看護師の心身を削る夜勤16時間勤務 最新の論文3つを紹介

「【論文紹介】看護師の心身を削る夜勤16時間勤務」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

みなさんの健康を支えてくれる看護師さん。
自分が病気で困ったとき、優しい看護師さんのケアで癒された方も少なくないでしょう。

しかし、特に在宅医療や入院病棟で働く看護師さんの仕事は、決して優しいものではありません。患者さんがいつ急変するか分からないため、どうしても「夜の時間の仕事」が必要になってくるからです。

そのため、多くの医療機関では交代制といって、私たちが働く「朝8時半から午後5時」といった通常勤務時間の他に(看護師業界ではこれを「日勤」といいます)、

  • 早番:例えば、朝7時半から午後5時まで
  • 遅番:例えば、朝11時から午後8時半まで
  • 夜勤:例えば、午後16時半から翌朝9時まで

といったさまざまな勤務体制をとって、患者さんが24時間途切れなくケアできるようにしています。

私たちが病気になった時、きちんとケアをしてくれるのは、こうした看護師さんの不断の努力があるからです。

しかし、その分看護師さんの負担は、私たちの想像の上をいくものです。

特に、最も負担が重くなるのは「夜勤」です。
人間はそもそも、日中に活動することが前提に作られているため、体内時計もそれに合うようにプログラムされています。夜勤では、仕事のために「日中寝て夜仕事する」という真逆の生活を強いられるために、体内時計のバランスも崩れがちになります。

では、看護師さんが「夜勤生活」によって、体にどのような影響が生じているのか。
最新の3つの論文をご紹介します。

夜勤の時間が13時間を超えると心のストレスが増大する

日勤の時間は「9時5時」でわかるように大体8時間です。
1日は24時間あるわけですから、当然夜勤の時間帯は16時間というのが普通でした。

そのため、夜勤をした翌日には休みになるのですが、それでも看護師の心の負担が非常に強いものであることが、研究から分かっています。

2022年に発表された日本からの論文によると、従来の16時間勤務で夜勤を働いている看護師さん(8名)と、「遅番」をおいて13時間勤務に短縮された夜勤を働いている看護師さん(8名)に対して、心の健康度と疲労蓄積度および酸化ストレスマーカーを調査したところ、

3ヶ月後、1年後になると、13時間夜勤勤務に短縮された看護師さんは、心の健康度は実施前の35.9よりも3ヶ月後に39.1、1年後は39.6と徐々に改善してくることが分かりました。

また逆に、酸化ストレスマーカーは16時間勤務をすることで、3ヶ月後、1年後になるとどんどん蓄積し、疲労感が増すことも分かっています。

さらに、16時間夜勤勤務から13時間夜勤勤務に勤務時間が短縮したことで

  • 「身体的な楽さがある」と答えたのが20.6%
  • 「疲労感の軽減」を答えたのが14.7%
  • 「業務への不安軽減」を答えたのが14.7%

とポジティブな発言が見られるようになりました。

もちろん、全体的な仕事時間は変わっていないのにも関わらずです。

前述の通り、本来の人間のリズムに合っていない夜勤はこなすだけで辛いもの。そこに16時間連続勤務が加わると、ストレスが溜まっていくのは十分考えられるものです。

長い夜勤がどれだけ大変かが分かる結果でしょう。

参照:看護師の16時間夜勤から13時間夜勤への勤務体制変更による心の健康度と
疲労蓄積度ならびに酸化ストレスバランスの変化の検証. 日本看護研究学会雑誌 2022, 45(5), 927-935, 2022

看護師の交代勤務は睡眠の質も低下する

先の論文は、16人と少ない看護師さんでの調査結果ですが、次は約900床、26の看護ユニット、700人の常勤看護師を擁する日本の急性期病院で実施された研究結果です。

今回は、交代勤務看護師の現在のストレスレベルの他に、睡眠の質も測定することで、交代で働く看護師さんの実態を調査しています。

結果、急性期病院で交代で勤務している看護師さんの61.3%が、通常の日本人よりも睡眠の質が低下していることが分かりました。

特に、夜勤16時間シフトで働く看護師は、現在のストレスレベルが高いと報告しており、これは疲労レベルの上昇や睡眠の質の低下、健康状態や睡眠満足度の低下とも関係しています。やはり、夜勤16時間勤務はかなり体に負担ということです。

ただし、自分なりのストレス解消策を持っている看護師は、全般的な健康状態が高く、睡眠の質も高く、入眠に要する時間が短いことも分かっていますので、ライフワークバランスをしっかり保てるかが、看護師生活を送るうえで重要な要素であるということになります。

参照:The Effect of Stress, Fatigue, and Sleep Quality on Shift-Work Nurses in Japan

夜勤看護師を増員すると手術成績が上がる

さらに面白い研究が東京大学の公衆衛生学から出されています。

なんと、夜勤看護師さんを増員することで、手術成績が上がるという研究結果があるのです。

対象は、2012年4月から2018年3月までに、日本の急性期病院で計画的な大手術を受けた成人患者403,971人に対して、夜勤看護師さんの増員を行った病院と行っていない病院の手術成績を比べたところ、院内死亡率や救命失敗率には差が見られなかったものの、夜勤の看護師さんを増員することで入院期間が有意に短くなったことがいわれています。

日中は医師がいるため、急変に対応しやすいですが、夜は医師がいないことが多く急変に対応しづらいものです。夜勤の看護師さんを増やすことで、いち早く急変に対応できる「余裕」が生まれた結果だと思われます。

本論文でも、「この研究結果は、入院期間を短縮しコストを削減するために看護師の増員を検討している医療政策立案者にとって役立つ可能性がある」としています。
夜勤看護師さんは、手術成績も左右する大切な存在なのです。

参照:Association between better night-shift nurse staffing and surgical outcomes: A retrospective cohort study using a nationwide inpatient database in Japan

みんなで支えよう、夜勤看護師

今回は3つの論文から、夜勤看護師さんの過酷な実態と夜勤看護さんの素晴らしさについて迫ってみました。

夜勤は、看護師さんの心身に大きな負担をかけるだけでなく、患者の皆さんにとっても、質の高い医療を受けるための重要な要素であることがわかります。

夜勤看護師さんの負担を軽減し、より働きやすい環境を作ることは、医療全体の質向上に繋がるのではないでしょうか?

では、夜勤看護師さんの負担を軽減するためにはどうすればいいのか。
例えば、以下のようにいろいろ考えられます。

  • 夜勤の勤務時間を短くする
  • 夜勤明けの休息時間をきちんと確保してあげる
  • 夜勤手当を手厚くする
  • 夜勤専従看護師を配置する
  • 労働時間管理を徹底する
  • 休憩室などの施設環境を整備する
  • 精神的なサポート体制を構築する

いずれにせよ、夜勤看護師さんが心身を保てるようにするのが、今後の医療の質を決めるといっても過言ではないでしょう。もし夜勤で働く看護師さんにケアをしてもらったら、「夜遅くまでお疲れ様」と一声かけてみてください。

それだけでも、きっと夜勤で働く看護師さんのストレスは軽減することでしょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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