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古くから人類の娯楽として定着している音楽。
その歴史は非常に長く、4万年以上前に作られたフルートも見つかっており、私たちの生活にも深く根付いています。この音楽に秘められた力は、いまだに全て解明しきれていないほどに奥が深く、音楽の持つ効果についてはさまざまな研究が行われています。
今回は、精神疾患や発達障害に対する音楽療法の効果についての研究を紹介します。
論文タイトル
オーストリア・AIHTAのLucia Gassner氏らは、自閉スペクトラム症(ASD)、認知症、うつ病、不眠症、そして統合失調症に対する音楽療法の有効性を評価しました。
European Journal of Public Health誌2022年2月の報告です。
研究の背景と目的
音楽療法は、音楽を用いて心身の健康を改善する治療法として、近年多くの注目を集めています。特に自閉症などの発達障害や、認知症、うつ病、不眠症や統合失調症といった精神疾患に対する効果が期待されています。
音楽療法が特定の発達障害や精神疾患に対して、どれほどの効果があるのかに関しての研究はいくつか行われているものの、研究結果にはばらつきがありました。今回の研究は、これらの研究を統合して、音楽療法の有効性がどれほどのものなのかを明らかにするという目的のもとに行われました。
研究の方法
この研究は、システマティックレビューという方式で行われました。システマティックレビューとは、特定の研究テーマに関する論文を調査し、複数の論文をまとめて解析することで、どのような結論が導けるか明確にする方式の研究です。
ASD、認知症、うつ病、不眠症、統合失調症、それぞれに対する音楽療法の効果を評価した、ランダム化比較試験を対象として論文を収集しました。収集した論文から、音楽療法の対象となる人の症状の改善度合いや生活の質、精神的な健康への影響を評価しました。音楽療法の方法や使用された音楽が、治療にどのような影響を与えるのかについても解析しました。
研究の結果
選択基準を満たした研究は10例であり、それらの論文に含まれていた1248例が解析の対象になりました。それぞれの疾患について、音楽療法の効果は以下のように評価されました。
①統合失調症
統合失調症患者に対して音楽療法を行うことで、生活の質と社会的機能に改善が見られ、精神症状も改善することが分かりました。ただし、統合失調症で低下した全体的な機能の改善は認められませんでした。
②自閉症
自閉症では、音楽療法が大きな効果を示しました。行動、社会的コミュニケーションが改善し、人間関係とくに親子関係の改善が確認されました。音楽を聴くなどする受動的音楽療法よりも、音楽を演奏するなどの能動的な音楽療法が、より高い効果を示しました。音楽を通じて自分を表現したり、他者と関わることが、自閉症患者の社会性を向上させたと考えられます。
③うつ病
うつ病に対する音楽療法は、気分の高揚につながり、うつ病の改善につながることが分かりました。音楽による感情の表現やリラクゼーション効果が、うつ病の改善に寄与したと思われます。
④不眠症
不眠症では、受動的な音楽療法が主に使用されました。それによるリラックス効果により、睡眠の質を高め不安やストレスを改善し、睡眠時間を伸ばし、疾患の重症度を改善させることが示されました。
⑤認知症
認知症患者に対して行う音楽療法は、気分症状、神経精神的行動や無気力を改善させ、コミュニケーションを向上させました。特に重度の認知症患者では、行動や心理的症状の改善が見られました。軽度の認知症患者では、記憶力や言語の流暢さを改善させる効果も見られました。ただし、認知機能そのものの向上が示されたのは、収集した研究4件のうち1例のみであり、このことから認知症に対する音楽療法は、認知症そのものの治療というよりも、認知症の周辺症状に対する治療として効果的であるということ示されました。
研究から得られた知見
この研究を通じて、音楽療法は精神疾患や発達障害に大きな効果をもたらすことが分かりました。音楽療法は、患者の心理的、社会的健康を改善させるのです。音楽を演奏して自己表現をしたり、音楽を聴くことで気分高揚させたり、リラックスしたりと心理状態を是正することができ、疾患によって使い分けることが有効な音楽療法を行うのに有効なのです。
このように、音楽療法は、精神疾患や発達障害に有効であることが分かりました。今後、これらの効果が長期的に続くのか、またどのような要素が効果を高めるのかについての研究が進み、より有効な音楽療法が行えるようになるかについての研究が進むことが望まれます。