受験で非常に大きなウェイトを占める数学ですが、この数学が苦手な人も多いと思います。
「足し算や引き算みたいな算数は使うかもしれないけど、高校で習うようなlogだとか、方程式とかは日常生活で使うことがないから、数学なんて勉強しても意味がない」
というような考えを持つ人も多いのではないでしょうか。
確かに、ある程度高度な理系の知識を要求されるような職に就いていなければ、日常生活を生きていくなかで、多くの人は直接数学の理論を使うことは少ないのが現状です。
しかし、仮に理系の職に職に就いていなかったとしても、数学をある程度学習しておくことで、多くのメリットがあり、苦手だからといって完全に放っておくのはもったいない学問です。
数学が嫌いな人の中には、数学を学ぶメリットを見い出せないことが原因になっている人も、多くいると思われます。
今回は、数学を学ぶことの意味について解説していきます。
日本の数学の実力
まず日本における「数学」の学習到達度はどのようなものでしょうか?
OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が進めている、PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査があります。
PISA調査では、15歳児を対象に数学的リテラシー、読解リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに本調査を実施しています。
「PISA 2022」において日本は、数学的リテラシーでは全参加国・地域(81か国・地域)中で5位、読解力は同3位、科学的リテラシーは同2位の結果でした。
これに関して、文部科学省の国立教育政策研究所は、コロナ禍における授業損失が他国に比して少なかったこと、そして、学校現場において、現行の学習指導要領を踏まえた授業改善や、ICT環境の整備が進んだことが影響していると考察しています。
日本は、OECD加盟国の中で、GDPに占める教育支出の割合が、最も低い下位25%の国に入るとされていますが、なかなかの結果だと考えられるでしょう。
(参考:文部科学省.OECD)
数学的 リテラシー | 平均 得点 | 読解力 リテラシー | 平均 得点 | 科学的 リテラシー | 平均 得点 | |
1 | シンガポール | 575 | シンガポール | 543 | シンガポール | 561 |
2 | マカオ | 552 | アイルランド | 516 | 日本 | 547 |
3 | 台湾 | 547 | 日本 | 516 | マカオ | 543 |
4 | 香港 | 540 | 韓国 | 515 | 台湾 | 537 |
5 | 日本 | 536 | 台湾 | 515 | 韓国 | 528 |
6 | 韓国 | 527 | エストニア | 511 | エストニア | 526 |
7 | エストニア | 510 | マカオ | 510 | 香港 | 520 |
8 | スイス | 508 | カナダ | 507 | カナダ | 515 |
9 | カナダ | 497 | アメリカ | 504 | フィンランド | 511 |
10 | オランダ | 493 | ニュージー ランド | 501 | オーストリア | 507 |
数学を学ぶメリット①受験に有利
では、数学を学ぶメリットは何でしょうか?
まず、身もふたもないことからお話すると、数学を学ぶことのメリットは、多くの大学の受験で有利になる点です。
数学が得意になれば、理系の学部はもちろん、国立に進む場合は文系であっても数学が必要になります。
では、なぜ受験の際にこれだけ数学が求められているのでしょうか?
それは、社会に出たときに、数字で構成されたデータを解釈することが必要になる場面が、非常に多いからです。
理系の学問を収めようとする場合には当然必要になりますが、文系に進んでも数学は必要です。
経済学部では、日々変動する経済の流れは数字で表されます。
難関私立大学を出てから、大手の会社に入り営業職になったときに、数字を解釈することができなければ、顧客に自社の製品のアピールポイントをうまく伝えることができません。
「我々の商品は、他社の商品より機能が良くて、それがコストカットにつながると思います」
などというあやふやな説明では、誰も説得できません。
「我々の商品は、他社の商品と比較して、この機能が◯◯%優れている。それにより、御社の人件費にかけるコストを10%削減できます」
と、具体的な説明ができるような人材が求められます。
事実、企業が数学検定に注目しており、数学資格を持っていることを歓迎しているという指摘もあります。
つまり、数字を理解し、解釈がブレないクリアカットな説明ができる人材として、数学の学力が高い人が社会に求められているため、数学は受験の正解では永遠の定番なのです。
数学を学ぶメリット②論理的思考のトレーニング
「数字に強くならないといけないのはわかったけど、三角関数とか、対数とか、証明問題とかそんなものまでやらないといけない意味がわからない」
実際、過去に数学が苦手という人から、このようなことをよく言われます。
確かに、理系に進まなければ、このような問題を解くことはないと思われます。
しかし、数学というのは、論理的思考のトレーニングに非常に有用です。
そもそも論理的思考というものが何か?というところから見ていきましょう。
論理的思考とは、物事を体系的に整理して、矛盾や飛躍のない道筋を立てる思考です。
与えられた情報から矛盾や飛躍なく情報を導き出し、その情報から、さらに得られる情報を利用して答えにたどり着くという思考法です。
例えば、2つの三角形が合同であることを証明する数学の問題があったとしましょう。
これを「どう見ても同じ形をしているから合同」といって、周りの人を納得させるのは難しいですが、「現在得られている情報から1組の辺が等しく、またその両端の角度も等しいことがわかっている。これは三角形の合同の条件に合致するため、合同であることが証明できる」というと、これは2つの三角形が合同であるということを、揺るぎなく言い切ることができます。
同じように、会社で上司に「原価を抑えろ」と言われた際に、「ちょっと無理だと思います」と言っても、「なぜできない!努力が足りない!」と言われてしまうかもしれません。
しかし、「現在の原価率は25%で、これは業界の平均を10%下回っており、高いとは言えません。仕入れ価格は、前年比で5%増加しており、こちらを削ることは困難です」と言うと、理由がはっきりしますね。
つまり、数学はある問いに対する答えを、解釈のズレが発生し得ないように言い切るために、どのような条件を揃えるべきか、揃えた条件をどのように使うべきかを、習得するための学問として、非常に重要なのです。
論理的思考ができていないと、人にものを説明するときに、解釈の違いや疑問が多数出てきて、話が分かりづらくなったり、説得力がなくなったりしてしまいます。
この論理的思考のトレーニングとして、三角関数も対数の問題も証明問題も非常に有用です。
サッカーをやるのに、リフティングを100回できるようにしても、試合でリフティングすることはありません。筋トレの動きもしません。
それでもそれらのトレーニングをするのは、トレーニングによってサッカーをするときの体の動きが良くなるからです。
社会に出て仕事をするときの数学の役割は、サッカーをするときのリフティングや筋トレのような意味があります。
日常生活で使わなくなっても、数学で培った力は、社会に出て非常に役に立つのです。
文部科学省も数学を学ぶことの意義について、以下のように説明しています。
「算数数学で取り上げている内容は単なる知識や技能にとどまらない。すなわち、まず、理解の対象となる知識である。ついで、表現や処理を手際よくしかも的確にするための技能である。」
(参考:文部科学省. 算数・数学の学び)
数学でこのようなスキルをつけることは、一生役に立つと言えるでしょう。
まとめ
今回は数学を学ぶ意義について解説しました。
実は理系でなくとも、数学を学ぶことで得られる論理的思考は、いたる所で求められる能力です。
だからこそ、日常生活で使わないように見える数学が、受験で非常にウェイトを占める学問となっているのです。
メリットがないと思っていると楽しくなく、身につきにくいのですが、メリットを理解していると、学習が捗り、成績も上がってきます。
ぜひ数学を勉強することの意義や楽しさを感じて、社会に出るときに必要な能力を培ってください。