
日本の自動車業界で明暗が分かれる事態が起きています。トヨタ自動車は2025年3月期に営業収益48兆円超という過去最高を記録し、ホンダも最高水準の収益を達成しました。
その一方で、日産自動車は6,708億円もの巨額赤字に転落し、7つの工場閉鎖と約2万人の人員削減という厳しいリストラ策を発表する事態に陥っています。
世界的な電気自動車へのシフトが加速する中、ハイブリッド車重視か、EV全面展開か、各社の戦略の違いが業績に如実に表れる結果となりました。今回は、EV革命の光と影について詳しく解説していきます。
<目次>
世界が迫るEVシフトの波 日本の普及率はわずか2%

電気自動車(EV)への転換は、もはや一部の先進的な取り組みではなく、自動車産業全体を巻き込む世界的な潮流となっています。この変化の背景にあるのは、パリ協定を筆頭とする国際的な気候変動対策の枠組みです。
各国政府は温室効果ガス削減目標を掲げ、自動車の排出規制を年々強化しており、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを搭載した車両の販売が制限される方向に動いています。
企業にとっても、温室効果ガス削減は避けて通れない経営課題となっており、特に社用車や営業車の電動化は、企業が直接コントロールできる「スコープ1」排出削減として高い効果を発揮します。
日本政府も2035年までに新車販売を電動車100%にする目標を掲げました。CEV補助金による購入支援や充電設備設置への助成など、普及を後押しする施策を展開しています。
ただし、日本国内のEV普及状況を見ると、2025年6月時点で新車販売シェアは2.04%にとどまっており、前年の1.43%からは上昇したものの、欧米や中国と比較すると大きく出遅れている状況です。
日産自動車が2010年に世界初の量産型EV「リーフ」を発売し、2022年には軽EV「サクラ」がヒットするなど、一定の成果は上げてきました。しかし、充電インフラの不足、充電時間の長さといった課題が残り、消費者の購入意欲を十分に高めるには至っていません。
興味深いのは、一時期のEVブームが欧米市場で落ち着きを見せ始めていることです。実際に使用してみると、長距離移動での不便さや冬季の性能低下などが明らかになり、消費者の間で「EV疲れ」とも呼べる現象が起きています。
その結果、ガソリンと電気の両方を使えるハイブリッド車(HEV)への関心が再び高まっており、市場は必ずしもEV一辺倒ではなくなっています。
トヨタ48兆円・ホンダ21兆円 ハイブリッド戦略の勝利

トヨタ自動車の2025年3月期決算を見ると、営業収益は48兆367億円に達し、同社史上最高額を更新しました。
営業利益は4兆7,956億円で前年比10.4%の減益となったものの、2018年から2023年頃まで2兆円台で推移していた水準と比較すれば約2倍の規模であり、圧倒的な収益力を維持しています。
この好調の背景には、販売台数の着実な増加と急激な円安という追い風がありました。2021年には1ドル110円台で推移していた為替相場は、その後円安が進行して2024年7月には一時160円まで伸びました。
販売台数では2024年3月期に初めて世界で1,000万台の大台を突破し、国内、米国、さらにEV化が加速する中国市場でも、カローラやRAV4といった主力車種が堅調に推移しています。
特筆すべきは、HEVの販売が急拡大していることです。2021年3月期に200万台を超えたHEV販売は、2025年3月期には432万台へと倍増しました。世界的にEVへの期待が高まる一方で、実際の使い勝手や価格面でHEVを選ぶ消費者が増えているのです。
一方、ホンダも2025年3月期決算で連結売上収益(21兆6,887億円)を発表し、2輪事業単体での販売台数と営業利益、営業利益率は過去最高を記録しました。
日産6,708億円赤字の衝撃 7工場閉鎖と2万人削減の実態

トヨタやホンダが好調な決算を発表する中、日産自動車は深刻な経営危機に直面しています。2025年3月期の純損益は6,708億円の赤字に転落しました。
同社の歴史を振り返ると、これほどの赤字幅を記録したのは、カルロス・ゴーン元会長による経営再建期の2000年3月期、そして内田誠前社長のもとで海外拠点を整理した2020年3月期に続く規模であり、21世紀に入ってから3度目の深刻な経営危機といえます。
経営再建に向けて日産が発表したリストラ策は極めて厳しいものです。2027年度までに世界の車両工場を現在の17ヶ所から10ヶ所へと削減するというもので、国内工場も閉鎖対象に含まれます。
イバン・エスピノーサ社長は「日本は生産拠点の中核として残る」と説明していますが、国内での雇用喪失は避けられない見通しです。人員削減は約2万人規模に達し、これは従業員約13万人の約15%に相当する大規模なものとなります。
生産能力も2024年度の350万台から2027年度には250万台へと100万台削減し、一部は提携先の生産能力40万台分を活用する計画です。北九州市で計画していたEV用電池工場の建設も中止され、日産のEV戦略そのものが大きく後退しています。
コスト削減策も徹底的で、部品種類を7割削減するほか、車台の数も現在の13から7へと半減させる予定です。労務費単価も20%削減し、固定費と変動費でそれぞれ2,500億円ずつ、合計5,000億円の削減を目指しています。
イバン・エスピノーサ社長は会見で「業績回復は急務です。当社の未来を守るためには、より踏み込んでより速く取り組みを進めなければならない」と危機感をあらわにしました。
世界初の量産型EVを発売し、EV分野のパイオニアとして先頭を走ってきた日産がなぜここまで苦境に陥ったのか。その要因は、EV市場の成長スピードを読み誤り、過度な先行投資を行ったことにあります。
充電インフラの整備は想定以上に遅れ、消費者のEVへの期待も一時期ほど高くなく、巨額の投資が十分な販売に繋がらなかったのです。
今後の日本車各社の戦略とEV革命の光と影

トヨタ、ホンダ、日産の明暗は、EV革命という大きな変化に対して各社がどのような戦略を選択したかの結果を如実に示しています。トヨタはHEVを主軸に据え、EVへの全面移行を急がない慎重路線を取りました。
この判断は現時点では正しかったといえますが、今後中国メーカーが安価なEVで世界市場を席巻した場合、トヨタのガソリン車やハイブリッド車が淘汰されるリスクも存在します。
一方、日産はEV先駆者として大胆な投資を行ったものの、市場の成熟度とのミスマッチにより、その投資が裏目に出る結果となりました。充電インフラの未整備や消費者の「EV疲れ」は日産にとって大きな誤算でした。
ホンダは両にらみの戦略でHEVを主力としながらも、EV開発も並行して進め、バランスの取れた展開で成功を収めています。
各社とも2025年以降、複数の新型EV投入を予定していますが、トランプ関税という外部要因が全社に共通の打撃を与えており、メキシコに生産拠点を持つ企業ほど影響が大きく、米国市場での競争力低下が懸念されます。
また、中国市場での存在感低下も日本メーカー共通の課題です。中国製EVの性能向上と価格競争力は脅威であり、技術力だけでは勝てない時代が到来しつつあります。
環境規制は年々強化される一方、市場のニーズは必ずしもEV一辺倒ではないというギャップが存在します。各国政府が描くEV化のロードマップと、消費者の実際の選択行動には乖離があり、自動車メーカーはこの狭間で難しい判断を迫られています。
EVシフトがもたらす構造変化と日本の選択

EV革命は自動車産業の構造を根本から変えつつあり、日本メーカーは歴史的な転換期に立たされています。
トヨタの慎重なハイブリッド重視戦略は現時点では成功していますが、将来的なリスクも内包しています。日産の先行投資失敗は、市場動向を読み誤ることの代償がいかに大きいかを示しました。
環境対応と経営の持続可能性をどうバランスさせるかが、今後の生き残りを左右します。雇用と産業基盤をどう守りながら変革を進めるか、その答えを見つけることが急務となっています。








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