子どもたちは未来の希望です。
その未来を守るために、日々奮闘する小児科医の存在があります。
しかし、小児科医の仕事は決して容易なものではありません。
過酷な勤務環境、経済的な困難、そして何より子どもたちの命を預かる重大な責任。
それでも小児科医は、子どもたちの笑顔と健康のために、自身の全てを捧げています。
お隣の国、韓国は出生率の低下と小児科医不足が社会問題となっています。
子どもがいないから儲からない。だから小児科医のなり手がいない。
小児重症患者がたらい回しになる。救える子どもの命が救えない。
そのような医師不足を解消しようと、医大生定員を2025年度に2,000人増やすとする韓国政府の方針に反発して、研修医がストライキを起こしているとも報じられています。
少子化が進む日本にも、訪れるであろう未来です。
実際、そんな小児科医は「割に合う職業」なのでしょうか?
今回の記事では、そんな小児科医の真実に迫り、小児医療について一緒に考えていきましょう。
小児科医になるには?
子供たちの健康を守る「小児科医」。
なるためにはどれだけ大変かご存知ですか?
小児科医になるためには、まず医学部に進学し、6年間の学習を経て医師の国家試験に合格し、医師免許を取得するのが第一歩。
みなさんもご存知の通り、例え一番偏差値の低い大学の医学部であっても、他の学部よりも圧倒的に高い偏差値が必要です。
この時点で、相当な年月と努力が必要です。
その後、2年間の初期臨床研修を経て、小児科の医局に入局したり、市中病院でキャリアアップをすることで小児科医になります。
実は病院によっては、小児科の特別な臨床研修カリキュラムがあるほど、小児科は「特別な科」の一つ。
なぜなら「子どもは大人を小さくしたものではない」からです。
子どもの体の大きさや機能は、年齢や月齢によって大きく変わるため、それぞれに合った診療や投薬を行う必要があります。
また、小児科の診療は、内科、皮膚科、アレルギー科などのように、診療科が分かれていないため、あらゆる科の幅広い知識を持って治療をすることが求められます。
小児喘息や小児感染症のような子ども特有の病気に関する知識も必要です。
さらに、小児科専門医になるためには、臨床研修が終了した後も学会の指定した専門医研修施設(専門医研修関連施設を含む)において、3年以上の専門医研修を修了しなければなりません。そのうえで、専門医試験および審査に合格することが条件となります。
小児科医になるための「道」。
かなり険しいものであることがよく分かりますよね。
参照:日本小児科学会「小児科専門医Q1-1.卒業年度ごとの受験資格について教えてください。」
小児科医の労働時間や労働環境は他の医師と比べて大変?
では、そこまで苦労してなった小児科医。
実は、医療施設に従事する医師のうち、「臨床研修医」を除くと「内科」、「整形外科」に続いて3番目に多い診療科です。
順位/科 | 医療施設に従事する 医師数(構成割合) | 平均年齢 |
1.内科 | 60,403人(19.4%) | 58.6歳 |
2.整形外科 | 21、883人(7.0%) | 51.5歳 |
3.小児科 | 17,321人(5.6%) | 50.5歳 |
4.精神科 | 15,925人(5.1%) | 52.0歳 |
5.消化器内科 (胃腸科) | 14,898人(4.8%) | 46.9歳 |
(一部省略) | ||
総数 | 311,963人 | 49.9歳 |
実際、労働環境や労働時間は他の医師と比べてどうなんでしょうか?
①小児科医の労働時間
小児科医の労働時間を調査した報告書によると、
- 小児科医の1週間あたりの平均労働時間は約52時間
- 小児科医で60時間以上働いている人の割合は約40%
といわれています。
通常の労働時間が8時間×5日で週40時間とするとかなり長い労働時間となりますね。
診療科全体の医師の労働時間平均(46.6時間)と比べても、約6時間長くなります。
また、60時間以上働いている人の割合も、他の科の平均(27.9%)に比べて約13%高い結果となっていますね。
小児の急変は突然ですし、自分のことなら様子を見れる親も、子どもの急変には非常に敏感になります。
さらに、日本では多くの場合、ほとんど「タダ」で診療を受けられるので、急変時に子供を夜間でも病院に連れていきやすいのも、労働時間が多くなりやすい原因の1つです。
②小児科医の労働環境
小児科医は、子どもが生まれてから成長するまでの期間に発症した病気を診断し、治療を行うのが仕事です。
そのため、子ども特有の病気だけでなく、さまざまな診療科の知識が求められます。
実際、地方の病院は小児科医の人手不足が深刻化しており、1人の医師が外来と入院を同時に対応するケースもあり、忙しい診療科目となっています。
また、子供だけでなく、「疾患を予防するためにどうすればよいか」を保護者に対して正しく啓蒙していくことや、ワクチン接種など、非常に多岐にわたる仕事内容です。
こうした労働環境が天国か地獄かは、本人の子どもに対する興味と気質に大きく左右されます。
③小児科医のキャリア形成
小児科は、キャリア形成の選択肢として、大学病院や地方病院で専門を極めるということの他に、「開業」が挙げられやすい診療科目の一つ。
実際、開業を検討している小児科医の割合は9.8%と、平均である7.8%よりも高い傾向があります。しかし、開業するためには、開業のための資金はもちろん、経営者としての資質が求められます。
開業がうまくいかなかった場合、赤字を抱える可能性もあります。
ただし、開業で上手くいった場合は、ある意味非常に激務になると同時に、勤務医時代以上の収入が得られます。
参照:
厚生労働省職業情報提供サイトjobtag「小児科医」
MRT「小児科医の平均年収や仕事内容、キャリアプランなどを解説」
小児科医の年収は?
通常よりも労働時間も長く、さまざまな業務をこなす小児科医。
赤裸々な話、小児科医の年収はどれくらいなのでしょうか。
小児科医の年収は、その働き方や立場により大きく異なります。
一般的に、病院に勤務する小児科医の平均年収は、約1,220万円とされています。
もちろん、他の職業も含めた年収から比べると非常に高額ですが、他の診療科目の医師と比べると低い水準ですね。
順位 | 診療科 | 平均年収 (万円) |
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 |
2 | 産科・ 婦人科 | 1,466.3 |
3 | 外科 | 1,374.2 |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 |
5 | 整形外科 | 1,289.9 |
6 | 呼吸器科・ 消化器科・ 循環器科 | 1,267.2 |
7 | 内科 | 1,247.4 |
8 | 精神科 | 1,230.2 |
9 | 小児科 | 1,220.5 |
10 | 救急科 | 1,215.3 |
年収の分布を見ると、最も多い年収帯は、1,000万円から1,500万円で全体の33.1%、次いで1,500万円から2,000万円が全体の28.4%を占めています。
小児科医は保険点数が低く、経済的な収益性は、実は他の診療科と比較して、必ずしも高いとは言えません。
そのため、地域のニーズに応じて、内科を兼業することもあります。
さらに、小児科医としての仕事は、子どもだけでなくその親とのコミュニケーションも重要となります。
特に「モンスターペアレント」などと呼ばれる、過度な要求をする親への対応も求められることがあります。
そのため、高い精神力やコミュニケーション能力が必要となるのです。
以上のように、小児科医の年収は多くの要素によって左右されますが、子どもたちの笑顔や元気になった姿を見ることができるなど、やりがいの大きい仕事であることは間違いありません。
参照:
厚生労働省職業情報提供サイトjobtag「小児科医」
マイナビDOCTOR「【医師の年収事情】小児科医は給与が低くても満足度が高い」
小児科医の活力は子どもたちの笑顔
では最後に、総合的に考えて小児科医は「割に合う」仕事なのでしょうか?
個々の価値観にも非常に強く左右されますが、以下の観点から考えてみましょう。
まず、経済的な観点から見ると、小児科医の年収は他の診療科目と比較して、中程度の水準であり、開業医となると年収は大幅に上昇します。
しかし、それは大きな投資やリスクを伴います。
また、小児科医は保険点数が低く、人件費率が高いため、経済的な収益性は必ずしも高いとは言えません。
そのため、コロナ禍においては、経営がひっ迫した病院で小児科の閉鎖・休止が相次ぎました。
筆者自身も20年勤め上げた勤務先の変更を余儀なくされました。
次に、労働環境の観点から見ると、小児科医は非常に過酷な勤務状況に置かれることが多いです。
特に新生児科医は、24時間体制での勤務が求められることがあり、これは大きなストレスとなり得ます。
また、子どもだけでなく、その親とのコミュニケーションも重要となり、特に過度な要求をする親への対応は精神的な負担となることがあります。
しかし、それらの困難さを乗り越えたときに得られる達成感や喜びは、他の仕事では得られないものです。
そして、子どもたちの笑顔や元気になった姿を見ることができるのは、小児科医ならではの魅力となり、日々の活力になっています。
実際、年収は決して他と同じくらいなのに、満足度は診療科別で見たときにトップクラスに高いというデータもあります。
さてみなさん、小児科医の仕事のことが少しは分かりましたか?
他の診療科と比べると、決して恵まれているわけではありませんが、子供たちの笑顔が何よりも好きで仕事にしているのが「小児科医」です。
あの手この手で少しでも子供たちの笑顔が見られるよう、頼られるように努力しています。
みなさんも、お医者さんのことを毛嫌いせずに、いつでも子どもの病気のことを小児科の先生に相談してみてくださいね。
参考文献:
1.Bobbi J Byrne,Mary Pat Frintner,Amy J Starmer.et.al. Different Measures and Ways to Categorize Pediatrician Burnout and the Association with Satisfaction. J Pediatr. 2022 Oct;249:84-91. doi: 10.1016/j.jpeds.2022.05.046. Epub 2022 Jun 1(2023.06.21取得)
2.東京新聞. コロナ禍で外来激減し小児科ピンチ 経営難、閉院で地域医療に影響も(2023.06.21取得)
3.内閣府.安心して生み育てられる産科・小児科医療体制の構築 内閣府(2023.06.21取得)
4.2012年独立行政法人 労働政策研究・研修機構 勤務医の就労実態と意識に関する調査(2023.06.21取得)
5.厚生労働省. 平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(2023.06.21取得)