運動による記憶力向上 運動と記憶力の関係性

運動による記憶力向上 運動と記憶力の関係性|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)

「最近、物忘れが増えた気がする・・・」
「勉強してもすぐに忘れてしまう・・・」

このような悩みは、みなさんにも心当たりがあるのではないでしょうか?
(私もあります)

記憶力を高める方法として、サプリや脳トレが注目されることが多いですが、実は「運動」が記憶力の向上に深く関係しているのです。

今回は、「運動が記憶力や脳に与える影響」について、最新の研究成果をもとに詳しく解説していきます。

運動で長期記憶が8週間以上も強化される

まず注目したいのが、北海道教育大学と神戸大学などの研究チームによる最新の報告(Morita et al., 2025年)です。

研究に参加したのは、認知機能に問題のない健康な大学生51名。

彼らは2つのグループにわけて試験を行いました。ひとつのグループは「中強度の自転車運動を20分間行う」条件、もうひとつは「座って安静に20分間過ごす」条件です。その後、すぐに15個の単語を覚える記憶課題に取り組みました。

この課題で記憶した単語が、どれだけ保持されるかを確認するために、参加者には24時間後、4週間後、6週間後、8週間後、そして11ヶ月後の5回にわたって再テストが行われ、記憶の定着度を評価しました。

すると、6週後の単語保持数は、運動なしよりも、平均で1.52語多く(p<0.01)、8週間後も1.17語多く覚えることに成功したのです。

つまり、たった20分の運動で、記憶が6〜8週間も強化され続けている可能性があるというわけです。

では、なぜたった一度の運動が、これほど長期間の記憶の保持につながるのでしょうか。

研究チームはその理由のひとつとして、運動によって脳内に分泌される神経伝達物質や成長因子の影響を挙げています。

特に注目されているのが、「ドーパミン」や「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれる物質です。これらは「記憶の形成や固定化」に深く関わっており、運動を行うことで一時的にこれらの物質の分泌量が増えることが知られています。

また、運動によって「脳の可塑性」が高まるともいわれています。

脳の可塑性とは、新しい情報を学習したり記憶を形成したりする際に、神経細胞同士のつながり(シナプス)が強化されることです。運動がこのシナプスの強化を促進することで、記憶がより長く保持されやすくなるのです。

さらに、運動にはストレスホルモン(コルチゾール)の抑制や、覚醒水準の上昇による集中力の向上といった効果もあります。

こうした様々な理由から、記憶形成に理想的な「脳の状態」をつくり出し、学習直後に運動することが記憶力の持続につながったのではないかと考えられています。

表.英単語の正答率(平均)とステッパー運動
表.英単語の正答率(平均)とステッパー運動

短時間の中強度運動でも「注意力」と「処理スピード」に効果あり

実は、記憶力そのものだけでなく、「注意力」や「処理スピード」といった学習の基礎となる認知機能にも、運動は大きな影響を与えることが明らかになっています。

熊本県立大学の松本ら(2016年)の研究では、女子大学生15名を対象に、中強度の自転車運動(10分間)を行わせ、その前後で3種類の課題を実施しました。それは以下の通りです。

  • 連続的な一桁加算(ドリル式加算課題)
  •  一問一答式の単純計算(口頭解答)
  •  視覚記憶課題(複数のイラストを短時間で記憶)

この結果、最も効果が顕著に表れたのは「ドリル式加算課題」でした。運動直後に実施したポストテストでは、正解数が平均27問も増加し、統計的にも有意な向上が見られたのです(P<0.01)。

このような効果の背景には、運動による「注意の分配力(空間的注意)」の向上があると考えられています。運動によって脳の覚醒度が高まることで、より広い範囲に注意を向けられるようになり、複数の情報に素早く反応できるようになるのです。

たとえば、多数の問題が並ぶ加算ドリルでは、一度にたくさんの問題が並びます。どこに視線を向けたら一番効率よく問題がとけるかなどを考えないといけませんが、運動がその処理を効率化するとされています。

一方で、1問ずつ表示される課題では1問だけ集中すればよいので考えなくてすみます。だから、効果が限定的だったようです。

しかし、実際に勉強するときには、様々な効率化が求められます。そのため短時間の運動は「注意力」と「処理スピード」を高め、学習の土台を整えるのに有効だといえるでしょう。

運動は最強の「脳のサプリ」

今回紹介した研究から分かることは、以下の3点です。

  • 中強度の運動(自転車など)を20分行うだけで、記憶が8週間も強化される可能性がある
  • 運動直後の学習がもっとも効果的(運動→学習の順番がカギ)
  • 短時間の運動でも、注意力や集中力が高まり、学習効率がアップする

みなさんも「何かを覚えたい」「効率よく学びたい」と思ったら、まずは10〜20分の軽い運動をしてみてください。

ジョギング、サイクリング、ラジオ体操・・・どんな運動でも構いません。記憶力を高める第一歩として、「動いてから覚える」習慣を、ぜひ取り入れてみましょう!

参考:
1.Morita N. et al. (2025). Movement boosts memory: Investigating the effects of acute exercise on episodic long-term memory. Journal of Science and Medicine in Sport, 28, 256–259.

2.松本直幸 他 (2016). 事前に行う短時間中強度運動が単純加算および視覚記憶課題成績に及ぼす影響. 日本生理人類学会誌, 21(2), 59-68.

3.湯浅成章,他(2020).有酸素運動が英単語暗記に及ぼす影響の確認. 情報処理学会研究報告,186(10),1-5.

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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