信頼関係を築くにはマスクを着けるべきか、取るべきか

信頼関係を築くにはマスクを着けるべきか、取るべきか

みなさんは、仕事の会議や新しい人との出会いの場で、「マスク、外すべきか、着けたままか…」と迷った経験はありませんか?

​新型コロナの大流行をきっかけに、マスク生活が深く根付いた人もいるでしょう。しかし、マスクは口元の表情を隠してしまうため、「相手に信頼してもらうには、外した方が良いのでは?」と感じることもありますよね。

この疑問に対し、英国ウォーリック大学ビジネススクールのJunning Peng氏ら研究チームは、マスクの有無が信頼にどう影響するかについて、非常に興味深い結論を2025年、科学と医学のあらゆる分野のプライマリ研究を対象としたPublic Library of Science(PLOS)に発表しましたので、ご紹介いたします。 

結論 素顔と比較すると「マスク顔」が信頼されやすい

​今回は非常に「意外な」結論となっています。

実は、マスクを着けた顔は素顔と比較すると「信頼できる」と評価される傾向が一貫して見られた、というのです。

「1対1で相手を評価する状況(個別評価)」では、マスクをつけていてもつけていなくても印象は変わりませんでした。

しかし、素顔の相手とマスク顔の相手を同時に比較する状況(共同評価)では、参加者の70%以上が素顔の相手よりも「マスク顔の相手」を信頼した結果となりました。

​つまり、マスクは「単独で」見られる時よりも、「素顔と比べられる」状況で、その信頼性を強く発揮することが明らかになったのです。

研究背景 マスクのもたらすメリットデメリットとは?

実は、マスクが信頼に与える影響については、以下のプラス面とマイナス面があります。

  • プラス面: パンデミック下において、マスク着用は「他者への配慮」や「社会的な責任(利他的な態度)」を示している。
  • マイナス面: マスクは顔の重要な手がかり(表情など)を隠してしまう。そのため、相手が信頼できるかどうかの判断を難しくする可能性がある。

そのため、結局信頼関係を築くためにマスクをつけていた方がよいのか悪いのかわからない状態が続いていました。

研究の目的と方法 マスクの着用が「信頼できる」という評価にどう影響するか?

そこで研究チームは、マスクの着用が「信頼できる」という認識(評価)にどう影響するか、そしてそれが実際の「信頼行動」にどう結びつくかを明らかにしました。

研究チームは、英国の参加者を対象に、3つのオンライン実験を行いました。実験では「信頼ゲーム(Trust Game)」という、経済学や心理学でよく使われる手法が用いられました。  

​これは、二人一組で行うゲームです。

​ゲームでは信頼する側が、相手に一定額のお金を送るかどうかを決めます。  

​送ったお金は、実験者によって増額されます(例:3倍になる)。  

​信頼される側は、増えたお金を受け取り、その中からいくらかを信頼する側にお返しします。  

もちろん、信頼する側も信頼される側もどれだけお金を送るかは自由です。そのため、

信頼する側が多くのお金を送るほど「相手を信頼している(信頼行動)」ことを示すといえますよね。

このゲームを使い、相手の顔写真が「マスク有り」か「マスク無し」かによって、行動が変わるかを調べました。(個別評価)

まず、参加者は、マスクを着けた相手または着けていない相手のどちらか一方だけの写真を見て、「信頼ゲーム」を行いました。  (共同評価)

​次に、参加者は、マスクを着けた相手と着けていない相手の2人の写真を同時に見せられました。そして、「どちらにより多くのお金を送るか」を選択させたのです。 

研究結果 参加者の実に70%以上が、「マスクを着けた相手」を選ぶ

さあ、結果はどうだったのでしょうか。

まず、別々に実験をした「個別評価」の場合。相手がマスクを着けていようと、着けていなかろうと、参加者が相手に送ったお金の額(=信頼行動)に、統計的な差はまったく見られませんでした。

ところが、「マスク有り」と「マスクなし」で比べる「共同評価」では、結果が劇的に変わりました。

マスク顔の相手と素顔の相手を同時に提示し、どちらをより信頼するかを選ばせたところ、参加者の実に70%以上(69%〜74%)が、素顔の相手ではなく「マスクを着けた相手」を選び、より多い金額(20ポンド)を送ることを選択したのです。

つまり、「マスク有り」の顔と「マスクなし」の顔を一緒に並べると「マスク有り」の顔をより信頼しやすいということになりますよね。

考察 初対面の相手の前でマスクを外すか迷った時

では、なぜこのような結果になったのでしょう。

​研究チームは、この結果の違いを「マスクの目立ちやすさ(顕著性)」で説明しています。

​「個別評価」では、参加者は1人の相手と複雑な「信頼ゲーム」を行うことに集中していました。当時はマスク着用が日常的だったこともあり、マスクの有無はさほど重要な情報として意識されず、行動に影響を与えなかったのではないか、と考察されています。  

​一方、「共同評価」では、「マスク有り」と「マスク無し」が明確な比較対象として並べられています。この「どちらを選ぶか」という状況設定が、マスクの有無を際立たせ、参加者が持っていた「マスク=配慮=信頼できる」という認識を強く刺激し、実際の行動(マスク顔を選ぶ)に直結させたのだと考えられているんですね。

​初対面の相手の前でマスクを外すか迷った時、ぜひ、この研究結果を思い出してみてください。

相手があなたを誰かと比較している状況でなければ、マスクの有無は信頼行動にあまり影響しないかもしれません。しかしもし誰か(例えばマスクをしていない同僚)と比較されているなら、マスクが持つ「配慮」や「社会性」から、マスクをしている方が「信頼されやすい」といえるでしょう。

感染予防対策以上の効果をもつ「マスク」。もしかしたら皆さんが思っている以上にマスクは「手放せないツール」になっているのかもしれません。

参考文献:
Junning Peng, Andrea Isoni, Ashley Luckman,et al.How facemasks shape trust in social interactions.PLoS One.2025 Sep 12;20(9):e0331918

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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