子どもの隠れた才能「非認知能力」 「GRIT」(やり抜く力)について

「子どもの隠れた才能「非認知能力」 「GRIT」(やり抜く力)について」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

突然ですが、あなたは子どものことをどのように評価していますか?

  • テストの点が優れている=優れた子
  • 他の子よりも色々なことを知っている=賢い子
  • 早いうちから論理的に考えられる=すごい子

そんな風に考えてはいませんでしょうか。
実は、学校で学ぶ知識や論理的思考などは「認知能力」といわれるもので、子どもの能力の一端にすぎません。
最近は、性格や態度、行動パターンなどの「非認知能力」の方が重要ではないかと考えられています。

例えば、学校のイベントでグループ活動を行うとき、協調性は大切ですよね。
自分の意見を持ちつつ、他のメンバーの意見も尊重しながら、最適な解決策を見つけていく力です。
社会にこれほど必要な力もないでしょう。

また、創造性も同様に重要です。
新しいアイデアを出し、それを形にする力は、社会人になって新しいビジネスや技術を生み出す基盤となります。

しかし、これらの力は決して論理的思考を問う「学校のテスト」で推し量ることができません。
「認知能力」とは全く異なる能力であり、「非認知能力」といわれています。

今回は、子どもたちの隠れた才能である「非認知能力」と、非認知能力の中でも特に大切である「GRIT(グリッド)=やり抜く力」についてお話していきます。

子どもにとって学力以上の「非認知能力」とは?

「非認知能力」(ひにんちのうりょく)とは、一般的に知識や学力などの「認知能力」に対して、性格、態度、意欲、対人関係能力など、学問や仕事の遂行において重要な役割を果たす能力のことです。

例えば、非認知能力として、次の要素があげられます。

  • 協働力:他人と協力して作業を進め、共通の目標を達成する能力。
  • コミュニケーション力:効果的に情報を伝え、他人と意思疎通を図る能力。
  • 主体性:自ら進んで行動し、責任を持って物事に取り組む姿勢。
  • 自己管理能力:自分の時間やリソースを効果的に管理し、目標に向かって計画的に行動する能力。
  • 自己肯定感:自分自身の価値を認め、肯定的に評価する感覚。
  • 実行力:計画を実際に行動に移し、目標を達成する能力。
  • 統率力:グループやチームをまとめ、効果的にリードする能力。
  • 創造性:新しいアイデアを生み出し、革新的な解決策を考える能力。
  • 探究心:新しいことを知りたい、学びたいという強い欲求。
  • 共感性:他人の感情や立場を理解し、共感する能力。
  • 道徳心:正しい行動を選び、倫理的な判断をするための感覚。
  • 倫理観:倫理的な基準や価値観に基づいて行動する能力。
  • 規範意識:社会や組織のルールや規範を理解し、遵守する意識。
  • 公共性:社会全体の利益や福祉を考え、行動する意識。
  • 独自性:他人とは異なる独自の視点や考え方を持ち、自分の「アイデンティティ」を表現する能力。

また、認知能力と非認知能力の境界線部分に以下の能力もあります。

  • 問題解決力:直面する課題や困難に対して、効果的な解決策を見つけ出し実行する能力。
  • 批判的思考力:情報や状況を論理的かつ客観的に分析し、適切な判断を下す能力。

これらの能力は社会を生きていく上でどれも大切です。実行力や創造性、探求心、独自性がなければどんなプロジェクトも実行に移すことが出来ません。
倫理観や規範意識がなければ、新しいプロジェクトも社会的に正しい方向になるかはわからないでしょう。

どの非認知能力も非常に大切ですが、その中でも近年、重要視されているのがアメリカの心理学者アンジェラ・ダックワースによって提唱された「GRIT」(やりぬく力)です。

参照
「非認知能力」の概念に関する考察(Ⅱ)~ 「非認知能力」の要素における関連性の観点から ~<改訂版>
Creating a scale for measuring non-cognitive abilities developed through sports for elementary school students

子どもの「GRIT」(やりぬく力)が現代の社会に必要な理由は?

「GRIT」(やりぬく力)とは、子供が目標に向かって長い時間をかけて努力し続ける力のこと。 

GRITは、Guts(闘志)、Resilience(粘り強さ)、Initiative(自発)、Tenacity(執念)の4つの頭文字をとった言葉です。

GRITがあると、子どもは困難に直面してもあきらめず、目標を達成するために粘り強く挑戦し続けるようになります。

GRITが高い子どもだと、例えば、以下のようなことができるようになります。

  • 算数の問題が難しくて解けなくても、子どもが何度も挑戦して解けるまで頑張れる
  • 水泳で最初は長い距離を泳げなくても、何度も挑戦して練習を続けることで目標の距離を泳げる

こうしたことは成長には欠かせない要素ですし、「なにをいまさら」と思う方もいるかもしれません。

では、なぜGRIT(やりぬく力)は、現代社会において注目されるようになったのか。その理由を以下の通りです。

①急速な変化と競争にさらされているから

現代社会は急速な変化と激しい競争にさらされています。
日進月歩で進化していく技術。どんどん進んでいく国際化。

そのため、私たちは常に新しい知識やスキルを学び続ける必要があります。

GRITを持つ人は、こうした変化に対応するために継続的な学習と努力を続けることができ、競争に勝ち残る力を持っているのです。

②長期的な成功がキャリア形成には必要だから

今の現代社会は技術の進歩で誰でもできる仕事は機械に任せるようになり、よりプロフェッショナルで責任のある職業だけが勝ち残る時代になっています。

そして、プロフェッショナルな仕事ほど長期的な努力が必要不可欠です。
例えば、医師や弁護士、エンジニアなどの専門職では、長い時間をかけて知識や技術を習得する必要がありますよね。

GRITがあれば、長期間にわたる努力を続けることができます。

③持続的な幸福感がこれからの社会に大切だから

今はちょっとした快楽ならすぐ手に入れられる時代です。

SNSを開けば興味を引く内容が盛りだくさんですし、YouTubeやNETFLIXにつなげば、いつでも楽しい番組がやっています。

これらの「快楽」は一時的なものに過ぎませんが、あまりに種類が多すぎて、GRITが高くないと、楽なほうに流れて時間を浪費してしまうことにつながります。

しかし、真に大切なのは「持続的な幸福感」です。

  • 目標に向かって努力し、成果を感じる時間。
  • 自分の好きな趣味やクラフトに集中する時間。
  • 信頼できる友人と笑い合いながら話す時間。
  • 愛する家族と一緒に過ごす食事の時間。

こうした幸福感を実感することは、一朝一夕ではできません。
家族を作るのにも長い時間がかかりますし、信頼できる友人もスマホを開けば手に入るものではありません。
自分の「好きなもの」に没頭できるのも、続けられる熱い気持ちが内にあればこそです。

こうした「持続的な幸福感」を育てるのに欠かせないのが「GRIT」なのです。

親として子どもの「GRIT」を育てるには?

では、親として、子どものGRITを育てるにはどのような方法があるのでしょうか。

①GRITを育てる教育環境を選ぶ

学力といった認知能力だけでなく、非認知能力をあげるのにも、教育環境を整えることが大切です。
そして、教育手法によってGRITを育てられると言われています。

例えば、イスタンブールの小学校で行われた研究では、特定の教育的介入を通じてGRITを育むことができることが示されました。
この試験では、生徒が、難しくても報酬の高い課題を選び、失敗してもあきらめず、努力を続けて課題に取り組むように促しています。

すると、介入を受けた生徒は、簡単な課題よりも挑戦的な課題を選ぶ傾向が強く、失敗してもあきらめることが少なく、学業成績も向上しました。
具体的には、介入を受けた生徒は、主要科目でトップの成績を取る可能性が約3ポイント高くなったのです。

教育は非常に大切です。
ですから学校や塾でも「間違えたらどうするか」「壁にあたってしまった時の対処法は何か」について、よく観察してGRITを育てる姿勢になっているかを見ておくとよいでしょう。

参照
Ever Failed, Try Again, Succeed Better: Results from a Randomized Educational Intervention on Grit

②親が子どもの自主性を尊重すること

普段から「勉強しなさい」と子どもの行動を親が束縛していませんか?
実は、子どもの自主性はGRITを育てるのにもとても大切です。

みなさんも、外から言われたことを嫌々こなしている状況では、「粘り強さ」を身に着けることなどできませんよね?
子どもも同じなのです。

例えば、親が子どもに対して、自主性を尊重しつつ、サポートするような接し方を変えてみましょう。
自分で考えたことなら、子どもは困難に直面しても、あきらめずに努力を続けるようになります。

また、親からの成績へのプレッシャーを減らすことで、子どもの学業ストレスが軽減され、生活満足度が向上することもわかっています。

どうしても親の立場からすると、「なんでもっとこうしないんだろう」と思うことも多いですが、温かい目で見守ってあげてくださいね。

参照
Academic Helplessness and Life Satisfaction in Korean Adolescents: The Moderated Mediation Effects of Leisure Time Physical Activity

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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