こども家庭庁が勧める 5歳児健診の正しい知識と理解

こども家庭庁が勧める 5歳児健診の正しい知識と理解|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)

「5歳児健診」という言葉を聞いたことはありますか?
2025年4月において、5歳児健診は自治体の任意で行われており、国の調査では2022年度は全国の自治体のうち14%が実施していました。こども家庭庁は5歳児健診を実施する自治体を増やすと発表しています。

多くの方が経験されている3歳児健診では、言葉でのやり取りや基本的な体の発達を中心に確認しました。5歳児健診では、さらに一歩進んで、集団生活や小学校入学を見据えた心と体の発達、社会性などを診察します。

今回は、5歳児健診の目的や内容、そして受けることの大切さを、子ども家庭庁の情報や取り組みを交えながら、分かりやすくご紹介します。

5歳児健診ってどんなもの?安心して小学校生活をスタートするために

5歳児健診は、発達障害の早期発見に目が向けられがちですが、目的はそれだけではありません。最も大切なのは、お子さんの健康な成長と発達を守り、さらに伸ばしていくことです。

5歳という年齢は、幼稚園や保育園などの集団生活の中で、お友達とルールのある遊びを経験し、社会性がぐんと伸びる非常に重要な時期です。

5歳児健診は、お子さんが小学校に安心して楽しく通えるよう、現在の成長・発達の状況を確認し、保護者の方が抱える心配事を相談できる良い機会となります。保護者の方が「育てにくさ」を感じている場合は、どう関わっていくのが良いかを一緒に考え、具体的なサポートにつなげていくことも可能です。

自治体によっていろいろな5歳児健診

5歳児検診の主な問診項目

5歳児健診の実施方法は、自治体によってさまざまです。

例えば、神奈川県川崎市では5歳児全員を対象とした個別健診を、埼玉県越谷市ではアンケートを送付し、結果に基づいて保健センターで実施する集団健診へ案内するという方式をとっています。

集団健診では、他のお子さんとの関わりなど社会性の発達を観察しやすい、個別健診は保護者の時間的な制約が緩和されたり、プライバシーに配慮しやすかったりするのが利点です。

5歳児健診で何をみるの?

5歳児健診では、まず問診票や母子健康手帳を活用し、成長記録、予防接種歴、日常生活の様子、子育ての状況など、お子さんとご家族の身体的・精神的・社会的な観点から幅広く情報を収集します。また、会話している間の親子それぞれの整容状態や着衣などの身なり、持ち物、そして何よりも親子間の関わり方などを注意深く観察しています。

気になる点があれば、健診後に行われる専門職間のカンファレンスで共有し、多角的な視点から総合的に判断するための材料とするのです。

具体的に5歳児健診で確認する項目と内容は、以下の通りです。

5歳児健診項目内容
身体的発育について身長と体重がきちんと増えているか、身体が元気かどうか
感覚器や皮膚などについて目の動きや聞こえ、湿疹やアトピー性皮膚炎の有無の確認など
理解について正しく答えられるか、自分の気持ちや考えを言葉で表現できるか
情緒・行動について友達と協力しあったり、ルール遊びができたり、相手の気持ちをくみ取れたりできるか
生活習慣について食事、着替え、歯磨き、排泄の自立などの確認、メディアの利用について
保護者の状況について子育て上の悩みはないか

これらの項目を通じて、全体的な発達状況を把握し、必要なアドバイスや支援をします。

なぜ5歳児健診が必要なの?

5歳児健診が必要な理由は、以下のとおりです。

  • 小学校入学への「安心」な架け橋
  • 「困りごと」の早期発見・早期支援
  • 生活習慣を整えるチャンス
  • 保護者の不安を解消する場

5歳という年齢は、小学校入学まで1年以上あり、課題が見つかっても、焦らずに準備を進められる時期です。就学時健診は集団での評価が中心ですが、5歳児健診では個別にお子さんの発達状況を丁寧に診察し、きめ細やかなサポートが可能です。

特に発達に関する課題は、早期に発見し、適切な関わり方や支援を始める「早期介入」が非常に重要です。実際に、5歳児健診を実施した自治体では、不登校になるお子さんが減少したという調査結果も報告されています。

また、小学校に入学すると、幼稚園や保育園のころとは生活リズムが大きく変わります。基本的な生活習慣を見直し、整える良い機会です。

さらに、発達以外にも、生活習慣、気になる癖、きょうだいとの関係、読書や運動、遊びのことなど、日頃気になっていることを専門家に相談できる貴重な場でもあります。健診をきっかけに、専門職とつながり、具体的なアドバイスやサポートを受けることも可能です。

もし発達の課題を指摘されたら?

5歳児健診は、発達障害かどうかを診断する場ではなく、発達の状況や特性に気づき、適切な支援につなげるためのスクリーニング(ふるい分け)の機会です。医師は、診察で得られた所見に基づいて、専門家としての見立てとその意味を保護者の方に丁寧に説明し、必要に応じて医療機関や専門相談を紹介します。

基本的には、お子さんの様子や保護者の方の話をじっくり伺い、どうすれば過ごしやすくなるかを一緒に考えるのです。その上で、専門相談の場が設けられたり、福祉サービスや専門的な診察が可能な医療機関を紹介されたりすることもあります。

ご家族が抱える心配事も含めて、それぞれの専門分野の職員が連携し、対応を一緒に考えていきますのでご安心ください。

5歳児健診で子育ての悩みも解消

5歳児健診は、お子さんの心と体の成長を確認し、安心して小学校生活をスタートするために、非常に大切なステップです。発達の状況を評価するだけでなく、日頃の生活習慣を見直したり、子育てに関する様々な悩みや疑問を専門家に相談したりできる良い機会でもあります。自治体から5歳児健診の案内があった際には、ぜひ積極的に受診されることをおすすめします。

参考文献
公益社団法人日本小児科医会|5歳児健診マニュアル
東京都医師会|5歳児健診事業−東京方式 −
こども家庭庁|5歳児健診ポータル
PubMed|Pre-school development and behavior screening with a consecutive support programs for 5-year-olds reduces the rate of school refusal

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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