2分で分かる!幼児の運動能力評価ツール

2分で分かる!幼児の運動能力評価ツール|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)

幼児期の運動能力は、体力、肥満、さらには認知機能や学力といった、将来のさまざまな側面にまで影響を及ぼす重要な土台であるため、定期的にモニタリングすべき力です。

しかし、保育園や幼稚園などの集団生活および家庭では、限られた時間やスペースで評価する必要があるため、従来より簡便で効率的な方法が求められていました。

この記事では、家庭でも簡単にできる新しい評価ツール「SMC-Kids」(エスエムシーキッズ)を紹介します。

従来の運動能力評価の課題

幼児期の運動能力は、身体の健康だけでなく、認知能力や学習能力など、子どもの成長全体に深く関わっています。そのため、発達の様子を適切に把握し、サポートしてあげることが非常に大切です。

これまでも、文部科学省の「幼児の運動能力調査」や「MKS幼児運動能力検査」といった測定方法がありました。

例えば、文部科学省の調査では、25m走・立ち幅跳び・ボール投げ・両足連続飛び越し・体支持持続時間(秒)・捕球(回)など、複数の項目で能力を測ります。そのため、評価項目が多くて時間がかかる、ボールや広い場所といった道具・環境が必要になる、専門知識が求められる場合がある、といった課題がありました。

「いつでも・どこでも・だれでも」測れる新ツール「SMC-Kids」

こうした課題を背景に、名城大学農学部・大学院総合学術研究科の香村恵介准教授、琉球大学医学部・京都大学大学院医学研究科の喜屋武享准教授らの研究チームが、新しい評価ツール「Simple Motor Competence-check for Kids(SMC-Kids)を開発しました。

SMC-Kidsの最も大きな特徴は、その手軽さです。特別な道具や広いスペースを必要とせず、約2分という短時間で測定が可能です。専門的な知識もいらないため、保護者の方や保育士の先生でも簡単に実施できます。「いつでも・どこでも・だれでも」子どもの運動能力をチェックできるツールです。

具体的な2つの評価項目「10m折り返し走」と「紙ボール投げ」

SMC-Kidsの測定項目は、子どもの遊びにも近い、親しみやすい2種類です。

1. 10m折り返し走

スタートラインから10m先に紙ボールを2つ置き、ひとつずつスタートラインまで持ってくる2往復のタイムを測ります。鬼ごっこのような動きに似ており、持久力やスピード、体の向きを素早く変える敏捷性を評価します。

2. 紙ボール投げ

A4用紙5枚を布ガムテープで丸めて作った紙ボールを、どれだけ遠くに投げられるかを計測します。限られたスペースでも実施でき、道具をうまく扱う能力(操作能力)を見られます。

測定に必要なものは、A4用紙・布ガムテープ・巻尺・ストップウォッチだけです。ただし、SMC-Kidsは発達の目安を知るためのツールです。結果の数字だけで子どもの能力を決めつけることはせず、成長を見守るひとつの材料として活用してください。

SMC-Kidsの科学的な信頼性

「2つの評価項目だけで本当にわかるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。SMC-Kidsは、国際的に広く使われている「TGMD-3」という評価ツールと比較しても、運動能力との間に高い関連性があることが研究で証明されています。TGMD-3は、移動運動6項目(走る・ギャロップ・片足跳び・スキップ・立ち幅跳び・サイドステップ)、ボールスキル7項目(ティーバッティング・ワンバウンド片手打ち・ドリブル・キャッチ・キック・上手投げ・下手投げ)の2領域13スキルから子どもの運動発達を評価する、世界標準の検査です。

また、誰が測定しても結果がぶれにくいことも確認されています。研究成果は、権威ある国際的な学術雑誌『Journal of Science and Medicine in Sport』にも掲載されており、科学的な信頼性が非常に高いツールと言えます。

結果に一喜一憂せず、お子さんとの「楽しい運動」のきっかけに

SMC-Kidsは、単に数値を測るだけのツールではありません。子どもの発達に関心を持ち、親子でコミュニケーションをとるための素晴らしいきっかけとなります。

測定の結果を見て、「今度は公園でボール投げをしてみようか」「片足立ち競争してみよう」といった、具体的な遊びに繋げてみてはいかがでしょうか?
測定はあくまでもきっかけです。親子で体を動かす習慣をつけるのが、子どもの健やかな成長にとって何よりも大切で、豊かなコミュニケーションにもなります。

数字に一喜一憂するのではなく、子どもと一緒に体を動かす楽しさを見つける、その第一歩として、SMC-Kidsを活用してください。

参考文献:
1.琉球大学.幼児の運動能力測定をより身近に、より簡単に2分で分かる!幼児の運動発達を可視化する新ツールを開発
2.Keisuke Komura,Tomohiro Demura,Yusaku Ogura,et al.Validity and reliability of the Simple Motor Competence-check for Kids (SMC-Kids).J Sci Med Sport. 2025 May;28(5):391-397
3.文部科学省.幼児期運動指針ガイドブック「幼児の運動能力調査」
4.日本体育学会大会予稿集. TGMD-3による幼児の基礎的動きの質的評価

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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