愛着理論 子どもの発達と愛着形成

「愛着理論 子どもの発達と愛着形成」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

「うちの子、大丈夫かしら…」

日々の子育ての中で、お子さんの将来について、漠然とした不安を抱えている親御さんもいるでしょう。

実は、お子さんの健やかな成長を支える上で、赤ちゃんから育まれる「愛着形成」 が非常に重要な役割を担っていることをご存知ですか?

愛着といえば親子間だけと思いがちですが、学校生活や学校の成績まで大きく関わってくる重要な要素なのです!

今回は「愛着形成」をテーマに、愛着が生まれるメカニズム、愛着がもたらす驚くべき効果、そして、今日から実践できる愛着形成の7つの具体的な方法について、わかりやすく解説していきます。

愛着とは何か?どうやって愛着が生まれるのか?

医学的に愛着とは「乳児と養育者を結びつける心理的な絆」のことと定義されています。 (L. Sroufe & Waters, 1977年)
子どもが安全で安心し、守られていると感じられる「特別な絆」のようなものだと思ってもらって構いません。

では、愛着はどのように生まれるのでしょうか?

赤ちゃんは、生まれたばかりの頃は、周りの世界がまだよく分かっていません。お腹が空いたり、オムツが濡れて気持ち悪かったり、何か不快なことがあると、泣いてそれを知らせようとします。

このとき、お母さんやお父さんが、赤ちゃんのサインに気づいて、優しく抱っこしてくれたり、ミルクをくれたり、オムツを替えてくれたりすることで、赤ちゃんは安心感を得ます。そして、「この人たちは、僕を守ってくれるんだ」「私は守られるべき存在なのだ」「私は安心して生きていられる」と感じるようになります。だから愛着形成は赤ちゃんの時期は非常に重要なのです。

これが愛着の第一歩です。

赤ちゃんはすぐに不安なことがあると、泣いたり、しがみついたり、這って追ってきたりしますよね。これもストレスや不安などで、愛着行動を求めるが故です。嬉しいときに表情いっぱいに笑ったりしますよね。これも、愛着行動を示してくれたことに対する、感情表現の一種です。

このように、愛着への表現方法はさまざまですが、大きく「安全基地」「内部ワーキングモデル」の2つで考え方が基盤になっているとされています。

「安全基地」とは、子どもが安心できる場所、つまり養育者のことです。
子どもは、安全基地である養育者に見守られながら、安心して周りの世界を探検することができます。そして、何か怖いことや不安なことがあったときは、安全基地に戻ってくれば、いつでも安心感と慰めを得ることができます。

例えば、お母さんと一緒に公園に遊びに来た子どもを想像してみてください。
子どもは、お母さんが近くで見守ってくれているので、安心して遊具で遊んだり、砂場で遊んだりできます。これが「安全基地」です。お母さんは、子どもにとって安心できる場所、つまり「安全基地」のような存在ということですね。

一方、「内部ワーキングモデル」とは、子どもが自分と他者との関係性について、心の内側に持っている「型」のようなものです。愛着体験を通して形成され、その後の対人関係や自己肯定感に影響を与えます。そして、いつも優しくしてもらった子どもは、「自分は愛される価値のある存在だ」と感じ、「人は信頼できるものだ」という内的ワーキングモデルを形成します。

先ほどの例でいうと、公園で遊んでいるときに、もし遊具から落ちて怪我をしてしまったら、子どもはお母さんのもとに戻って、慰めてもらうでしょう。そして、お母さんに「ヨシヨシ」してもらうことで、子どもは「自分は愛されている」と感じ、再び安心して遊びに戻っていくことができます。この経験を通して、子どもは「困ったときは、お母さんに頼れば大丈夫だ」という内的ワーキングモデルを形成していくというわけです。

このように、愛着は、子どもが健やかに成長していくうえで、とても重要な役割を果たします。愛着を育むためには、子どものサインに気づき、優しく接して、安心感を与えてあげることが大切です。

そして、子どもと親がどれだけ深い愛着で結ばれているか。それが子どもの将来に非常に大きく関わってきます。

参照:Parent-Child Attachment: A Principle-Based Concept Analysis

愛着形成が子どもの将来を決める

愛着形成は、親子間にしか影響しないと思うかもしれませんが、そうではありません。実は、愛着形成は子どもの将来を決めるといっても過言ではない、非常に強いポテンシャルを持っています。

それを如実に示す論文を一つご紹介しましょう。

この論文は、中国浙江省の、両親が海外に出稼ぎに行っている子どもたち405人を対象に、親子間の愛着が学校適応に与える影響について調査したものですが、以下の2つの「良い点」が明らかになっています。

①親子間の愛着は、子どもの学校の生活によい影響を与える

愛着が強い子どもほど、学校生活に満足し、積極的に参加し、学業成績が良い傾向にありました。具体的には、愛着が1標準偏差高いと、学校適応度が0.476高くなるという結果が出ています。

愛着が強い子どもは、なぜ学校にうまく適応できるのか?
そのメカニズムとしては、以下の3つが考えられます。

  • 愛着が強い子どもは、自己肯定感が高く、ストレス耐性があるため、学校生活で生じる困難にもうまく対処できる。
  • 愛着が強い子どもは、社会性やコミュニケーション能力が発達しており、先生や友達と良好な関係を築くことができる。
  • 愛着が強い子どもは、学習意欲や探求心が高く、学業にも積極的に取り組むことができる。

簡単にいうと、親子間で愛着がしっかりしていると、自己肯定感も高く、ポジティブにこなすことができます。すると、学校生活でもなじみやすく、成績にもポジティブな効果が波及するというわけですね。

②親子間の愛着は、友人関係や学校の人間関係にもよい影響を与える

親子の愛着の強さは、親子だけではなく他の人間関係にも波及します。親子間の愛着が強いほど、以下の性質を持つことが分かっています。

  • 友達と良好な関係を築きやすい
  • 学校で孤立することが少ない
  • 友達とのトラブルが少ない
  • 友達に優しくできる
  • 友達の気持ちを理解できる

論文によると、親子間の愛着と友達関係の間には、有意な正の相関が見られており、愛着が1標準偏差高いと、友達関係の質が0.282高くなるという結果が出ています。

さらに、友人関係が良好だと、学校生活における人間関係も良好になります。学校生活もストレスなく適応し、精神的な安定をもたらすとされています。

普段の愛着形成のすごさ、わかっていただけたのではないでしょうか。

昨今、いじめが問題視される現代で、自分の子どもがいじめにあっていないかを心配する親御さんも多いでしょう。
回避するためにも、普段からの愛着をしっかり形成することが非常に重要ですね。

参照:The Impact of Parent–Child Attachment on School Adjustment in Left-behind Children Due to Transnational Parenting: The Mediating Role of Peer Relationships. Int. J. Environ. Res. Public Health 2022, 19, 6989. https://doi.org/10.3390/ijerph19126989

愛着形成は今からでも遅くない!今からできる7つの対策法

愛着形成は今からでも遅くない!今からできる7つの対策法
愛着形成は、もちろん赤ちゃんから行われています。そのため、愛着形成が現時点であまりよくないと感じている親御さんは「もう遅い」とあきらめてしまいがちです。

しかし、そうではありません。
愛着形成は「現在進行形」で今でも行われているのですから。ぜひ今からでも遅くないので、良好でないと感じる場合は、以下のことから取り入れて見てください。

①子どものサインに敏感に反応する

お子さんが何かを伝えようとしてきたら、忙しいときでも、少し手を止めて向き合ってあげましょう。例えば、お子さんが話しかけてきたら、目を見て「どうしたの?」と聞いてあげる。何か困っている様子が見られたら、「どうしたの?何かあった?」と優しく声をかけてあげる。こうした何気ない行動が意外と重要です。

②スキンシップを大切にする

お子さんをぎゅっと抱きしめたり、頭を撫でたり、肩をポンと叩いたりするなど、スキンシップを通して愛情を伝えましょう。
スキンシップは、お子さんに安心感を与え、親子の絆を育みます。
例えば、寝る前に「おやすみ」と抱きしめたり、いってらっしゃいの時にハイタッチをするのも良いですね。

③一緒に遊んでみる

お子さんと一緒に、ゲームをしたり、外で遊んだり、工作をしたり、楽しい時間を共有しましょう。
遊びは、お子さんとのコミュニケーションを促進し、親子の絆を深める効果があります。
例えば、週末は家族で公園に行って、バドミントンやキャッチボールをするのはいかがでしょうか。

④態度に一貫性を持たせる

お子さんの生活リズムを整え、規則正しい生活を送るのはとても大切です。
また、親としての態度を一貫させることで、お子さんに安心感を与え、愛着形成を促します。
例えば、毎日同じ時間に寝起きし、食事をし、宿題をする習慣をつけるなどです。
また、約束したことは必ず守り、ダメなことはダメと、しっかりと伝える。
普段からの「ぶれない態度」を貫くことで、どういう風に親と付き合えば良いかが子供でも理解できるようになります。

⑤適切な環境を整えてあげる

お子さんが安心して過ごせるよう、安全で快適な環境を整えることは親の仕事の一つです。
お子さんが自由に遊び勉強できる空間も必要ですよね。
そのためにはまず、お子さんの部屋を、整理整頓し、清潔に保ちましょう。
そして、お子さんが自分の好きなように飾ったり、遊んだりできるスペースを作ってあげましょう。

⑥ポジティブな言葉かけ

お子さんに対して、愛情のこもった肯定的な言葉かけを心がけましょう。
温かい言葉は、お子さんの心を育み、自己肯定感を高めます。
例えば、「テスト、よく頑張ったね!」「新しいことに挑戦して、すごいね!」など、具体的に褒めてあげるのが大切です。
また、「いつもありがとう」「大好きだよ」など、子供への直接的な愛情表現も忘れずに。

⑦親自身がメンタルを健やかに保つ

こうしたことって、親自身のメンタルがしっかりしていないと、なかなかできないですよね。

そのため、親自身のストレスを解消し、心穏やかに過ごせることが第一条件です。
親がリラックスしている状態であれば、お子さんにも安心感が伝わります。
例えば、自分の趣味の時間を楽しんだり、友人と会って話したり、リフレッシュできる時間をつくりましょう。

愛着形成を意識した生活習慣を

上記の「今からできる愛着形成の7つの対策」を意識してみてください。
即効性はないかもしれませんが、数ヶ月経てば、徐々にお互いの壁がなくなり、効果が生活全体に波及していきます。

普段から愛着形成を意識した生活習慣を心がけてください。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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