日本のエンターテイメント業界において、性加害問題が大きな話題となっています。
この問題は、芸能事務所が設置した「再発防止特別チーム」による調査で明らかにされた後、世界中で波紋を呼んでいます。
しかし、この問題はエンターテイメント業界に限ったことではありません。
とくに子どもたちに対する性被害、例えば児童買春や児童ポルノといった問題は、私たちの身近にもある問題ではないでしょうか?
この記事では、「子どもの未来をどう守るか」という観点から、話題となっている事件と関連する「児童売春」「児童ポルノ」の実態について切り込んでいきます。
児童買春と児童ポルノとは何か
そもそも、児童売春や児童ポルノについてどれくらい皆さんは知っているでしょう?区別もつかないという人もいるかもしれません。
児童買春と児童ポルノは、どちらも非常に重要な社会問題なので、両者が区別できるようにしていきたいですよね。
まずは、 児童買春について。
児童買春とは、18歳未満の児童と性的な行為を行い、金銭や物品で報酬を提供する行為のこと。
「春を買う」なので、金銭をちらつかせて、性行為を強要する行為全般をさしますね。
最近は「売春」といわずに「パパ活」と呼称し、SNSで堂々と募集をかけたりしますよね。
日本では「児童買春・児童ポルノ禁止法」に基づき、このような行為は犯罪とされています。
警察は、インターネット上の援助交際を求める不適切な書き込みをサイバーパトロールで発見し、対処しています。
一方、 児童ポルノとは、18歳未満の児童が性的な行為やポーズをとっている画像、動画、テキストなどのメディアのこと。
昔はカメラが高級品であり、大型なものが多く性能も悪かったので、なかなか性行為をしている動画そのものが高額で取引されていました。
今や、ネットにつなげばポルノ動画などに容易にアクセスできる環境になってしまっています。
こうした現状をうけて、日本では2014年に法改正が行われ、児童ポルノの所持や保管も罰せられるようになりました。
インターネット上での児童ポルノの流通・閲覧防止対策も強化されています。
こうした「せめぎ合い」のなか、児童売春や児童ポルノはどういった推移をたどっているのでしょうか。
児童への売春やポルノはどれくらい行われている?
「警察庁生活安全局人身安全 ・ 少年課」による、「令和4年における少年非行及び子供の性被害の状況」から、実際の推移を見ていきましょう。
まず、嬉しい報告から見ると、令和4年における児童売春の事件件数は実は減っています。
統計によると、児童売春や淫行させる行為、みだらな性行為などの検挙件数・検挙人員・被害児童数は、それぞれ2,206件、1,649人、1,461人と、いずれも前年より减少しています。
令和1年からゆっくり減ってきているのは、おそらく監視社会が発達し、警察の目も光らせている影響でしょう。
一方、深刻化しているのは「児童ポルノ」です。
令和4年における児童ポルノ事犯の検挙件数・検挙人員・被害児童数はそれぞれ3,035件、2,053人、1,487人と、いずれも前年より増えています。
令和2年から右肩上がりに増加しているのです。
では、どんな種類の「児童ポルノ」が増えてきているのでしょう。
令和4年における児童ポルノ事犯の被害児童の学校別に見てみると、中学生が最多となっています。
被害児童の被害の種類別で見てみると、児童が自らを撮影した画像に伴う被害が最多で、全体の38.8%を占めています。
そして低年齢児童の被害種類別に見てみると、盗撮が全体の39.0%を占めました。
例えば、リベンジポルノと呼ばれるもの、元恋人が恨みつらみをこめて、仲良くしていた頃の性的な動画をネットでアップロードする事件も発生しています。
また、スマホにより気軽に盗撮ができるようになり、盗撮関連の児童ポルノが増えているのです。
こうした児童ポルノは加害者が思うよりも深刻な「爪あと」を、深く深く残してしまうのです。
ここでは、児童買春事犯等の学職別およびSNSの利用状況について表にまとめました。
高校生の被害が多く、またSNSではフィルタリングがなされていないことがわかります。やはり親を始めとする養育者や教師など大人の監視が未成年には必要なのでしょう。
被害児童数 | 小学生 | 中学生 | 高校生 | その他 | |
児童買春(児童買春・児童ポルノ禁止法) | 379人 | 5人(1.3%) | 109人(28.8%) | 238人(62.8%) | 27人(7.1%) |
淫行させる行為(児童福祉法) | 152人 | 5人(3.3%) | 42人(27.6%) | 80人(52.6%) | 25人(16.4%) |
みだらな性行為等(青少年保護育成条例) | 1,000人 | 23人(2.3%) | 339人(33.9%) | 543人(54.3%) | 95人(9.5%) |
利用していた | 契約当時から利用無し | 契約時は利用、被害時には利用なし | |
2019年 | 232人(13.5%) | 1,332人(77.4%) | 158人(9.2%) |
2020年 | 167人(14.5%) | 891人(77.4%) | 93人(8.1%) |
さまざまな論文でわかっている、児童への性被害の「爪あと」
このように児童ポルノを中心に増加し、世間から注目を浴びている性被害。どのような影響を被害者に与えるのか。
性被害は「魂の殺人」とも言われます。
性被害者が生きやすい社会の実現を目指す当事者団体「一般社団法人Spring」の調査によると、性被害を受けてからそれを認識するまで平均6~7年かかると報告されています。
また、法務省の性暴力の被害経験に関する質的調査報告によれば、性被害は7割以上が パートナー・顔見知りからの被害で、7割は助け求めず、2割が友人・知人に相談とされています。
言えない状況に追い詰められている可能性があること。
加えて、これまで日本では「抵抗しない=同意」とする認識があったからに他なりません。
そして実は数多くの論文でその深刻さがうかがえます。
例えば、児童性被害(Child Sexual Abuse、 CSA)の長期的な影響についてのオーストラリアおよび国際的な研究の内容をまとめて解説した論文によると、次のようなことがわかっています。
- 児童性被害の長期的な影響として、精神的健康や脳のバランスを調節する機能に悪影響を及ぼす可能性がある。
- さらに男性の被害者は、その被害を公表する可能性が低く、公表するまでに時間がかかる傾向がある。
- 家族のサポートや強い友人関係が影響を和らげる可能性がある。
とされています。
より簡潔にいうと、「児童性被害は精神面を中心に長い間影響を及ぼし、男性であるとなかなか公表されにくい。児童性被害の影響を最小限にするには、家族や友人のサポートが必要」というわけですね。
さらに他の論文を見てみると、驚くべき事実が判明しています。
子どもの性的虐待(CSA)が心理生理学的な影響を持つことに焦点を当てた論文ですが、次のことがわかっているのです。
① HPA(視床下部-下垂体-副腎)軸と免疫系にも影響が……
- 性的虐待を受けた子供は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)があった場合、朝のコルチゾールレベルが低い。
- 性的虐待による被害者の免疫系は、血中のサイトカインレベルを通じて影響を受ける。
コルチゾールとは、「抗ストレスホルモン」のこと。なんと、性的虐待によってホルモンや免疫系統にも影響を受けるというのです。
② 遺伝子にも性的虐待と関係が……
続いて、遺伝子と性的虐待に関して、以下のことが関連付けられています。
- 性的虐待はDNAメチル化に長期的な影響を与える可能性がある。
- 性的虐待による被害者は、酸化ストレス指数が高く、特に家庭内での複数の虐待がある場合には更に高い。
DNAのメチル化というのは、生まれた後に遺伝子の働きを変える機能の一種。
なんと、性的虐待はこのDNAのメチル化を通じて「遺伝子」にも影響を与える事がわかっているのです。
信じられますか?
③ しかも性的虐待の影響は「代々受け継がれる」
さらに驚くべきことに、
- 性的虐待の影響は次世代にも影響を与える可能性があり、テロメアの長さなどが関与する可能性がある。
という報告もあります。
テロメアというのは寿命を握る鍵と言われる遺伝子要素の1つ。
テロメアの長さが直接寿命に関わっていると言われています。
つまり、その人がうけた性的虐待は本人だけにもとどまらず、次世代の寿命にも関係してくるというのです。
これほどまでに深刻な爪痕を残す「性的虐待」
己の快楽を満たすために、被害者を深く深く傷つける行為を許すわけにはいきません。
私たちが「児童売春」「児童ポルノ」を防ぐためにできることはたくさんある
児童買春や児童ポルノは深刻な社会問題。そのために、私たちができることはたくさんあります。
例えば次の通りです。
- 子どもたちにインターネットの安全な使い方を教える。
- 社会全体での性教育の充実を促す。
- 児童ポルノ撲滅のための啓発活動やキャンペーンに参加・支援する。
- 不審な活動やコンテンツを見つけた場合は、即座に警察や関連機関に報告する。
- オンラインプラットフォームでの児童ポルノ監視を強化し、不適切なコンテンツを報告する。
- 児童買春や児童ポルノに対する法的制裁を強化するように働きかける。
- 児童性被害に関連する法律や条例についての知識を深め、周囲に広める。
- 児童の性被害者支援のための団体やプロジェクトに参加・寄付する。
- 児童ポルノの被害者コミュニティ内でのサポートに関わってみる。
- 児童ポルノ撲滅に役立つ情報をSNSやブログで発信する。
- メディアが児童ポルノに対して正確な情報を提供するように働きかける。
私たち1人ができることはごくわずか。
ただし、みんなが協力すれば、児童ポルノ撲滅に大きな影響を与えるはずです。
今話題となっているエンターテイメント業界の事件をきっかけにして、児童ポルノや児童売春への大きな「闇」に光がさすことを願っています。
参考文献:
1.警察庁.【児童買春事犯等】 検挙件数・検挙人員・被害児童数の推移
2.厚生労働省
3.警察庁生活安全局人身安全・少年課
4.Australian Institute of Family Studies.The long-term effects of child sexual abuse
5.Luisa Lo Iacono,Cristina Trentini,Valeria Carola. Psychobiological Consequences of Childhood Sexual Abuse: Current Knowledge and Clinical Implications. Front Neurosci.2021;15: 771511.Published online 2021 Dec 2.doi:10.3389/fnins.2021.771511
6.一般社団法人Spring
7.法務省