廃業相次ぐ病院経営 7割以上の病院が赤字経営という「真実」

「廃業相次ぐ病院経営 7割以上の病院が赤字経営という「真実」」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

健康はなによりも大切です。

どんなにお金を稼いだとしても、どんなに美を追求したとしても、どんなにコストパフォーマンスや便利さを求めたとしても・・・全て健康があって初めて「幸せ」を感じられるはずです。

つまり、言い換えれば「健康」は、何よりも変えられない「資産」のはずです。

そして、私たちの健康を最も支えてくれるサービスが「医療」です。

心筋梗塞やガン、脳卒中。突然ふりかかる様々な病気。そして、新型コロナやインフルエンザなどの様々な感染症。

いざ自分たちの健康が脅かされたとき、最後に支えてくれるのが病院やクリニックなどのさまざまな医療機関です。
そういう意味で、最も私たちに大きな価値を与えてくれる分、他のサービスよりもずっと儲かっていても、全くおかしくはありません。

しかし・・・実態は違います。もはや「崩壊寸前」という言葉が過言でない状況が、日本の現在の医療なのです。
実際、最近の統計によると、驚くべきことに7割以上の病院やクリニックが「赤字経営」に陥り、廃業が相次いでいます。

不思議ではありませんか?
最も価値が高い「健康」を私たちに与えてくれる病院やクリニックが、どうして「赤字」になっているのでしょう?
また、よくSNSで「コロナ禍で病院やクリニックは荒稼ぎしている」と揶揄されますが、本当なのでしょうか?

今回は、「病院経営」という視点から、日本の医療の「歪み」について鋭く切り込んでいきます。

もはや崩壊寸前になっている、日本の病院経営の実態

つい最近、総合病院が突然経営破綻になったとしてニュースになりました。
実際、日本の医療は風前の灯火となっています。

これはコロナ前から既に深刻化していましたが、コロナにより加速しています。

実際、一般社団法人 日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人が発行する「医療機関経営状況調査」によると、日本の病院が医業利益で赤字になっている割合は、次の通りとなっています。

  • 2018年度:64.0%
  • 2019年度:63.5%
  • 2020年度:79.1%
  • 2021年度:72.5%

このように、4期続けて赤字病院割合が60%を超えており、コロナ前からずっと「赤字の病院の方が多かった」ことが上げられます。

しかも、2020年度から突然15%以上赤字経営の病院が跳ね上がっています。これはひとえに、新型コロナウイルスの流行が原因です。

ここでは、一病院あたりの医業収益と医業費用を表にまとめました。赤字が雪だるま式に膨れ上がっていくことが分かります。

      医業収益医業費用医業利益
2021年12月644,255758,948‐114,693
2022年01月625,597628,180-2,582
2022年02月574,742612,317-37,575
表1.一病院あたりの平均医業収益と医業費用(単位:千円)

新型コロナウイルス感染症に伴う補助金がなければ「最悪の状況」に・・・

もう少し詳しく見てみましょう。

今度は、一病院あたりの平均の収支について見ていきます。
同資料によると、一病院あたりの「医業収益」は、2022年の1月時点で「1,844,594,000円」となっています。桁が多すぎて分からないと思いますが、約18億強といったところになりますね。

入院診療収益で診療収益約12億円、外来で約5億6000万という計算です。これを見て「稼いでる」と感じた方もいるかもしれません。

しかし、医院の経営は、みなさんが思っているよりも圧倒的にコストがかかるもの。
なんと医業にかかる費用は「1,999,444,000円」、つまり約20億円もかかっているのです。

つまり収支であわせると、「マイナス154,850,000円」となり、1年間に1億5000万円もの赤字を出す結果となりました。

しかし、新型コロナ感染症に伴う補助金などでやっと持ち直し、経常利益で「74,256,000円」つまり、約7,400万円の収支にやっと落ち着いているというわけなのです。

例えばみなさん、一生懸命病気の人を救ってきても「タダ働きになっていしまっている」としたら・・・どう思いますか?
1年間働いて「赤字」ということはそういうことです。

今度は、経常利益での赤字の割合の観点から見てみましょう。

経常利益における赤字の割合で見てみると、赤字病院割合が 2018年度の46.4%から2021 年度では19.9%へと 26.5 ポイント減少し、大きな改善がみられています。

しかし、これは政府による「補助金」があった場合の話。

緊急包括支援事業等コロナ関連の補助金を除くと、経常利益での赤字病院の割合は、次のように大幅に増加しています。

  • 2020年度では30.8%から65.9%
  • 2021年度では19.9%から55.9%

100床あたりの経常利益で見てみても、2020年度、2021年度で黒字となっていますが、これもコロナ関連の補助金があってこそ。
「コロナを通して、医院が儲けてばかりいる」と心無いバッシングが寄せられますが、実を見るとそんなレベルではなかったのです。

「コロナの補助金がなければ、医業を保つことができない」そんな状況だったのです。もしコロナ関連補助金がなければ、多くの病院が経営を保てず、経営が破綻していたことでしょう。

よく「コロナはタダの風邪」なんていわれますが、そんなことはありません。ワクチンができ、医療体制が整い、治療薬が開発され、感染対策を医療従事者がしっかり行い、努力を行ってきたからこそ、なんとか被害を最小限に抑え込むことができました。
それほどまでに、コロナは脅威だったのです。

なぜコロナで日本の病院は「破綻寸前」まで追い込まれたのか?

では、どうして日本の病院経営はコロナで「破綻寸前」まで追い込まれたのでしょうか?

それは一重に、みなさんが想像する以上に、医療関係者の間でコロナ禍での負担が重たかったから。
少なくとも、当初の新型コロナは非常に「脅威」でした。

非常に高い感染力、長い潜伏期間に高齢者を中心とした高い死亡率。その背景にある治療薬、ワクチンもない状況。
本当に「打つ手だてのない脅威」から入院患者さんを守るために、ありとあらゆる感染防御する手段が講じられました。

防護服やフェイスシールドで徹底的に防御し、非感染者との導線を分けて、N95マスクという非常に苦しいマスクまで装着して、コストと時間をかけて徹底的に「非感染者」を守っていたのです。

時間がかかるということは、回転が悪くなるということ。「稼ぐ」という点では、非常に大きなデメリットとしてのしかかります。当然ながら「コロナを診ない」という病院が相次ぎました。

そこに追い打ちをかけるのが「病院への受診控え」。入院、外来ともに一気に患者さんが減りました。「コロナに罹りたくないから、なるべく長く処方してほしい」という要求も起こりました。

長期処方ならいざ知らず、コロナ感染のために手術が中止や延期になったり、コロナのために病床を空けなければいけなかったりと、さまざまな側面で医療経営を悪化させていったのです。

そして露呈された、保険診療の「限界」

このように、コロナを通じて、補助金がなければ、多くの病院が経営破綻まで追い込まれるという事態が露呈されました。

本来、「健康」という最も大切な価値を守っている病院が、赤字経営になってしまっているというのは本当に「変」な話です。どうしてこんな異常事態になっているのでしょう。

その根底には「保険診療の限界」があげられます。

保険診療では、全ての医療行為に対して「何円支払う」ということが、国の方から決められています。

例えば

  • 〇〇の患者を見たら●円
  • こういう処置をしたら●円
  • こういう手術なら●円

などです。

保険診療点数ではクオリティなどは求めていませんし、「じっくり話を聴く」ではお金は「ゼロ円」です。

しかし、ラーメンでも千差万別あるように、同じ診療でもクオリティの差は歴然としています。そして、ラーメンでも500円のラーメンから2000円以上するラーメンもあるように、診療でも違う値段をつけて当然のはずなのに、診療は一律同じ値段です。

そのため、重症患者診療をしている病床数が多い大学病院をはじめとする大病院や、不採算部門を切り捨てられない自治体病院は、人件費をはじめとする医業費用がかさみます。

ここでは、公立病院と私立病院における黒字病院を表にまとめました。

    私的病院自治体病院
1989年62.00%29.40%
1992年44.60%13.80%
1995年55.30%13.40%
1998年60.4%7.2%
2001年66.1%11.3%
2004年52.7%12.9%
2007年52.4%7.4%
2010年62.9%15.0%
表2.私的病院と自治体病院の黒字病院割合の推移

ここに保険診療の限界があります。つまり保険診療ではある程度「上限」が見えてしまっているのです。

政府はどんどん保険診療の「引き下げ」をすべく動いています。

そして、「じっくりひとりひとり真面目に話を聞く、いい病院」ほど儲からない・・・そんな歪んだ医療になってしまっています。これが赤字経営の裏側の実態です。

誰しも善意だけでは食べていくことはできません。そして、誰も好き好んで「破産」するはずがありません。
少なくとも多くの病院が赤字になっている現状は、一刻も早く解消されてほしいものです。

参考文献:
1.一般社団法人 日本病院会・公益社団法人 全日本病院協会・一般社団法人 日本医療法人協会.医療機関経営状況調査
2.一般社団法人 日本病院会・公益社団法人 全日本病院協会・一般社団法人 日本医療法人協会.2022年度病院経営定期調査-集計結果(概要)-
3.厚生労働省.医療法人経営統合の背景
4.総務省.公立病院の経営状況
5.総務省.病院事業決算状況・病院経営分析比較表
6.総務省.経営指標の概要(病院事業)
7.厚労省.R3年度 医療政策研修会
8.厚労省.病院経営収支調査の結果

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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