子どもにスポーツは必要?取り組むことによる心理的なメリットとは

「子どもにスポーツは必要?取り組むことによる心理的なメリットとは」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

むかしから「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉があるように、青少年の育成とスポーツには強い関係があると考えられています。

教育現場である学校でも、体育の授業でスポーツが取り入れられています。
また、我が国の部活動は、学校生活を構成する要素の中でも一際存在感が大きく、学生時代の部活が、後の人生にも大きく関わっています。このように、我が国においてスポーツは、子どもの人生に大きな影響を与えるものとなっています。

しかし一方で、部活動などスポーツの場でのいき過ぎた指導や、オーバーワークによる故障などの報道も相次いでおり、スポーツに打ち込むことのリスクについても明るみに出ています。我が子にスポーツをさせることで、勉学に支障が出たり、心理的・肉体的に大きな傷を残したりすることにならないかを危惧する親御さんも多いのではないでしょうか。

確かに、スポーツに偏重してしまったり、いき過ぎた指導にさらされたりすると、大きなデメリットがあるのですが、スポーツには体力を向上する以外に、学生時代を終えた後の生活を充実させる心理的メリットがたくさんあります。
将来スポーツを仕事とする人でなくとも、子どものときや学生時代に適切なレベルでスポーツに取り組むことには大きなメリットがあるのです。

今回、注目したEmily A. NothnagleとChris Knoesterによる2022年の論文は、
「子どもたちはスポーツに参加することで、新しいスキルを習得し、課題を克服し、失敗から立ち直り、再チャレンジするといった過程で、苦労するとはどのようなことかを学ぶ。このような経験は、成長後の彼らの人生の助けとなる」と結論づけています。

日本では、子どもの体力低下が問題となっています。
そこで今回は、心理的な部分に焦点をあてて、スポーツに取り組むメリットを紹介していきます。

スポーツの心理的メリット①自己肯定感を育む

スポーツのメリットの一つ目は、自己肯定感を育むことができるという点です。
子どもは、領域を問わず自分自身の有能さを感じたいという、生理的な欲求を持っています。
自分自身に対する有能感を感じることで、他の領域に対しても挑戦しようとする態度を養うことができます。

大人がそのような状況の子どもに関わるときに、肯定的なフィードバックをすることで、子どもの有能感や肯定的感情、内発的動機付け(自分自身から湧きあがった興味・関心・意欲によって何か行動をしようという動悸が生まれている状態)を発達させることができるのです。

このような考え方は、「コンピテンス動機付け理論」と名付けられており、スポーツに取り組む子どもに、大人が励ましや肯定的なフィードバックをすることで、有能感や楽しさ、内発的動機付けを向上させることが多くの研究で実証されています。

ところが実際には、日本の子どものスポーツ離れは、スポーツ庁の報告ではかなりのものです。周りの大人は機会を与える工夫が必要ですね。

スポーツ庁「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」報告書のグラフ_1週間の総運動時間(中学2年 女子)
引用:スポーツ庁「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」報告書
スポーツ庁web.広報マガジン

スポーツに限らず、自分の知らない領域について新たに学ぶ機会は大きいため、内発的動機付けが発達するメリットは、非常に大きいものとなっています。

スポーツの心理的メリット②物事に継続的に取り組む姿勢を育むことができる

子どもやスポーツに取り組む人は、特定のスポーツ活動や競技において、成功への期待を有し、その活動が自分にとって重要な価値を持つと認識することで、その活動を継続したり、そのなかで達成すべき課題に努力したり、取り組んだりします。そのような考え方を「期待―価値理論」といいます。

スポーツを取り組むことが、自分にとって重要な課題を見つけ出し、継続して努力するという経験になり、そのような経験は、スポーツに取り組んでいるという場面以外にも応用することができるのです。

スポーツの心理的メリットを得るために注意すべきこと

ここまで、スポーツによる心理的メリットを解説してきましたが、これらのメリットを享受するためには、気をつけないといけないことがあります。

最も重要なのは、スポーツに取り組む子どもに対して、ネガティブなフィードバックばかりしてしまうのを避けることです。
スポーツを続けていると、努力が結果として出やすい時期もあれば、努力してもなかなか成果が上がらないときもあります。

親として子どもを見守っているときに、たくさん練習しても成果が上がらず、「向いていないんじゃないか」「努力して意味があるのか」「もっと練習しないとダメだ」というような声をかけてしまいそうになることもあるかもしれません。
人は努力するといっても、100%のうち50%程度しか努力しないものです。しかしながら、もっと努力すれば結果は得られます。スポーツに限らず、何かに取り組むとき、うまくいかない状況を打破する経験をすることは、後の人生に対して大きな財産になります。

うまくいかない状況をどのように打破するか共に話すことや、もし取り組むものを変えるときでも「これは向いていない」というようなフィードバックをするのではなく、「あなたにはこれが向いている」という風にポジティブな表現を心がけましょう。

また、指導者が結果を追い求めるあまりに、きつい指導をしていたり、攻撃的な言動が目立ったりする場合には、注意が必要です。子どものモチベーションが十分であれば、良い方向に働くことがありますが、多くの場合、心理面に大きな悪影響を与えます。
攻撃的な指導をする指導者を簡単に信用してはいけません。

スポーツは体だけでなく子どもの心も鍛える

今回は、スポーツが子どもの心理に与える良い影響について解説しました。

スポーツは体だけでなく、心も鍛えることができます。ただ強くなるというのではなく、自分を見つめ直すときや、新たな問題に直面したときに、それを解決することができる能力を養うことができます。

一方で、多感な時期にネガティブなフィードバックを受け続けてしまうと、失敗体験として残ってしまいます。
スポーツにうまく取り組むことは、人生を変える可能性を秘めています。
うまく取り組んで、より良い人生を送れるように、子どもをサポートしましょう。

参考文献:
1.Emily A. Nothnagle & Chris Knoester. Sport Participation and the Development of Grit. Received 05 Nov 2021, Accepted 09 Jun 2022, Published online: 21 Jun 2022
2.Riller Silva Reverdito, Sofia Fonseca, Antonio Lopes,et.al. Sources of Sport Satisfaction and Perceived Self-Efficacy Among Youth in a Competitive Environment. Perceptual and motor skills. 2023 Jun;130(3);1221-1238. doi: 10.1177/00315125231167460
3.Paulina S Melby, Peter Elsborg, Peter Bentsen,et.al. Cross-sectional associations between adolescents’ physical literacy, sport and exercise participation, and wellbeing
4.久崎孝浩・石山貴章. スポーツに参加する子どもの心理的発達に及ぼす大人の影響:
その研究動向と今後の方向性. 応用障害心理学研究 2012;11:45-67
5.吉岡尚美,重藤誠市郎,内田匡輔. 発達障害児・者のスポーツ参加における障壁に関する文献レビュー.東海大学紀要体育学部 2023;52:31-38
6.文科省.子どもの体力向上
7.スポーツ庁 web広報マガジン. ~子供の運動習慣における課題とは~ 「二極化」の改善に取組む「体育」の優良事例をレポート!

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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