成長期に注意が必要な「野球肘」学童期トップレベル選手の半数以上が有する障害

「成長期に注意が必要な「野球肘」学童期トップレベル選手の半数以上が有する障害」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

野球をしていると、ボールを投げる動作を繰り返し行います。
特にピッチャーは、ボールを投げる動作を何回も何回も練習します。
そんな中で「野球肘」を発症する人が多くいるのです。

特に、成長期である小・中学生は体が未完成であるため注意が必要です。
今回は、野球などの肘を動かす動作を多用するスポーツをしている人に、注意が必要な「野球肘」について解説をしていきます。

野球肘とは

野球肘は、ボールを投げすぎることによって生じる、肘の障害を総称した言葉です。

投球練習などを繰り返す野球で、肘の障害が起こりやすいことから、野球肘という言葉が生まれました。
症状としては、投球時に肘が痛くなったり、肘の曲げ伸ばしがしにくくなったり、急に動かせなくなったりといったものがあります。高橋啓らは学童期トップレベル選手の半数以上が障害を有していると報告しています。

参照:高橋啓,古島弘三. 学童野球トップレベル選手に実施した野球肘検診の結果. 日本肘関節学会雑誌 2020;27:278-281

野球肘の原因は

野球肘については、基本的には繰り返しボールを投げることによって、過剰に肘に負荷がかかることが原因となります。
肘を何回も曲げ伸ばしする動作によって、肘の関節を作る骨同士が当たることが繰り返され、骨や軟骨が傷つきます。また、関節の曲げ伸ばしに関わる靭帯も何回も動かされることで、引き延ばされたり傷んだりします。

その結果、痛みが出現し、肘の曲げ伸ばしがスムーズにいかなくなるのです。

参照:日本整形外科学会ホームページ 「野球肘」

野球肘が起こりやすいのはどういう状況?

投球練習を繰り返し行うと、野球肘が起こりやすいということが分かったとしても、「野球肘になりたくないから練習はしません」というわけにはいかない、という人がほとんどかと思います。

必要な練習を行いつつ、できる限り野球肘を引き起こさないような対策を講じる必要があります。

2017年に、日本アスレティックトレーニング学会より発表された研究で、「投球肘障害予防に対するシステマティックレビュー」という研究があります。
システマティックレビューとは、既に発表された論文で、テーマに合うものを収集して取りまとめた研究で、この研究では18件の野球肘の発症要因についての論文を用いて検証が行われています。

そのなかで、リスクとしてはやはり練習量が多すぎるというものが上がっており、1週間毎日休みなしで練習を行うと、野球肘のリスクが2倍になりました。
また、年間を通じて、オフシーズンがないことも危険因子です。1日の練習量としては、100球以上の投球、50球以上の全力投球が危険因子とされています。

さらに、肩の可動域が狭いと、野球肘のリスクが高くなるという結果も出ており、ストレッチが重要であることが示されています。
肩の水平内転制限が15度より大きいと、野球肘の発生リスクが、ピッチャーにおいて4倍になったと報告されています。

参照:坂田淳. 投球肘障害予防に対するシステマティックレビュー. 日本アスレティックトレーニング学会誌 2017;3:19-23

野球肘を予防するためにはどうしたらいい?

野球肘を予防するためには、まず練習量を適切にすることです。

体を壊さないために練習量をセーブすることは、サボることとは全く異なります。
小中学生の頃から、体を壊さずにできる範囲でトレーニングをしっかり行う習慣をつけることが重要です。1日ごとの練習量を設定するだけではなく、年単位練習計画を立てることが重要です。

毎日の練習に取り入れる対策としては、肩関節のストレッチや筋力トレーニングがあります。ストレッチや筋力トレーニングは、パフォーマンス向上だけでなく、怪我の防止という大きな役割があることを認識することが重要です。

ここでは、高橋啓らの各疾患有病率を表にまとめました。

         投手・捕手
兼任
投手捕手野手
上腕骨小頭
離断性骨軟骨炎
(OCD)
13%7%7%4%
上腕骨内側上顆裂離
(MECa)
7%15%8%9%
肘内側形態異常
(MECma)
60%57%58%43%
表.ポジション別の各疾患有病率

野球肘の予防も意識した練習メニューを組む

今回は、野球肘について解説を行いました。

野球に限らず、繰り返し同じ動作を行うスポーツでは、繰り返し使う体の部位が消耗・故障しやすくなります。
根性で乗り越えられるものではなく、いかに体を壊さずに効率的に練習をしていくか、を考えていくことが必要になります。

野球肘の予防のためには、年間を通した練習メニューの検討や、故障の予防を意識した筋トレやストレッチが重要です。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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