療」か「新しい治療」のどちらを受けているかわからないようにする盲検法ですが、現在の治験は、それに加えて、治験を行っている医療機関のスタッフも、どの患者さんがどちらの治療を受けているのかわからない状態で治験を行う「二重盲検法」という手法が一般的です。
治験を行うスタッフが、新しい治療を受けている患者さんを把握していると、新しい治療に良い効果が出てほしいと思うあまりに、患者さんの治療の経過を過大評価したり、新しい治療を受ける患者さんへの生活指導などを熱心に行うなどして、新しい治療に有利な条件を作ってしまうことがあるためです。
そのため、患者さんの各グループへの割り付けをコンピューターでランダムに行い、どの患者にどの治療を行うかについては、第三者が管理するという、「二重盲検無作為化比較試験」という試験が現在の治験ではスタンダードになっているのです。
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治験で新しい治療のグループに入らなければ無治療になる?
治験の際に、新しい治療を受ける群に入れないと、無治療になるのではないか?と心配する人がいるかもしれません。
基本的に、無治療の期間があると病気が進行して不利益を被る病気について、新しい治療の治験を行う場合には、今まで効果が確立されている標準治療との比較を行います。
新しい治療のグループに入らなかったからといって、無治療で放置されるということはありません。
たとえば、ある癌に対して、今までAとB二つの薬で治療すると効果があることが知られているとしましょう。
この場合、標準治療はAとBの2つの薬剤での治療ということになります(AB療法とします)。
このAB療法に、さらにCという薬を追加(ABC療法)した場合、より治療成績が上がるかを調べるとします。
この場合、AB療法にCのプラセボを追加した治療を受けるグループ(AB療法群)と、ABC療法を受けるグループ(ABC療法群)で治療成績を比べることになります。
つまり、新しい治療を受ける群でなくとも、効果の確立された治療は受けることができるのです。
新しい治療が、必ずしも有効であると言い切れないことから、標準治療のグループの人が著しい不利益を被るというわけではないということがわかるかと思います。
ただし、不眠症や花粉症といった命に直ちに関わらない病気については、プラセボのみの治療と新薬の治療を比較する治験、つまり、一方が無治療となるような治験が行われることがあります。
治験に参加する患者さんが大きな不利益を被るような研究は、医療機関で承認されませんのでご安心ください。
また、治験に参加するときは、その治験の条件をよく確認してから参加するようにしてください。
治験への参加の際は条件をしっかり確認する
今回は、新しい治療の開発について治験をメインに解説しました。
新薬の開発は、非常に厳格な手続きを経て行われており、十分に効果があると判断されてから世に出てくるのです。
また、治験をはじめとする臨床試験は、患者さんに著しい不利益が出ないように考えられ承認されたものです。
ただし、参加を検討する方は、条件をよく確認した上で参加する方が賢明でしょう。
参考文献:
1.群馬大学医学部附属病院 先端医療開発センター臨床研究推進部. 治験の3つのステップ
2.清水直容.二重盲検法による薬効評価内科領域の薬品を中心に. 日本内科学会雑誌 1976;65:15-29
3.Masahiro SEKIMIZU. PMDA’s Challenges in Pediatric Drug Development. RSMP 2015;5:159−166
4.厚生労働行政推進調査事業費補助金 厚生労働科学特別研究事業 小児がん及び小児希少難治性疾患に係る医薬品開発の推進制度に資する調査研究
5.崎山美知代. 小児がん領域の最近の薬剤開発
6.伊藤進. 日本の小児薬物治療環境を守るPMDA(小児用医薬品の承認・認可への道)