アンガーマネジメント 怒るときは上手に怒り、ときには怒らないスキル

「アンガーマネジメント 怒るときは上手に怒り、ときには怒らないスキル」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター小児科)

職場や教育の場などで、価値観の違う多くの人と関わる時、時には自分の持っている価値観と合わない人がいたり、自分のことを批判してくる人がいたりと、他の人との関係性に悩むことがあります。
当然そのような時には、相手に対して怒りを覚えることもあるでしょう。

そんな時に怒りをコントロールできないと、多くの人と協調して行動することが求められるような職場や学校で、立場が危うくなる場合や、排除されるような事態にもなりかねません。
そして、最悪の場合には、犯罪と見なされることもあります。

人と関わって生きていく以上、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」の技術は必要になります。
今回はそんなアンガーマネジメントについて解説していきます。

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントは、怒りを抑えるための方法ではなく、怒る必要があるときにはうまく怒り、怒る必要がないときには怒らずに済ますための方法です。
アンガーマネジメントは、1970年代のアメリカで、認知行動療法を基本とした方法として提案されています。

怒りをコントロールできないとどうなる?

「怒りをコントロールできなくてトラブルを起こした」と言われて、どのような状態を想像するでしょうか。

悪口を言われて激昂して暴力を振るった、というような「カッとなって衝動的に行動した」状況を思い浮かべるのではないでしょうか。

もちろん、アンガーマネジメントができないと、そのような問題を起こしてしまうこともあるのですが、それだけではありません。

アンガーマネジメントの失敗の結果、起こることが多いパワーハラスメントの7割以上が「精神的な攻撃」によるものであったとの報告があります。

他人の態度に腹を立てて、その場では怒りを抑えたと思っても、その後態度に出して嫌がらせなどを続けてしまうと、パワーハラスメントと見なされるため注意が必要です。

このように、アンガーマネジメントは大人のものと考えられがちですが、子どもを対象に文部科学省が提唱する「感情理解教育」といったアンガーマネジメントも実践されています。
これは教育現場、特に小学校において、暴力行為の発生件数やいじめの認知件数が増え続けていること、加えて、それにより自分のことを責めてしまう自尊感情に配慮したものです。

    発生件数児童生徒1,000件当たり
発生件数
2021年度2020年度2021年度2020年度
小学校48,138件41,056件7.7件6.5件
中学校24,450件21,293件7.5件6.6件
高等学校3,853件3,852件1.2件1.2件
76,441件66,201件6.0件5.1件
表1.暴力行為の発生件数(小中高等学校別)

     発生件数
2021年度2020年度
対教師暴力9,426件8,620件
生徒間暴力56,024件47,416件
対人暴力943件1,110件
器物損壊10,048件,9055件
表2.暴力行為の発生状況

よく言われる6秒ルールだけでは不十分な理由

よく知られているアンガーマネジメントとして、まず「6秒ルール」を思い浮かべる方が多いかと思います。

これは、激しい怒りが持続する時間は短く、6秒あれば、激しい怒りのピークは過ぎていくという考えに基づいて、カッとなっても6秒我慢すれば、衝動性から暴力などを起こすことは避けられるというものです。

カッとなって暴力を振るったり、暴言が出たりすると、最悪の場合、犯罪と見なされるので、怒りっぽいという自覚がある人は、ぜひ実践するべきなのですが、6秒ルールだけでは十分ではありません。

なぜなら、怒りのピークが過ぎたところで、怒りが完全に消えるわけではなく、消えずに残った怒りが再燃することもあるからです。
何らかのストレスフルな出来事の後、一旦やり過ごしても怒りが再燃する理由として、過去の出来事に関わる思考が、繰り返し意識上に浮かぶという「侵入思考」の存在が挙げられています。

また、最近怒りを感じた出来事に対して思い返す際に、感情面や状況場面について反芻すると、怒りが増大することが報告されています。

「カッとなった」を乗り切ったら、次は「思い出したら腹立ってきた」に対応する必要があります。
さらに、自分で自覚していなくても、過去の腹立たしいエピソードに影響されて、不当に特定の人にきつく当たったり、攻撃的な言動をとってしまう場合もあります。

このように、6秒ルールだけではアンガーマネジメントは不十分なのです。

6秒ルール以外にも使えるアンガーマネジメント

では、6秒ルール以外に、どのような方法があるのか見ていきましょう。

まずは、その場を離れて一人になることです。
6秒待って怒りを堪えても、怒りの原因となる人が目の前にいて、さらにこちらにとって不快な態度を示してくると、怒りは再燃してしまいます。
感情の制御ができる時に、その場から離れましょう。

また、反芻する怒りによって、知らず知らずパワハラや嫌がらせに該当してしまうような事態を避けるために、腹の立つ相手がいる場合には、その人に対しての行動で自分が非難される可能性がないかを考えるようにしましょう。
これは、相手に対しての思考から、自分の行動へ思考を移すことで、怒りを抑制する効果と、自分の行動の間違いを正すという効果が見込めます。

腹が立っている自分に気づいたら、その怒りがどのくらいの怒りなのか評価してみることも効果的です。
自分の人生最大の怒りを10点とすると何点か、というように考えると、自分の感情を評価するきっかけになり、怒りを抑えるのに効果的です。

日頃から、怒りを感じにくくする対策も重要です。
自分は何をされると、怒りを感じるのかを言語化してみましょう。

人はだれしも、「人はこのように行動すべきだ」という考えを持っています。
これから外れた人を見ると、怒りを感じます。

まずは自分がどういう人を見たら、怒りを感じるのかを言語化してみましょう。
例えば、「嘘をつく人は絶対に許せない」と思う人もいるでしょう。

しかし、世の中には「必要があったら嘘をついていい」と考える人もいるのです。
そういう人もいるが、それに合わせて怒る必要はなく、関わり方を考えることで対策しましょう。
思考が怒りから対策に向けば、突発的な怒りは和らげることができます。

また、普段から人を指導する時に怒ったり、叱ったりすることを多用する人は、「怒ることが最適なのか」疑うことが重要です。

確かに指導をしていると、叱ることは必要になりますが、さじ加減を間違えて、多くの指導者がパワハラと認定されている事実を認識しなければいけません。

まとめ

「アンガーマネジメント」怒りの気持ちをコントロールする5つの方法のイラスト
「無断転載禁止」

上記のイラストは、アンガーマネジメント教育に関して、筆者が作成した資料になります。
参考にしてください。

今回は、アンガーマネジメントについて解説しました。

カッとなることを抑えることは必要ですが、継続して人と関わっていくうえで、それだけでは不十分です。
時間のある時でも良いので、自分がどのような時に怒りを感じるのか、その怒りを適切にコントロールできているのかを考える時間を作ることが重要です。

参考文献:
1.厚生労働省.職場のハラスメントに関する実態調査について
2.文部科学省初等中等教育局児童生徒課.令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
3.遠藤寛子,湯川進太郎.怒りの維持過程 認知および行動の媒介的役割. 心理学研究 2012;6:505-513
4.寺坂明子,稲田尚子,下田芳幸. 小学生を対象としたアンガーマネジメント・プログラムの有効性 学級での実践に向けた小集団での予備的検討. 心理学研究 2021;4:245-254

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