「善きサマリア人の法」とは?「お医者様はいませんか?」という状況で手を挙げる医師を増やす

「「善きサマリア人の法」とは「お医者様はいませんか?」という状況で手を挙げる医師を増やす」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

新幹線や飛行機の中などで急に人が倒れてしまい、「お客様の中にお医者様はいませんか?」と声がけがある。
医師がそれに答えて颯爽と現れて、速やかに処置をする。
ドラマをよく見る人なら、誰しも見たり聞いたりしたことのある定番のシチュエーションではないでしょうか。
しかし、「お客様の中にお医者様はいませんか?」という呼びかけに対して、「聞こえなかったふりをする」「他の医師が対応してくれないか様子を見る」という選択をする医師も少なくありません。
これは、何も自分の腕に自信がないからというだけではありません。普段、病院では多くの患者を診察していて、十分な経験と技能のある医師であっても、躊躇することが多いのです。
そんな状況を改善するために、必要な法律といわれているのが、「善きサマリア人の法」と呼ばれる法律です。
今回は、病院の外での急患と、それに対応する医師を取り巻く状況を説明し、今後整備が必要になる「善きサマリア人の法」について解説していきます。

病院の外での「お医者様はいませんか?」に出ていきにくい事情

冒頭で、腕のある医師でも「お医者様はいませんか?」に、躊躇をする医師が少なくないということには触れましたが、意外に思われた方も多いかもしれません。
しかし、飛行機や新幹線のなかでの診療は、医師にとってはかなり怖いのです。

まず、移動中の機内には十分な医療機器がありません。
普段病院で見ているときには、意識がない人を見たら、頭のCT画像やMRIが像を見て脳出血や脳梗塞がないかを確認したり、血液検査で大きな異常がないか、心電図やエコーを使って心臓の動きに問題がないかを確認したり、と医師は多くの医療機器を使いこなし診察にあたります。

しかし、飛行機や新幹線のなかには、そのような装備は当然ありません。JALのホームページの「航空機内の搭載医療品・医薬品」のページを見てみると、救急治療に必要最低限の薬剤は揃っている様です。また、聴診器や血圧計、血糖測定器、パルスオキシメーターといった機器はあり、基本的なバイタルサインは測定可能です。しかし、病院で使うような血液検査機器やCT、エコーはありません。

その様な状態では、重症度はなんとなくわかるものの、どこに原因があるかしっかり調べることはできないのです。当然、病院でやっているようないつもの能力を発揮することは難しくなります。

その様な状況のなかで行った医療行為に、ミスがあったら責任を取らないといけないと言われると、相当な自信がないと出ていきにくいのが分かると思います。

善きサマリア人の法とは

飛行機などのなかでの医療行為は、医師にとってはとても怖いものであるのですが、そんななかでも、手を挙げる医師を増やすために存在するのが「善きサマリア人の法」と呼ばれる法律です。

善きサマリア人の法とは、急病人や負傷者を救う為に、善意によって良識的かつ誠実に行動した場合には、失敗してもその責任を問われないというものです。

「善きソマリア人の法」という名前の由来は、聖書に記載されたイエス・キリストが語った話にあります。ある人が強盗に襲われて倒れていましたが、通りかかった人は誰も助けませんでした。そんななかで、サマリア人が声を掛けて助けた。そんな話が法律の呼び方の由来です。

アメリカやカナダ、オーストラリアなど、様々な国でこの善きサマリア人の法に当たる法律が定められています。

日本では、民法698条に「緊急事務管理」の規定が定められており、「管理人は本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」となっています。(日本医師会 医の倫理の基礎知識)

しかし、「重大な過失がなければ」というのがどの程度の過失なのかわからず、そもそも普段使用する道具を何も使わないのに、過失が発生しうるのかも明確に定義されておらず、医師としては非常に怖い法律です。

CTがない状態で脳出血を見逃したら、それは過失になってしまうのか?
バイタルが安定していたので緊急着陸不要と判断したが、その後急変して患者さんが亡くなったら過失と言われないのか?

今の法律では分からないのです。

その辺りを明確に保証する「善きサマリア人の法」にあたる法律が、日本でも整備されることが望まれる状況です。

医師が急病人を助けやすくするための法整備を

今回は、「善きサマリア人の法」について解説しました。

医療設備の整っていない状況で、急に体調を崩した人の状態を把握するのには、限界があります。
そんななかで、急病人の診察を正確に行うのは難しく、ときには事故が発生してしまうことがあります。

そんな状況でも、医師が名乗りをあげて急病人が助かる様になる為には、責任の範囲を明確にし、過度な責任を負わせないための法整備が必要です。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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