スポーツ中の突然死を防げ!心臓の検診とAED

「スポーツでの心臓突然死を防げ!心臓検診とAED」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

急に心臓の動きに異常を来して、死に至る心臓突然死。

決して稀な病態ではなく、我が国で年間約6~8万人が亡くなっている1)のです。
心臓突然死の発生件数は、年齢と共に増加するのが一般的です。しかし、18歳未満にも心臓突然死は発生しています。

18歳未満の人に特に多いのが、スポーツ中の心臓突然死です。
18歳未満の心臓突然死の実に4割が、スポーツ関連2)であり、これを予防することが非常に重要です。

今回は、スポーツ中の突然死がどの様に起こるか、起こりやすい状況はどの様なものなのか、予防するためにはどうするのかについて解説します。

スポーツ中の突然死はどのようにして起きるのか

スポーツをしているときに、自分は突然死するかもしれない、と思っている人はほとんどいないと思いますが、突然死のリスクが高い人というのは存在します。

そのため、スポーツを行う前に、体の異常などがないかをチェックすることや、突然死が多いスポーツを把握することがまずは重要です。

イタリアの7~18歳のアスリート22,324人に、11年間にわたるコホート研究3)心臓突然死(SCD)のスクリーニング検査では、SCDを起こす可能性が高い69人(0.3%)の子ども、先天性心疾患(n = 17)、心伝導障害(n = 14)、心筋症(n = 15)、心室性不整脈を伴う非虚血性左室梗塞(n = 18)、その他(n = 5)を認めました。

では、突然死を来しやすいスポーツの特徴を見ていきましょう。

一つ目は、激しい運動を伴うスポーツです。
自分の体力の限界に挑戦する様な陸上競技、試合中常に走ったり止まったりを繰り返し、心拍数が乱高下するサッカーやバスケットボールなどが該当します。
単に運動強度が強いという場合には、心臓に異常のない突然死は稀なのですが、先天性の心疾患を持っていると、激しい運動を伴うスポーツでの突然死のリスクがあります。

これを研究2)に基づいて表にまとめました。前述したように、若年者に集中していることが分かりますね。

    年齢(歳)
スポーツの種類0-910-1920-2930-3940-4950-5960-
ランニング2113117
ジョギング22
水泳171111
ダイビング112
サッカー55
バスケットバール44
バレーボール11
野球0
テニス112
ゴルフ123
柔道314
剣道11
空手1113
登山2114
その他*12
表1.スポーツ突然死の種類と年齢群別分布

*:レスリング、トランポリン、キックボクシング、水上スキー、オートバイレース、ハンドボール、組体操、ドッチボール、ハンマー投げ、ハングライダー等

二つ目は、体に強い衝撃を受ける可能性のあるスポーツです。
直接打撃が当たる様な格闘技や、硬いボールが体に向かって飛んでくる可能性のある硬式野球、ソフトボール、フットサルなどが代表的な例です。

体に衝撃を受けた際に起こる心臓突然死は、心臓に異常のない人でも起こり得ます。胸に打撃を受けたり、ボールが当たったりするなどの強い衝撃が加わると、心室細動という不整脈が引き起こされることがあります。これを「心臓震盪」といいます。
心室細動というのは、心臓が痙攣を起こして、ちゃんと血液を送り出すことができなくなる致死性の不正脈です。

これは、心臓に異常のない人でも誰でも起こす可能性があります。
特に子どもや若年者に多く生じるため、子どもが体に衝撃を受ける可能性のあるスポーツを行う際には、特に注意が必要です。

心臓突然死を防ぐために

まずは、しっかりと健診を受けて、心臓に異常がないかを確認することが重要です。
学校検診などで心電図をとった際に、異常を指摘されたら早めに精密検査を受けて、心臓の異常がないかを確認したうえで、スポーツに取り組むことが重要です。
これによって、単に運動強度が激しいスポーツに取り組むうえでの心臓突然死については、かなりリスクを下げることができます。

心臓突然死につながる異常が出現したときの対処も重要です。
心臓の異常を、全ての人が完全に把握するのは難しく、また、前述の様に心臓震盪は予見することができません。スポーツ中に致死性の不整脈起こすことを完全に防ぎ切るのは難しいのです。起こってしまったときの対処を、スポーツに携わる人がしっかりと知っている必要があります。
心臓震盪では、心臓の動きがおかしくなってしまい、心室細動という不整脈を起こしています。

この不整脈を止めることができる装置が、「自動体外式除細動器」(AED)です。

心臓は、体内で電気信号によって動いています。
この電気信号がおかしくなって不整脈は起こっているので、AEDによって電流を流すことで、一度心臓の動きをリセットして元の正しい動きに戻すという効果があります。

これは、子どものスポーツでは、サッカーは心臓突然死のリスクが高いことがわかっています4)
そして, 国際サッカー連盟(FIFA)における調査5)では、ピッチ上で利用可能なAEDで治療された22人のうち、12名(54.5%)が救命されたことも分かっています。

AEDは、2004年に我が国で一般人の使用が認められる様になりました。
きっかけは、2002年に発生した心臓突然死の事案6)です。

スカッシュの練習をしていた高円宮憲仁親王が、心室細動を起こし急逝されたのです。

その後、2011年にはサッカーの元日本代表選手であった松田直樹選手の心臓突然死7)もありました。
この様に、健康状態に問題がないと思われていた人でも、心臓突然死のリスクがあるのです。どちらもAEDを直ちに使用していたら、救命できた可能性は十分にあります。スポーツの練習中にも、本番中にも、心臓突然死を起こす可能性があることを十分に留意し、もしものときのためのシミュレーションをしておくことが、非常に重要なのです。

突然死のリスクを理解して十分な対策を

今回は、スポーツ中の心臓突然死について解説をしていきました。

若いときに、スポーツに取り組むことで肉体面でも精神面でも、多くのものを得られ、その後の人生を豊かなものにできます。
しかし一方で、心臓突然死によって、突如命が失われ、深い悲しみを残すリスクもあるのです。

このリスクを十分に理解して、突然死を起こさないための対策を十分に行い、有事の際には、すぐに対応できるように準備しておくことが何よりも重要です。

■参考文献:
1.厚生労働省. 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
2.高津光洋,重田聡男,村田須美枝ら.スポーツ中の突然死および事故死の予防対策. デサントスポーツ科学 1990;11:32-45
3.Patrizio Sarto, Alessandro Zorzi, Laura Merlo,et.al. Value of screening for the risk of sudden cardiac death in young competitive athletes. European heart journal 2023;44:1084-1092. doi: 10.1093/eurheartj/ehad017
4.突然死が最も起こりやすいスポーツは…
5.Christian Schmied, Jonathan Drezner, Efraim Kramer,et.al. Cardiac events in football and strategies for first-responder treatment on the field. British journal of sports medicine 2013;47:1175-1178. doi: 10.1136/bjsports-2012-091918
6.一般財団法人日本AED財団
7.一般財団法人日本AED財団
8.Irfan M Asif, Kimberly G Harmon, Incidence and Etiology of Sudden Cardiac Death: New Updates for Athletic Departments. Sports Health. 2017 May/Jun;9(3):268-279. doi: 10.1177/1941738117694153. Epub 2017 Feb 1

    秋谷進医師

    投稿者プロフィール

    小児科医・児童精神科医・救命救急士
    たちばな台クリニック小児科勤務

    1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
    金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
    専門は小児神経学、児童精神科学。

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