判決文を“コピペ”する裁判所、判決を無視する厚労省…「いのちのとりで裁判」からみる生活保護の現状を現役弁護士が解説

財布を開ける女性

生活保護制度とは生活に困窮する方に対して、困窮の程度に応じて必要な保護を行い「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」ものです。また、支給によって自立を助長することも目的としています。

生活保護をめぐっては、国が2013年4月から3年間かけて、生活扶助基準(生活保護基準のうち生活費部分)を平均6.5%、最大10%(年間削減額670億円)引き下げました。しかしこの事実に対し、「これでは生活できない」という受給者が増加。

そして、2014年(平成26年)以降、全国各地で1,000名を超える被保護者が、日本国憲法第25条が保障する生存権の侵害ではないかと裁判を起こすまでに発展しました。この一連の訴訟は「いのちのとりで裁判」とも呼ばれています。

本裁判は当初敗訴が続きましたが、判決文に「文言をそのまま転用したとみられる記述(コピペ)」が見つかるという問題が発生し、裁判所の信頼が揺らぐ事態に発展。2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所で「生活保護費の減額は違法」との判決が出されて以降は、各地の訴訟においても「原告勝訴」の判決が続いています。

しかし、勝訴後も生活保護の問題は山積みです。基準の在り方や救済の具体策など、今後の対応が引き続き問われています。本記事では、いのちのとりで裁判全国アクション事務局長の小久保 哲郎 (こくぼ てつろう) 弁護士に、裁判の現状と今後の課題についてお聞きしました。

<目次>

こたけ正義感さんも取り上げた「いのちのとりで裁判」とは

ガベル

――お笑い芸人で弁護士でもある「こたけ正義感」さんが、スタンダップコメディ「弁論」で「いのちのとりで裁判」を取り上げ、大きな反響を得ました。先生もご覧になったと伺いましたが、率直な感想を教えてください。

僕はこたけさんのことをそれまで知らなかったんです。 東京在住の生活困窮者の支援者の方から「めちゃくちゃ面白いから見て」と言われて、視聴しました。

見始めたらあまりに面白くて、一気に最後まで見てしまいましたね。生活保護という重いテーマにもかかわらず、弁護士ということもあり生活保護自体はまったくいじらず、むしろ真剣に正しい情報を伝えてくれました。自分が関わっている裁判ですから、思い入れもあって本当に感動し、泣きながら笑いました。

YouTubeのコメント欄には、「私も生活保護を使っていました」「使おうと思ったけど躊躇したことがあります」という声もあったし、支援者だけでなく警察官などまったく違う層からもコメントが来ていました。

生活保護は2010年代に凄まじいバッシングがありましたし、今も根強い偏見がある。しかし、弁論の動画のコメントにはバッシングがほとんどなくて、当事者が安全に発言できる空気ができていましたね。 「ここなら安心して言える」ことも多かったんじゃないでしょうか。

生活保護への視点が変わるきっかけになり得ますので、ぜひ今後も多くの方々に見てほしいです。「偏見で人をカテゴライズすることの問題」についても、わかりやすく語られている素晴らしい動画でした。笑いながら視点が変わっていく構成で、いのちのとりで裁判に関心を持ってくれる人も急増したと感じています。

――いのちのとりで裁判は、コピペ判決があったと動画内でも触れられていましたね。先生はこのコピペを見つけたご本人ということで、当時のことをぜひ教えてください。

この裁判は当初、各地で原告側の敗訴が相次いでいました。しかも、判決理由の記載には他の事件と酷似した表現が目立っていました。

そこで私は「どうすれば勝てるのだろう?」「裁判所はどのような論理で我々を負けさせているのだろう?」と熟考するために、判決文を読みながら自分のパソコンに打ち込んで模写していきました。

当時はPDFからコピーする方法を知らなかったので、本当に文章を1つずつ自分で打ち込んでいました。 Excelに論点ごとに判決文を入れて、名古屋地裁、札幌地裁、福岡地裁……と並べていきました。

でも、すぐに想定していたよりも作業量が少ないことに気づきました。 つまり前の判決をコピペして、少し入れ替えるだけで済んでしまうような判決ばかりだったのです。それを見て、「裁判官は過去の判決の影響を強く受けながら書いているな」というのは明らかに感じました。

福岡地裁の判決で「NHK受信料」について、「NHK受診料」と書き間違えている箇所を見つけていたのですが、次の京都地裁でもまったく同じ誤字がありました。「これはコピペしてるな」と。

裁判官が事件に真剣に取り組んでいないことのあらわれであり、強い憤りを覚えました。金沢地裁の判決が出た際、私は判決文の誤字に着目していました。ひょっとしてと思いながら同じ箇所を確認すると、そこにも同じ誤字が見つかったのです。

正直腹が立ちましたが、同時に「これは面白いことになったな」とも思いました。裁判所がこんな形でボロを出すのかと衝撃的でした。判決後の報告集会や記者会見に僕はオンラインで参加しましたが、その場で「明らかにこの判決にはコピペ箇所がある」と発言しました。

判決文の「コピペ」が発覚した舞台裏

裁判所の看板

――その後、どのような形でコピペ判決は報道されたのでしょうか?

金沢地裁のあと、私の発言を受けて有名な大手新聞の記者が「取材したい」と言ってきました。ある地方紙の記者も関心を持っていて、「裁判官のコピペ疑惑」のような記事を書こうとしたのですが、デスクに止められたそうです 。その理由は「本当に判決がコピペとは断定できない」ということでした。

そこから、報道として大きく表に出るまでに時間がかかりましたが、金沢地裁と神戸地裁の間のタイミングで、転機がありました。ある記者が丁寧に取材してくれたことをきっかけに、12月の神戸地裁判決の日に合わせて、朝刊で一面トップに。それがきっかけでテレビでも大きく取り上げられました。

その後、露骨なコピぺ判決は減ったと思います。負け判決でも「独自性を持って書こう」という意識が裁判所から見えるようになったので、一定の効果はあったのではないでしょうか。

その後、原告側に勝訴が続くようになったきっかけは、2022年5月の熊本地裁判決です。熊本地裁は、すべての論点で原告側の主張を認めました。かなり気合の入った判決で、「やっと道が拓いた」と思いました。

続く2022年6月の東京地裁判決は、大きな転換点となりました。 担当したのは、行政訴訟において卓越した手腕を持つ清水知恵子裁判長です。この判決は、緻密な論理構成と丁寧な事実認定に裏打ちされ、極めて高い完成度を誇ります。東京地裁判決を読んで、その説得力の強さに、私は「潮目が変わった」と確信しました。

――最高裁判決が出たときは原告の方々含めてどのようなお気持ちでしたか。

最高裁で勝ったときは、原告も弁護士も感激しましたし、「やっとここまで来た」と思いました。しかし、最高裁判決が出ても、国の対応はすんなり進みません。 厚労省は最高裁判決を踏まえて専門委員会を立ち上げ、去年11月21日に対応策を発表しました。ただ、その内容に大きな問題がありました。

最も大きな問題は、違法とされた「デフレ調整」への対応です。生活保護費が4.78%減額されたわけですが、私は国側が敗訴した以上、少なくとも「デフレ調整」による減額分は白紙撤回されると思っていました。

ところが国は、別の理由を持ち出して「低所得者の消費水準との比較」という形で、白紙撤回ではなく2.49%まで引き下げる方針を固めたんです。 本来なら4,000億円規模の追加給付が必要であるところが、2,000億円程度に抑える方向です。

■各地域における「いのちのとりで裁判」の結果(2024年10月時点)

裁判所結果(原告側から見て)
2020年6月名古屋地裁× 敗訴
2021年2月大阪地裁○ 勝訴
3月札幌地裁× 敗訴
5月福岡地裁× 敗訴
9月京都地裁× 敗訴
11月金沢地裁× 敗訴
12月神戸地裁(兵庫訴訟)× 敗訴
2022年3月秋田地裁× 敗訴
5月佐賀地裁× 敗訴
5月熊本地裁/佐賀地裁○ 勝訴 /× 敗訴

6月 東京地裁①○ 勝訴
7月仙台地裁× 敗訴
10月横浜地裁○ 勝訴
2023年2月宮崎地裁○ 勝訴
3月青森地裁 /和歌山地裁/さいたま地裁○ 勝訴 / ○ 勝訴 /○ 勝訴
4月大阪高裁(大阪訴訟)× 敗訴(控訴審)
4月奈良地裁/大津地裁○ 勝訴/× 敗訴
5月静岡地裁 / 千葉地裁○ 勝訴 / ○ 勝訴
10月広島地裁 ○ 勝訴 
11月名古屋高裁○ 勝訴(控訴審)国家賠償も認める
12月那覇地裁×敗訴
2024年1月鹿児島地裁/富山地裁○ 勝訴/ ○ 勝訴
2月津地裁○ 勝訴
3月大阪高裁(兵庫訴訟)× 敗訴(控訴審)
4月仙台高裁秋田支部(秋田訴訟)× 敗訴(控訴審)
5月東京地裁②○ 勝訴
6月東京地裁③○ 勝訴
10月岡山地裁○ 勝訴

最高裁勝訴後にも課題は山積み。いのちのとりで裁判は第2ラウンドへ

いのちのとりで裁判のチラシ

――最高裁で違法と判断されたのに、別の理屈で国は減額を維持したんですね。

そうです。最高裁は2025年6月27日の判決で、デフレ調整(-4.78%)を違法とし、減額処分を取り消しました。それなのに、厚生労働省は専門委員会の報告書を踏まえ、違法とされた部分を「低所得世帯(下位10%)の消費実態との比較」という新たな「高さ調整」(-2.49%)に置き換えて、再計算・再減額する方針を決めました。

結果として、引き下げ幅を一部残したままの対応です。これでは判決の効力を無視した「蒸し返し」に他なりません。行政法上、訴訟で現に主張し又は主張し得た理由を蒸し返して、判決後に改めて不利益な処分をすることは許されないと解されています。紛争の一回的解決の要請に反するからです。

また、国は、この再減額分について、原告に限り「特別給付金」を支給することで穴埋めをする方針を示しています。原告とそれ以外で扱いに差を設けるのは、生活保護法が求める無差別平等原則に反します。

厚生労働省が2月20日に保護費の追加支給に向けた告示を出しましたので、3月1日以降に各自治体で追加支給が順次開始されますが、課題は山積みです。

2026年1月15日に弁護士有志(日弁連元会長ら呼びかけで1300名超賛同)が共同声明を厚労省に提出し、対応策の撤回と全面補償を強く求めました。原告・弁護団としても同様の要請を繰り返していますが、国は動いていません。

国が再減額処分を強行すれば、原告側は改めて集団で審査請求を行い、不服が認められなければ新たな取消訴訟(再提訴)を提起せざるを得なくなります。現在、まずは審査請求の準備を進めている段階です。

最高裁が史上初めて生活保護基準の違法を認定したという点で、極めて画期的な判決でした。それにも関わらず、国は司法の判断を軽視し続けています。これでは三権分立の原則が揺らぎ、日本が法治国家と言えなくなってしまいます。

さらに、これまでの闘いのなかで、230人以上の原告が亡くなっているという現実があります。その重みを思えば、被害の回復をこれ以上先送りにすることは許されないはずです。

――生活保護をめぐるバッシングは、自治体の水際作戦などにもつながっていきました。社会がこの問題をどう捉えるべきでしょうか。

まずは正しい知識を持つことですね。 たとえば「外国人が生活保護で優遇されている」などと言われますが、そのような事実はありませんし、データを見れば分かります。だからこそ僕らも声明を出し、その声を取り上げてくれるメディアもあります。ただそれだけではなくて、多くの人が自分事として考えないからバッシングが起きてしまうのではないでしょうか。

こたけ正義感さんも動画の最後で言っていましたが、生活保護は誰にとっても無関係ではありません。病気やケガなどをきっかけに誰だって頼る可能性がある「いのちのとりで」です。

僕たち弁護士は、目の前に困っている人がいたら、助ける以外の選択肢はありません。その人がこれまでどんな人生を歩んできたのか、あるいは「怠けた結果ではないか」といった評価を持ち出すことはしません。

目の前にいるのは生身の人間だからです。ぜひ今こそ、生活保護を受けている人も、自分と同じ「生身の人間なんだ」ということを考えてみてください。

小久保 哲郎(大阪弁護士会所属)

小久保哲郎弁護士(大阪弁護士会所属)

ひだまり律事務所。京都大学法学部卒業。1995年大阪弁護士会登録。 野宿生活者や生活保護利用者の法律相談や裁判に取り組む。生活保護問題対策全国会議事務局長。編著に、「間違いだらけの生活保護バッシング」(明石書店、2012年)、「間違いだらけの生活保護『改革』」(明石書店、2013年)、「Q&A生活保護利用者をめぐる法律相談」(新日本法規、2014年)ほか。

岩田いく実ライター・インタビュアー

投稿者プロフィール

法テラス、法律事務所勤務後、法人事業としてライター業を展開。年間60人を超える弁護士・税理士を取材。2冊出版中:第一法規「弁護士のメンタルヘルスケアの心得」、自主出版「ルポ豊田商事」

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