国内初繁殖に成功!マルミミゾウの赤ちゃんが安佐動物公園にて誕生

安佐動物公園 マルミミゾウ

ゾウの中でも小柄な種類のマルミミゾウ。世界的にも頭数が少なくなっており、世界でも飼育例が非常に少ない動物です。2024年時点で日本国内にいるのは、広島県にある広島市安佐動物公園のメイとダイの2頭でした。その2頭から、2025年8月5日に国内初となるマルミミゾウのオスの赤ちゃん「アオ」が誕生。今回は、安佐動物公園のマルミミゾウの担当飼育員である栗原龍太氏に、マルミミゾウの生態から繁殖・誕生までのヒストリーを取材しました。

<目次>

国内で2頭のみ・マルミミゾウの生態について

安佐動物公園 マルミミゾウ

マルミミゾウはアフリカに生息するゾウの中の一種で、600~200万年前にサバンナゾウとマルミミゾウに分岐したと言われています。ガボン共和国でマルミミゾウの研究をしている千葉大学人文科学研究院特別研究員の野本繭子氏によると、マルミミゾウは自然界では総数の約72%にあたる、9万6,000頭ほどがアフリカのガボン共和国に生息しているそう。

ガボン共和国を含む中部アフリカは熱帯林が広がっており、葉や果実などが豊富でゾウにとって過ごしやすい環境です。マルミミゾウは知能の高い動物で数頭のメスが群れをつくり、オスは単独で行動することが多いそうです。一日で100kg以上の餌を食べながら森の中を移動して生活しています。

近年は土地開発や環境問題の影響などで生息環境が悪化し、ガボン共和国でのマルミミゾウの頭数は大幅に減少しています。なお、マルミミゾウの天敵は人間です。象牙などを目的とした密猟は今もなお続いており、深刻な問題となっています。

マルミミゾウの赤ちゃんと母親のメイ・父親のダイが暮らしているのは、広島県広島市にある「広島市安佐動物公園」です。敷地総面積は51.4haあり、西日本では最も広い動物園です。また展示スペースは23.2haあり、昔ながらの「無柵放養式展示」を採用しているのが特徴です。

この展示方法は、来園者との距離が遠くなる一方、動物との間に柵や檻などの障害物がなく、より自然な動物の姿を観察できるのが魅力です。群れで生活する動物はできる限り群れでの飼育をし、なるべく自然に近い環境を再現しています。そのぶん広大な敷地と大量の餌が必要となり、日々の管理は容易ではないとのこと。

発情のタイミングでの同居・発情ピークの察知の難易度が高い

提供:広島市安佐動物公園(メイ・エコー手技の様子)
提供:広島市安佐動物公園(メイ・エコー手技の様子)

国内での飼育は2頭のみのマルミミゾウ。このままだと絶えてしまうのは明白でした。ダイの所有者である山口県の秋吉台自然動物公園サファリランドと安佐動物公園で協議し、オスとメスが1頭ずつ別々に施設にいるより繁殖を目指すよう協議をしたのが2016年のこと。しかし、前例がないマルミミゾウの繁殖は、手探りで難易度も高かったそうです。

年に3、4回しかゾウのメスの発情期は訪れません。また、オスの精子を採取することが難しく、人工授精などは行えないため、交尾による繁殖しか期待できないのが現状です。

そこで飼育チームは、血中ホルモン値の増減を調べ、観察結果と合わせて発情期を予測。そのタイミングに合わせて同居させたものの、交尾をするまでの道のりは簡単ではなかったそうです。まずはメイが怪我をしたり嫌な思いをしないよう、逃げ道(ゲート)を確保しながらお見合いをスタート。しかし、ダイが関心を持つとメイが逃げる……。そのような日々が続きました。

ところがある日、メイの発情期に合わせてダイの様子に変化が現れました。これまでは獣舎から出るとすぐにご飯を食べに行っていたダイが、メイを気にするような仕草が見られたことから、栗原さんは思い切ってゲートを閉じることに。

「ダイは交尾を目にする機会がなく経験もありません。交尾が成功するまでも大変で、ダイがメイの頭にのってしまい困ることもありました」と栗原さんは振り返ります。

このまま失敗が続くようであれば、ゾウは動物の中でも知能が高いと言われているためゾウの交尾シーンをダイに見せる計画もあったそう。大きいモニターをゾウ舎に設置し、スクリーンに交尾の映像を流すことも検討したのだとか。

そして2度の交尾失敗を経て、2023年12月に成功。それからはダイのメイへの関心もピタリと止まり、栗原さんたち飼育員は成功の気配を感じていたそう。しかし、エコーで確認できるまでは病気の可能性もあるため、慎重な観察が続きました。数か月後、はっきりとゾウの姿が見えたとき、「ようやく安心できた」と栗原さんは語ります。

マルミミゾウの出産を終えて

前例のない繁殖・出産となった今回。寝室や運動場の整備、必要な物資の準備、そして出産が近づいた際の職員のシフト調整など、裏では多くの苦労がありました。
合わせて資金面での苦労も大きかったそうです。出産に備えた必要な検査にくわえて、出産後の成長に欠かせないサポートのための費用も必要になります。特に、人工哺育に備えるためのゾウ用ミルクは受注生産で手元に届くまで3か月。それが必要になってからでは遅いため、事前に用意する必要がありました。

「市と協議し、(出産にかかる費用の)満額は用意できないという話になったときに広く協力を仰ごうという話になりました。募金ではなくクラウドファンディングを選んだのは、みなさんに支えてもらいたいと思ったからです」

クラウドファンディングでは、開始から1週間経たずに第一目標の900万円を達成。結果、期間終了までに第四目標である支援金2,400万円まで到達し、最終的に集まった支援金は3,000万円を超えました。クラウドファンディングに参加したのは広島県内の人が主で約1,000件。東京や大阪などの首都圏でもそれぞれ200件ほどの支援が寄せられ、地域の関心が高かったことが伺えます。

なお、一般公募した命名はこれまでの命名募集の中で過去一番の多さである1万件を超える応募がありました。応募方法は来園のみに限定していましたが、こちらも多くの人の興味関心を集めていたことがわかるのではないでしょうか。

8月5日生まれのアオは、8月23日時点で体高81cm、同時期の体重が99kg。10月13日時点では体重128.5kgまで達し、順調な成長を見せています。母親ゾウが子に関心を寄せるかどうかには個体差がありますが、メイは母性がある性格。子どもを気にかける様子も多く見られるそうです。メイが呼べば子どもが駆け寄ったり、飼育員が子どもをかまおうとすると間に入ったりすることもあるといいます。

「メイが自分の子どもと認識できないのではという懸念もあったため、赤ちゃんを攻撃するという状況になったときにどうやって離すのかをずっと考えていました。2頭の間に人間が入って止めることは危険なのでやりません。そうなったときに人命を大事にしながら赤ちゃんを助ける方法ばかり考えていました」

国内では人工哺育の成功例がサバンナゾウのわずか1頭のみとされており、母乳で育てられていることも大きな喜びだと栗原さんは胸をなでおろしていました。

アオは現在ワンパク盛りで、泥遊びなど楽しむ様子も見られます。千葉大学大学院人文科学研究院特別研究員の野本氏は、コミュニケーションとしても使われる鼻を見ると面白いと教えてくれました。

“サンプル数1”を得られた貴重な経験を今後に活かしたい

現在、広島市安佐動物公園にはサバンナゾウのオス1頭を含め、ダイと今回生まれた赤ちゃんを合わせると全部で3頭のオスを飼育しています。オスのゾウは狂暴になる“マスト”と呼ばれる時期があり、ゾウ同士だけでなく人間や構造物に対しても攻撃することがあり危険が伴うため、このまま3頭とも飼育することはできません。

さらにダイと赤ちゃんの所有権は秋吉台サファリランドにあるため、両園で協議を進めていくとのこと。

今回のマルミミゾウの繁殖と出産は、外部から新たな個体を迎えることができない現状において、種の保存という観点からも極めて貴重な成果となりました。繁殖には適切な環境・餌・管理の3つが必要ということもあり、すべての動物種を繁殖させることは容易ではありません。だからこそ、全国の動物園と連携を取りながら進めていくべきだと栗原さんは考えます。

また、動物園という場所は動物の保全を目指すための役割もあるため、今後も繁殖に関してていねいに取り組む姿勢だと強調していました。

「我々だけでなくメイも今回の出産で多くのことを学習できました。ひとまずはゆっくり休んでもらい、また落ち着いたら2回目の出産もあればいいなとは思いますね」

今回の繁殖・出産は、マルミミゾウに関する国内初の記録的なサンプルでもあり、今後の研究や保全活動において大きな意味を持つ出来事となりました。マルミミゾウの赤ちゃん・アオの展示はしばらくの間、時間制限を設け母子に負担のない形で行われるそうです。

今しか見られない、小さく元気なマルミミゾウ「アオ」の成長にぜひ注目してください。

丸山希商業ライター

投稿者プロフィール

愛媛県出身・広島県在住。
FP2級を保有しており金融記事・ライフスタイルコラムが得意。

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