【医師の論文解説】人が老けて見えてしまう理由とは?教育が老化を予防する?DNAから見た老化の実態

【医師の論文解説】 人が老けて見える 理由とは? 教育が老化を予防する? DNAから見た老化の実態

私たちが「年をとる」ことは、見た目や身体機能だけでなく、体のなかの「生物学的な老化」が進むことを意味します。

加齢は避けることはできないのですが、人それぞれ老化の進み方には差があります。若々しい状態が長く保たれる人もいれば、若くして老化が進む人もいます。このような差が生じる要因として、生活習慣・社会的立場・体の代謝状態などが挙げられます。本研究は、こうした複数の要因が、「エピジェネティック年齢加速(epigenetic-age acceleration)」という指標にどのように因果的に影響しているかを探ったものです。

“エピジェネティック年齢”というのは、DNAのメチル化(DNAメチル化=DNAの一部に“メチル基”がつく分子修飾)が年齢とともに変化する性質を利用して、生物学的な年齢を推定する手法のことです。過去の研究では、このエピジェネティック年齢が実年齢より加速していると、死亡リスクや心血管・代謝系疾患のリスクと関連すると報告されています。

今回は、このエピジェネティック年齢を加速させる因子についての研究をまとめた論文を紹介します。

論文

Lijie Kong,Chaojie Ye,Yiying Wang,et al.Genetic Evidence for Causal Effects of Socioeconomic, Lifestyle, and Cardiometabolic Factors on Epigenetic-Age Acceleration.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2023 Jul 8;78(7):1083-1091

上海交通大学のLijie Kong氏らが米国で最初に創刊された高齢化に関するジャーナルの一つであり、高齢化の生物学的および医学的側面に焦点を当てた査読付きの科学雑誌「The Journals of Gerontology, Series A: Biological Sciences and Medical Sciences」に2023年7月報告した論文です。

DNAにおける老化の原因を研究

エピジェネティック年齢が実年齢より進んでしまうことを、「エピジェネティック年齢加速」と呼びます。

これは、DNAの老化が進んだ状態と考えられます。これまでの研究では、例えば、喫煙者はエピジェネティック年齢が進みやすくなるという報告はありますが、それらの研究は、他の生活習慣や遺伝的背景などの影響を取り除くことができないという問題がありました。

そこで、この研究では「メンデル無作為化」という遺伝的手法を用いて、遺伝的背景の違いなどの影響を最小限にして、遺伝子の老化であるエピジェネティック年齢加速を進める因子を明らかにするために行われました。

老化と因果関係がありそうなものを特定する

大まかな流れをかみ砕くと次の通りです。

  1. 加齢と関連しそうな因子の選定
    社会的・生活習慣・心代謝のあわせて19の因子をを選びました。
    例:教育年数、家計収入、喫煙、飲酒、体脂肪率、ウエスト周囲径、中性脂肪、2型糖尿病リスクなど。
  2. 遺伝的指標(遺伝子変異: 遺伝的器具変数)を見つける
    これら19要因それぞれに対して、関連する遺伝子変異(SNPs:一塩基多型)を確認しました。これら遺伝子変異は生まれつき持っているものであり、生活習慣や環境などとは本来無関係であると仮定できるため、これらの因子に左右されずに加齢のデータを取ることができます。
  3. エピジェネティック年齢加速の指標データ
    対象となる「GrimAgeAccel」と「PhenoAgeAccel」という2つのエピジェネティック年齢加速指標の統計データ(GWAS:大規模遺伝子関連解析の結果)を利用して、解析を行いました。
    これらはヨーロッパ人集団(34,710人)を対象にしたものです。
  4. メンデル無作為化分析
    メンデル無作為化分析は、「ある要因が本当に老化や病気の原因かどうか」を調べるために、遺伝子の違いを使う方法です。

人の遺伝子は生まれつきランダムに決まるため、生活習慣などの影響を受けにくく、まるで自然が行う実験のようなものです。例えば、「太りやすい体質の遺伝子を持つ人が老化しやすい」とすれば、肥満が老化の原因と考えやすくなります。

このように、遺伝情報を手がかりに、因果関係を推測できるのが特徴です。こうした手法によって、単なる関連ではなく、「因果の可能性」が高いものを見つけようとしました。

老化を促進したものと抑制したもの

死亡リスクの推定に強いエピジェネティック年齢加速指数であるGrim Age Accelについて、因果的に関連が確認された要因は10個ありました。そのうち、最も強い危険因子は喫煙でした。次いで、飲酒量の多さ、ウエスト周囲径増加、昼寝、体脂肪率の高さ、BMIの高さ、C反応性タンパク(体の中で炎症が起こった時に生産されるタンパク質)中性脂肪値の高さ、幼児期肥満、2型糖尿病といったものがありました。

逆に、年齢加速を抑制するものとして、教育年数の長さ、家計収入の多さが挙がりました

別のエピジェネティック年齢加速指標であるPhenoAgeAccelに、因果的に関連を認められた要因は7個で、危険因子のトップは体脂肪率増加、保護因子のトップは教育年数という結果になりました。

【GrimAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】
<老化を加速(β±SE[年])>
1位:喫煙、1.299±0.107
2位:アルコール摂取増加、0.899±0.361
3位:ウエスト周囲径増加、0.815±0.184
4位:昼寝、0.805±0.355
5位:体脂肪率増加、0.748±0.120
6位:BMI上昇、0.592±0.079
7位:CRP値上昇、0.345±0.073
8位:中性脂肪値上昇、0.249±0.091
9位:小児期の肥満、0.200±0.075
10位:2型糖尿病、0.095±0.041

<老化を減速(β±SE[年])>
1位:教育年数が長い、-1.143±0.121
2位:家庭収入が高い、-0.774±0.263

【PhenoAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】
<老化を加速(β±SE[年])>
1位:体脂肪率増加、0.850±0.269
2位:ウエスト周囲径増加、0.711±0.152
3位:BMI上昇、0.586±0.102
4位:喫煙、0.519±0.142
5位:CRP値上昇、0.349±0.095
6位:小児期の肥満、0.229±0.095
7位:2型糖尿病、0.125±0.051

<老化を減速(β±SE[年])>
1位:教育年数が長い、-0.718±0.151

喫煙・過度の飲酒・肥満・炎症などは、「生物学的老化」を加速する可能性、教育が「生物学的老化」を減速する可能性

この研究から得られる主なメッセージを整理すると、以下のようになります。

  1. 喫煙・過度の飲酒・肥満(特にお腹周り)・炎症指標などは、DNAレベルで見た「生物学的老化」を進める“因果的因子”である可能性が高い つまり、これらは単なる関連ではなく、実際にエピジェネティックな老化を促す要素として働く可能性がある。
  2. 教育が進むほど、エピジェネティック年齢の加速を抑える因果的効果が観察されました。教育は、健康に関する知識を増やし健康的な行動を促すこと、教育によって得た能力を用いて生活環境を改善させることなどが、長期的に健康に好影響を与えると考えられます。
  3. 介入や政策のターゲットとしての可能性 加齢関連疾患を抑制し「健康寿命を延ばす」ための対策を考えるとき、喫煙中止、適正な飲酒、肥満・腹部肥満の改善、教育機会の拡充などが、単なる関連性レベルでなく、因果的に老化進行を抑える可能性のある介入目標になり得るという示唆が得られます。

【医師から】喫煙や生活習慣の乱れは遺伝子レベルで健康状態を損なう

今回は、遺伝子の老化であるエピジェネティック年齢加速に関連する因子を解析した論文を紹介しました。

喫煙や生活習慣の乱れは、単にその時の健康状態を悪化させるだけではなく、遺伝子レベルで刻み込まれる老化を引き起こすことが明らかになりました。また、教育や家庭収入といった健康に直接関係しない因子が、老化を防ぐのに重要であるということも明らかになっています。

今後、この研究で得られた知見をもとに、健康を守る対策が確立していくことが期待されます。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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