日本の児童相談所 半数が若手職員という驚くべき内情

「日本の児童相談所 半数が若手職員という驚くべき内情」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

日本の子どもの未来を守るため、幅広い相談に対応している「児童相談所」。

児童相談所は虐待だけの相談だけでなく、健康や障害に対する相談・非行相談や育成相談に至るまでさまざまな相談を受け入れています。

そして、弁護士やカウンセラーである児童心理司・医師・保健師といったプロフェッショナルなチームと共に「児童福祉司」が中心となって、問題の分析や解決を図っていくのです。

このように全ての児童の問題の受け皿になっている児童相談所。
実は、その現状は衝撃的なものだったのです。

今回は、頼れる「児童相談所」の驚くべき3つの事実についてお伝えしていきます。

衝撃的事実その1:児童相談所の職員は驚くほど少ない

養護相談から非行相談、健康相談に子育てに対する相談まで受けて入れている児童相談所ですから、ものすごい人数が必要そうに思いますよね。

しかし、実際は児童相談所の人数はそこまで多くありません。

令和5年4月1日時点で児童相談所は全国で232カ所ありますが、児童相談所のスタッフの数は全国で以下の人数しかいません。

  • 児童福祉司:5,863人
  • 児童心理司:2,623人
  • 弁護士:常勤で18人、非常勤で176人
  • 医師:819名
  • 保健師:153名

合計しても9,552人。
児童相談所の数で割ると、1つの児童相談所あたりで41名ほどの職員で構成されているといえます。

一方で、総務省統計局が発表した「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)」によると、日本の15歳未満の人口は1,450万3,000人。15歳〜19歳まで加えると2,000万に達します。

つまり、1万人弱の職員で1,500万以上の児童の問題解決の窓口を行っているといえますよね。1人あたり1,500人以上の計算です。

特に、全ての問題解決の最初の窓口になっているのは「児童福祉司」ですから、1,500万人に対して6,000人弱というのは、かなり少ない人数であることがわかるでしょう。

そう、児童相談所は、幅広い問題解決の受け皿という割には、かなり脆弱な組織であることがうかがえます。

参照:
児童相談所関連データ
児童相談所における弁護士業務
令和元年度児童福祉法改正による児童相談所における保健師必置について

衝撃的事実その2:児童相談所の中心的存在である「児童福祉司」「児童心理司」はベテランではないこともしばしば

さらに驚くべき事実があります。
児童相談所は、他では扱えないさまざまな深刻な悩みに対して解説する場所ですから、てっきり経験豊富な「ベテラン」の方が大体対応するかと思いますよね?

しかし、実際は異なります。なんと若手が約半数を占めているのです。

令和5年度の児童相談所の統計によると、児童福祉司・児童心理司の勤務年数について以下のように報告されています。(令和1年4月1日現在)

    児童福祉司児童心理司
1年未満約20%約17%
1~3年約29%約24%
3~5年約16%約15%
5~10年約21%約21%
10年以上約15%約22%
表.児童福祉司・児童心理司の経験年数(令和1年4月1日現在)

すなわち児童福祉司・児童心理司は、約2人に1人は勤務してから3年未満の「若手」が児童相談所の最前線で働いていると言えますね。
もっとも、どの職業でも年齢が行くほど「上の職」につくようになるので、現場で子どもたちの問題に当たっている「若手」の割合はもっと高いのかもしれません。

厚生労働省の「JOBTAG」によると、児童相談所の職員になるには、一般的に高校卒業後、社会福祉の専門学校や社会学・心理学・教育学などの大学を経て、地方公務員試験に合格すればなることができます。

つまり、児童相談所の職員になる過程の間でも、そこまで多くの児童に対する経験値があるわけではありません。

そのように考えると、児童相談所職員は、ほとんど現場のことがわからない状況から実践に投入される、かなり「シビア」な状況であることがうかがえるでしょう。
なお、厚生労働省家庭福祉課によると、2020年度職員の採用にあたって、児童相談所に限定した専門職員を採用したのは、東京都、千葉県、埼玉県、三重県、滋賀県、兵庫県、奈良県、岡山県、山口県、福岡県、さいたま市、大阪市、金沢市、明石市の14自治体に限られていました。

参照:
厚生労働省 職業提供サイトJOBTAG「児童相談所相談員」
児童相談所関連データ

衝撃的事実その3:日本の児童相談所は海外と比較しても圧倒的に抱えている案件が多い

少ない職員で多くの児童を支えようとするのですから、1人あたりで抱えている案件が多くなるのも当然です。

海外と比較しても日本の児童相談所の「大変さ」は際立っています。
例えば、アメリカと日本で比較してみましょう。

アメリカのロサンゼルスは、2014年時点で人口は870万人の大都市ですが、児童相談所にあたる「CPS(Child Protective Services)」も17カ所あります。
ソーシャルワーカーという、児童心理司・児童福祉司に該当する人も3,500人存在しており、他の職員を合わせれば6,000人にも達します。

一方、日本の横浜は2014年で人口約370万人に対して、児童相談所は4カ所しかありません。
児童心理司・児童福祉司といったソーシャルワーカーも81人しかおらず、嘱託職員を含めても373人しかいません。

人口は、ロサンゼルスと横浜で2倍強くらいしか変わらないのに、ソーシャルワーカーの数はなんと43.2倍も違います!
単純な職員の数の比較でも、20倍も違っているのです。

スウェーデンでも人口3万5,000人の地区に対してスタッフは15名、人口12万人に対して45名のスタッフを配置している状態であり、人口1万人あたり3~4人のスタッフ配置の割合です。

デンマークでも、人口8万人に対してスタッフ90名ですから、人口1万人あたり10名以上のスタッフを配置しています。

対して、東京都の中央児童相談所は人口215万人に対して62名しか配置していません。
人口1万人あたり0.29人。

愛知県でも人口81万人に対してスタッフは26名。
人口1万人あたり0.32人。海外と比べるとなんとも寂しい結果ですね。

いかに日本の児童相談所が大変なのかがうかがえると思います。

参照:アメリカ・イギリス・北欧における児童虐待対応について

児童相談所を活用できる体制に

今回は、児童相談所の驚くべき「現状」について衝撃的な事実を3つ紹介していきました。

まとめると、

  • 児童の数に比べて、働く職員の数は圧倒的に少ない
  • また、児童相談所の現場で働く職員は「若手」が多い
  • 欧米と比較しても日本の児童相談所の1職員が抱える案件は圧倒的に多い

といえます。

児童相談所は子育てを支える根本的な機関です。
児童相談所でしか解決できない問題もたくさんあります。
だからこそ、児童相談所をもっと活用していきたいですし、それを支える児童相談所の体制をもっと充実したものにしなければならないでしょう。

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