受刑者等専用の求人誌「Chance!!」編集長・三宅晶子氏が青森刑務所で受刑者へ伝えた想い
2023年12月13日(水)、青森刑務所内で三宅晶子氏による講話が行われました。
講話は、受刑者向けに、講師となる人が大事にしていること等を話す場です。
三宅氏は、株式会社ヒューマン・コメディの代表取締役。日本初の受刑者等専用求人誌「Chance!!(チャンス)」を創刊し、受刑者が出所した後の新たなスタートの支援をしています。
今回、三宅氏が掲げたテーマは「私の人生を変えたこと」
三宅氏がこれまでに経験してきたことを元に、気付きや大事にしてきたことなどを、青森刑務所の受刑者へ伝えました。本記事では、講話の様子や講話後のインタビュー内容をお届けします。
<目次>
三宅氏がどんな人物で、どのような人生を送ってきたのか、紹介VTRから始まりました。受刑者はVTRをしっかり観て、約40分にわたる三宅氏の講話に耳を傾けていました。受刑者の手元には、講話で使われるスライド資料が印刷されたものが渡されました。三宅氏がスライドをめくる度に、受刑者もぺらりと手元の資料をめくって真剣に聞いている姿が印象的でした。
自分の人生をネタにすると決めた
三宅氏の両親は、新潟の地方銀行員でありながら勤め先の銀行を相手に裁判を起こすような、行動力に溢れた夫婦でした。
母親は、男女での給与の差があることに対して裁判を起こして勝訴。その流れは男女雇用機会均等法の制定につながりました。父親は、定年制延長に関する裁判を起こして、11年という年月を争ったものの敗訴。「日本がだめなら世界へ訴える」と言って、翌週から英会話の勉強を始めました。
2年後にはジュネーヴ(スイス)にある国連の世界人権賞委員会という国際会議で、日本の労働者代表としてスピーチを務めました。その年に国連から日本に対して、日本の労働者の環境についてレポートを提出するよう勧告がありました。「労働基準法が厳しくなっていったのは、父親の影響が少しはあったのかもしれない」と、三宅氏は語ります。
そんな両親を世界中で一番尊敬していた三宅氏ですが「私はこの両親を超えることができない」と、小さい頃からずっと感じていたようです。両親が忙しすぎて話を聞いてもらえない寂しさや不満の中で当時のヤンキーブームに乗り、非行に走った経緯があります。
その結果、三宅氏は高校を退学に。
「入院中の母親が泣く姿を見て、初めて自分の人生が右肩下がりに落ちていることを実感して、落ち込みました。でもそのときに、自分はこの経験を絶対ネタにしようと決意したのです。人前で講演をしたり、本に書いてみたり、映画化されたりするイメージを持って、“人生をプロデュースする“という意識で日々を過ごすようになりました」
田舎のヤンキーだったところから、ネタにするためにまずはギャップをつくろうと早稲田大学へ入学し、一部上場企業の大塚商会へ入社。これらの経験から「頭で強く思い描いたことは必ず実現する」と実感し、これは誰しもが持ち得る力だと力説します。
現在は、自署を出版することが決まっていて、執筆に取りかかっているとのこと。また、杉岡太樹監督が過去1年間の三宅氏の軌跡を追った ショートドキュメンタリーも、講話から約1ヶ月にYahoo!ニュースにて公開されました。
刑務所の中にチャンスをつくるーー受刑者向け求人誌が立ち向かう現実と願い
感謝の気持ちを大事にする
三宅氏は、OL時代に仕事が遅く、納期を守れないにもかかわらず、プライドが高く助けを求めることすらできなかったと言っています。挙句、仕事ができないことを周りの人のせいにしたりして、しょっちゅう愚痴をこぼしていたそうです。このような状況のなかで、「自分は仕事ができないかもしれない」と自覚し始めてから、人生の生き方について勉強し始めました。
そんな三宅氏の心に残ったのが、38歳の頃に聞いた、登山家・栗城史多さんの講演だそう。
「標高何千メートルからエベレストの山頂に登るまでに、心身ともに想像を絶する苦しみがあります。そのなかで『成長させてくれてありがとうございます』と言うことで、身も心もほんの少し楽になるのだと、栗城さんの講演から学びました」
さっそく翌日から「成長させてくれてありがとう」と実践し、これまで苦手だった職場のパートナーに対しても、少しだけ気持ちが軽くなる変化を感じたといいます。
他にも、五日市剛氏の著書「ツキを呼ぶ魔法の言葉」からも多くを学んだと語る三宅氏。当たり前のことに「ありがとう」と言うことや、辛いことや嫌なことにも感謝することを学び、習慣化するために意識してきました。
困難や逆境に感謝するというのは簡単ではないけれども、「この出来事は自分にとって何の成長なのか?」と自問自答することで、たとえ答えが見つからなくても、何かの成長のために起こっていることだと思えるようになったそうです。このような捉え方は、どんなに八方塞がりに思える状況でも、「じゃあどうする?」と考えて自分にできることを探し、突破口を開く鍵になっているとのことです。
「挨拶・掃除・素直」を誰よりも実践する
三宅氏は仕事に自信を持てなかった時期に、ある心がけを実践していたといいます。これは友人の比田井和孝・美恵夫妻が書いたベストセラー本『私が一番受けたいココロの授業』で紹介されている「挨拶・掃除・素直」という3つの行動から学んだと語ります。
「人とすれ違うときに、相手の目を見て自分から大きな声で『おはようございます』『お疲れ様です』という気持ち良く挨拶することを心がけました。他にも、社内で落ちているゴミを拾う、自分の周りだけでなく共有スペースの掃除をする、全員が使うコピー機に紙を補充するなど、積極的に周りの環境をよくすることに取り組みました。そして、できないことや困ることがあれば、助けてほしいと素直に伝えるようにしました」
このように自分の行動を変えることで、上司や先輩から可愛がられたり、周りの方の自分を見る目が変わったりするのを実感したそうです。
言葉を変え、思考を変える
三宅氏は、否定的な「せいで」を、肯定的な「おかげで」に言い換えることで、過去を感謝で上書きすることができると言います。
たとえば、親からの虐待を受けた経験を、「親のせいで人の顔色をうかがうようになった」と捉えるのではなく、「親のおかげで周囲の空気を読むことが上手になった」と捉え直し、「ありがとう」と感謝の意を表します。思い出したくない、触れたくないといった過去の負の感情を、「あの経験があったからこそ、いまの自分がある」と浄化させることができると伝えました。
講話の最後には、新潟で出会ったある出所者の話にも触れました。その人物は、自身の容疑を否認し続け何年も拘置所にいた人でした。
「彼はバナナが好きでずっと買っていたのですが、あるとき、バナナが黒くなることが早いことに気付きました。部屋の換気のせいかと思い、バナナを部屋のさまざまなところに置いて検証してみました。その結果、自分の頭のまわりに置いたときだけバナナが早く黒くなったというのです。その頃彼は、朝から晩まで独房で “あいつのせいでこうなった” とか“自分だけなんでこんなところにいるんだ” と、すべてを他人のせいにしたり環境を恨んだりといったどす黒い感情に呑み込まれて、とても苦しかったのだそうです。そんな折のその実験結果に、『バナナが黒くなるのはもしかして自分の思考が原因なのか?』と考えました。その後容疑を認めて実刑が確定し、出所に向けて先のことを考えるようになり、自然とネガティブなことを考えないようになると、バナナは黒くならなくなったそうです。何度も何度も検証したから間違いないと彼は言います」
思考や考え方、そして発する言葉には大きな力があると語る三宅氏。量子力学を引き合いに出し、「良いことも悪いことも、自分が発するものが自分に返ってくる」という考え方を紹介しました。出所後の人生に不安を感じている受刑者に対して、「簡単ではないかもしれないけど、自分がそう決めさえすれば、生き直すことは可能」と伝えました。「ないものを見ず、あるものに感謝して、目の前のことを一生懸命にやっていれば、必ず道は開けます」と言い、講話を締めくくりました。
「Chance!!」を全国へ広げ、たくさんの人に機会を提供する
講話後、三宅氏にインタビューの時間をいただき話を伺いました。
Q.講話を通じて一番伝えたいことは何でしたか?
「逆境や困難にすら感謝」することです。意識すれば誰でもできることだと思います。
今日伝えたことは、私が今まで生きてきて学んだことなので、必ずしもみなさんに響くわけではないと思いますが、「そういえばあの人こんなこと言ってたな」と、ふと思い出してくれたら幸いです。
Q.実際に話してみた感想や感じたことを教えてもらえますか?
みなさん、真剣に聞いてくださったことに感謝します。今日の講話のスライド資料を配布したのですが、回収されて本人の手元には残らないとのことなので、それがちょっと残念です。耳から聞いたことって忘れちゃいますからね。
Q.企業が「Chance!!」に掲載するにはどうするとよいのでしょうか?
まずは弊社にご連絡を頂き、寮や社宅などの住居支援や、給料の前貸し・一部日払い等、生活が安定するまでの生活費支援など、最低限お願いしたい7つの条件を満たすことができるかどうかを確認させて頂きます。それらをクリアできるという企業のみ、代表者様と面談を行わせて頂きます。自立できるだけの給料が支払われない、天候に左右されて給料が保証されないなどの場合にはお断りすることもあります。
また、私に対しての対応が悪い場合、それは私の後ろにいる受刑者に対する対応と同じだと思うので、お断りさせていただきます。
こちらが掲載企業を選びすぎてしまって、なかなか思うように掲載企業が増えない傾向にありますが、出所者の方が安心して働けることを最優先にしています。
Q.今後、やりたいことを教えてください。
「Chance!!」に掲載している企業は関東が多いので、全都道府県に少なくとも1社ずつは掲載企業を増やしたいです。また、職種が建設系に偏っているので、より多様な職種の選択肢を広げたいです。
株式会社ヒューマン・コメディ
代表取締役 三宅晶子
https://www.human-comedy.com/
受刑者等専用求人誌「Chance!!」