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- 逮捕=有罪ではない? 約7割が不起訴になる刑事事件の手続きの進め方

刑事事件の報道では、「逮捕」「書類送検」といった言葉を耳にすることも多いです。しかし、その裏側で多くの刑事事件が「不起訴処分」で終わっています。不起訴処分は報道されにくく、一般の人々にはあまり知られていません。どのような流れを経て、起訴や不起訴は決まるのでしょうか。
刑事事件の流れと起訴と不起訴の違い、そして日本の刑事司法制度の課題について、数多くの刑事事件で弁護人を務めてきた虫本良和弁護士に聞きました。
<目次>
検察が担う刑事事件の役割とは

ー刑事事件はどのように手続きが進むのでしょうか。
通常の事件はまず警察が事件を捜査し、その記録や証拠を検察に送致します。警察が事件を検察庁に送ることを「送検」と呼びます。被疑者の体を拘束しない在宅事件が送検される場合のことを「書類送検」と呼ぶことがあります。
検察官は受け取った事件の記録を精査し、被疑者の取調べ等を行ったうえで、最終的に「起訴」か「不起訴」かを判断します。
起訴とは、検察官が刑事事件を起こしたと考える被疑者を裁判にかけることです。裁判所の法廷での審理を求める「公判請求」と簡単な書面の審理のみで進める「略式手続」があります。起訴された被疑者は被告人と呼ばれるようになり、有罪か無罪かは刑事裁判によって判断されます。
不起訴は「裁判にはかけない」と検察官が判断することです。主な不起訴の理由には 「嫌疑なし・嫌疑不十分」と「起訴猶予」があります。
「嫌疑なし」は検察官が犯罪がなかったと考える場合、「嫌疑不十分」は証拠が足りず有罪立証が困難と考える場合です。これに対し「起訴猶予」は、証拠上は有罪が見込まれるが、さまざまな事情を考慮して起訴しないという判断をしたケースを指します。
ー検察官はどのように起訴か不起訴かを判断しているのでしょうか。
検察官は、警察の捜査記録や証拠、被疑者の供述や関係者の証言、物証などを精査し、総合的な判断を下します。
まず、起訴・不起訴の判断に大きく影響する要因と考えられることは、「有罪判決の見込みがあるかどうか」です。証拠が不十分で、有罪にできる見通しが立たないと判断すれば「嫌疑不十分」として不起訴にすることがあります。
一方で、有罪にできる証拠が十分にあっても、被疑者の年齢や性格、事件の軽重、反省の有無、被害者との示談状況などを考慮し、さらには、起訴することの不利益や更生の見込み、環境が整っているかといった事情も踏まえて、「起訴猶予」として不起訴にする場合もあります。つまり、検察官は「証拠」と「事件・被疑者」の両面から起訴・不起訴の必要性や相当性を判断しているといえます。
ちなみに、法務省が公表している統計(犯罪白書)を見ると、令和5年に検察官が送致を受けた被疑者について行った処分(終局処分)の件数は約80万件です。そのうち起訴は略式起訴を含めても約24万件と全体の約3割程度に留まっており、多くは不起訴処分です。
不起訴処分の理由を見ると7割近くが起訴猶予となっており、このことからも検察官がいかに起訴・不起訴について広い裁量を持っているかがわかると思います。
不起訴を目指す弁護人の活動

―弁護人は不起訴処分を獲得するためにどのような活動をするのでしょうか。
弁護人の活動は、目指す不起訴の種類によって異なります。まず「嫌疑不十分」を目指す場合、取調べの対応に関する助言が重要です。
逮捕・勾留され被疑者という立場に置かれる方は、多くの場合刑事手続きに関する知識や経験に乏しく、取調官による長時間かつ威圧的な取調べを受けることで、事実と異なる供述をしてしまう可能性があります。そのため、黙秘権の具体的な行使方法や、供述調書への署名を拒否できることなどを伝えることが重要だと考えています。
一方で、「起訴猶予」を目指す場合には、更生支援や示談交渉などが重要です。被害者に対する謝罪や弁償(示談交渉)に加え、環境調整を行うことも多いです。環境調整とは、たとえば家族との関係修復や、薬物事件なら病院や自助グループにつなぐといったイメージですね。事件を起こす原因となっている環境を改善し、時には福祉の専門家等と連携しながら更生を支援することを目指しています。
ただし、環境調整は時間を要するケースも多いです。場合によっては検察官に対して処分を保留したまま身柄を釈放する「処分保留釈放」を求めることもあります。
―不起訴になった後、本人にどんな影響がありますか。
被疑者にとって、不起訴は望ましい結果です。起訴されて刑事裁判の被告人として、裁判を受けること自体、相応の負担となることは否定できません。ただし、不起訴処分となった場合、いったいどのような捜査が行われ、どのような証拠が存在するのかを被疑者とされた人や弁護人が知ることは難しく、なぜ不起訴になっったのか(そもそもなぜ嫌疑をかけられたのか)あきらかにならないこともあります。
ちなみに、検察庁から取得できる「不起訴処分告知書」には不起訴の理由が記載されていません。被疑者を逮捕・勾留せずに進める在宅事件の場合だと、弁護人が問い合わせしないと処分決定がいつ出たのかすら教えてもらえないことがあります。
逮捕や起訴、あるいは有罪・判決のニュースは大きく取り上げられることがありますが、不起訴は話題にならないことも多いです。一般の方々が不起訴という制度にあまりなじみがない理由としては、報道の在り方も影響しているかもしれません。
報道機関には「無罪推定の原則」が一般の方々に正しく理解されるように、丁寧に報道してもらいたいです。
日本の刑事事件の課題

―日本の刑事司法制度にはどんな特徴がありますか。
起訴率は高くない一方で、起訴された事件の有罪率は99.8%と言われています。この異常ともいえる有罪率の高さが、判決を行う裁判官に対して「検察官が精査して起訴したのだからほぼ有罪だろう」という心理的な影響を与えてしまっている可能性は否定できません。
冤罪事件は実際に起きています。その大きな原因のひとつに「証拠開示の問題」があります。検察官が集めた証拠は被告人・弁護人に対して一部しか開示されないのが通常です。本来であれば、検察官と被告人・弁護人は対等な立場で裁判を行うため、証拠を全面的に開示すべきです。
―最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
刑事事件の起訴・不起訴というものがどういうものなのか、そしてどのように決まっているのか一般の方々にはあまりなじみはないかもしれません。今回の記事を通じて、少しでもイメージを持ってもらえたら幸いです。
虫本 良和

2008年桜丘法律事務所入所。法テラス千葉法律事務所でのスタッフ弁護士としての勤務を経て、2016年1月から法律事務所シリウスに所属。刑事弁護を中心に活動している。日本弁護士連合会 刑事弁護センター委員、刑事調査室嘱託等。






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