全身の健康は口もとから!いい歯で過ごすための「7つの習慣」

「全身の健康は口もとから!いい歯で過ごすための「7つの習慣」」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

鏡を見て、自分の歯に自信はありますか? 

白い歯の人を見るとうらやましくなりますよね。歯が輝いていると相手に好印象を与えやすいことがいわれています。
しかし、歯の重要性はそれだけではありません。実は、歯の健康は全身の健康と密接に関係しているのです!

今回は、全身の健康を保つための歯の役割と重要性、そして健康な歯を維持するための口腔ケアについて、分かりやすく解説していきます。

歯と全身の健康はつながっている

実は、さまざまな所で口腔内の状態がよければ、全身の健康にもつながっていることが分かっています。

①歯の健康と高血圧

実は、歯周病になると歯茎の炎症によって血管が傷つき、血圧が上昇しやすくなるということが分かっています。また、歯周病菌が血管に入り込み、全身に炎症を広げることで動脈硬化を促進し、高血圧のリスクを高めるというメカニズムも考えられています。

実際、歯周炎と診断された成人の高血圧の有病率(7%〜77%)は、歯周炎に罹患していない人(4%〜70%)と比較して高くなりました。別の研究では、高血圧の人の方が、高血圧でない人と比較して歯周炎が多いことが分かっています。(29%~61% vs. 17%~39%)

②歯の健康と心臓病

さらに、心臓病と歯周病にも深い関連があります。

歯周病になると、歯茎から歯周病菌が血液中に入り込みます。そして、心臓に到達した歯周病菌は、血管壁を傷つけたり、血栓(血液の塊)を作りやすくしたりします。これが、心臓病を引き起こす原因の一つとなるのです。

例えば、2016年に発表された中国の論文では、歯周炎患者は歯周病のない患者よりも、心房細動という不整脈を発症するリスクが31%高いことを明らかにしました。さらに研究を進めていくと、心房細動になっている人は

  • 歯に歯垢がたくさんついている
  • 歯ぐきから出血しやすい
  • 歯周病が進行している

という傾向があることが分かってきました。

つまり、歯の健康状態が悪い人ほど、心房細動になりやすい可能性があるということです。

参照:Oral Health and Cardiovascular Disease

③歯の健康と糖尿病

また、糖尿病と歯周病は、お互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。

糖尿病の人は、歯周病になりやすく、また歯周病が進行しやすいということが分かっています。これは、糖尿病によって免疫力が低下し、歯周病菌に対する抵抗力が弱くなるためです。また、糖尿病の人は、唾液の分泌量が減少し、口の中が乾燥しやすくなることも、歯周病のリスクを高める要因となります。

一方、歯周病は、糖尿病の血糖コントロールを悪化させる要因となります。歯周病菌が出す炎症物質が、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害するためです。

糖尿病と歯の健康を調べるためにアメリカでは、2005年から2012年にかけて、アメリカの退役軍人医療センターとクリニックで治療を受けた126,805人の糖尿病と歯周病の患者さんを対象に大規模臨床研究を行いました。

調査の結果、以下の点が明らかになりました。

  • 調査開始時と経過観察時の歯周病治療により、HbA1c(ヘモグロビンA1c)はそれぞれ0.02%、0.074%減少した。
  • 経過観察時の歯周病治療後のHbA1cの減少は、調査開始時のHbA1cが高い人ほど大きくなった。

面白いことに、歯の治療をすることで、糖尿病の改善につながったのです。

参照:Effect of Long-Term Periodontal Care on Hemoglobin A1c in Type 2 Diabetes

④歯の健康と認知症

実は、意外なことに歯の健康と認知症にも大きな関係があることが分かっています。

例えば、中国で行った、6,000人を超える参加者を対象とした前向きコホート研究で、歯周炎患者は健康な対照者に比べて認知症を発症するリスクが1.16倍になると報告されていて、10年以上歯周炎を患っている患者は、アルツハイマー病を発症するリスクが1.7倍以上ともいわれています。

同様に、歯周病などにより歯がなくなると、さらに認知症リスクは加速します。

3,063人の参加者を対象とした横断研究では、認知症患者の欠損歯数は平均18.7本だったのに対し、MCI患者(認知症予備軍)と正常認知症患者では平均11.8本と9.3本で、16本以上の欠損歯は認知症と有意に関連していた、というデータもあります。

歯周病で認知症になる原因として、以下の3つが考えられています。

  • 歯垢に存在する細菌などが血流に入り、直接的な悪影響を引き起こしている可能性
  • 歯周炎に対する炎症反応が、全身へと発展し脳の神経の炎症に結びついている可能性
  • 歯周病菌が血小板凝集タンパク質という脳の動脈硬化を促進するタンパク質を産生するため、アテローム性動脈硬化症を引き起こし、血管性認知症による認知機能低下のリスクを高める可能性

こう考えると、歯そのものだけでなく、歯周病に対する口腔ケアも認知症予防には大切といえるでしょう。

参照:
Association between adverse oral conditions and cognitive impairment: A literature review
Association Between Periodontitis and Cognitive Impairment in Adults: A Systematic Review

いい歯で過ごすための「7つの習慣」

では、いい口腔環境にするにはどうすればよいのか。
まずは、以下の「7つの習慣」から試してみましょう。

①毎食後、歯磨きをする

歯の健康といえば「歯磨き」です。
歯に食べかすが残ると、歯周病菌が繁殖する原因になります。

まずは食後30分以内を目安に、歯ブラシを使って丁寧に歯を磨き、食べかすや歯垢を落としましょう。歯ブラシは、毛先が開いていないか定期的に確認し、新しいものと交換するようにしましょう。フッ素配合の歯磨き粉を使うと、虫歯予防に効果的です。

②歯間ブラシやデンタルフロスを使う

糸ようじを1回でも使ったことがある方は分かりますが、歯磨きだけだと、意外なほど歯の間に歯垢が溜まっています。

そこで、歯ブラシだけでは落としきれない、歯と歯の間の汚れを、歯間ブラシやデンタルフロスを使って取り除きましょう。歯間ブラシは、歯茎を傷つけないように、自分に合った適切なサイズを選ぶと良いですね。

デンタルフロスを使う際は、歯に沿わせて優しく動かし、歯茎に負担をかけないように注意してください。

③定期的に歯科検診を受ける

少なくとも半年〜1年に一度は、歯科医院で検診を受け、歯石の除去や虫歯のチェックをしてもらうと良いですね。

定期的な検診は、歯周病や虫歯の早期発見・早期治療につながります。また、歯科でしかなかなか取り除けない歯石の除去や、より効果的なブラッシング指導を受けることもできます。

④バランスの取れた食事を摂る

もちろん歯の健康には食事もかかせません。

特定の食品に偏らず、様々な栄養素をバランスよく摂取しましょう。
カルシウムやビタミンDなど、歯や骨の健康に必要な栄養素を積極的に摂るように心がけると良いですね。

もちろん砂糖の多いお菓子やジュースは、虫歯の原因となるため厳禁です。また、よく噛んで食べることで、唾液の分泌が促進され、虫歯予防に役立ちます。

⑤タバコを吸わない

タバコは、歯周病や口内がんのリスクを高めるため、吸わないようにしましょう。タバコを吸う人は、歯茎の血行が悪くなり、歯周病が進行しやすくなります。事実、アメリカCDCでは、タバコと歯の健康について以下のように発表しています。

  • 現在喫煙している20〜64歳の成人の40%以上が虫歯にかかっていますが、喫煙したことのない成人では虫歯はわずか20%であった。
  • 65歳以上の成人でタバコを吸う人は、タバコを吸わない人に比べて虫歯が治療されていない可能性が2倍高い。
  • 現在タバコを吸っている65歳以上の成人の約43%が歯を全て失う。

タバコほど歯の健康に悪いものはないのです。また、タバコは無煙のものであっても、口腔がんや頭頸部ガンのリスクも高めてしまいます。

参照:CDC [Tobacco Use and Oral Health Facts]

⑥ストレスを溜めない

ストレスは、免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる要因となります。緊張する時に活性化する交感神経がONの状態が続くと、唾液の分泌が低下し口の中が乾燥し、虫歯や歯周病になりやすくなります。

そのため、適度な運動やリラックスする時間を取り、ストレスを解消しましょう。十分な睡眠をとることも、免疫力アップに繋がり、歯周病予防に役立ちます。

⑦口呼吸をしない

寝ている間、みなさんはいびきや口呼吸をしていませんか?

口呼吸は、口の中を乾燥させ、虫歯や歯周病のリスクを高めます。鼻呼吸を意識することで、口の中の乾燥を防ぎ、唾液の分泌を促進しましょう。鼻がつまりやすい方は、鼻の治療もした方がいいかもしれませんね。

歯の健康は全身の健康にもつながります。
ぜひ歯の健康を保つ「7つの習慣」からはじめて、歯から健康を守っていきましょう!

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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