魂の殺人と呼ばれる性加害の実情について
- 2023/11/5
- マネー・ライフ
- オックスフォード大学, 性加害, 日本
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心身に深刻な影響を与え、その後の人生を大きく変えてしまう可能性のある行為である性加害。みなさんはその性加害が我が国でどれくらい発生しているか、意識したことはあるでしょうか。
治安がよいと言われている日本でもニュースなどで性加害の報道が時折出ているので、全くないと思っている人は少ないと思われますが、実はニュースになっている性加害はごく一部であり、我が国でも日々性加害の被害者が出ているのです。
性加害というと見知らぬ人から同意を得ずに性交渉をするような、いわゆるレイプ被害を思い浮かべる方が多いと思いますが、性加害には性行為以外の行為も含まれます。
被害を受けないため、また無意識に性加害の加害者とならないために、そして性加害に苦しむ人を少なくするために、社会の構成員である我々一人ひとりが性加害とはどのようなものなのか、また我が国における性加害の現状を知っておくことは非常に重要です。
今回は性加害とはどのように定義されているのか、また我が国での性加害の現状はどうなっているのかを解説します。
そもそも性加害とは
性加害とは受け手の同意がない性的な行為による被害のことをいいます。
いわゆるレイプのような性行為だけではなく、性器や体を触られること、盗撮などをされること、嫌がらせをされることなども含まれます。
また、性的な経験を聞かれたり、ボディーサイズなどに言及されることも性加害となります。
さらに、相手が恋人や家族、配偶者であっても、受け手の同意がなければ、それは性加害になります。
つまり、会社などでセクハラをされる、夫や妻から同意なしに性行為をされるというのも性加害となるのです。
軽い気持ちのセクハラや配偶者や恋人に無理やり性行為を迫ること、軽い気持ちで相手の体について言及することや、下ネタを投げかけること、というのもすべて性加害になることを知っておきましょう。
性加害の多くは見過ごされている!我が国の性加害の実情
平成26年度にオックスフォード大学医療人類学研究室により行われた性暴力の被害経験に関する調査があります。
この調査によると平成26年度に1,811人の女性調査したところ、性加害が1回あった、2回以上あったと応えた人がおよそ1割存在しました。
性被害を受けた人の9割は30代までで、性被害の加害者は7割がパートナーや顔見知りからの被害でした。
実は我が国でも日々多くの性加害が発生しているということがわかるデータだと思います。
では、その性加害について、被害を受けた側の人はどのくらい外部に相談をしているのでしょうか。
まず、性加害の相談先としてあがる警察への相談ですが、実は性被害者の女性のうち警察に相談をしているのはたった4.3%しかいないのです。
性加害を受けた女性の実に7割はどこにも相談をしていません。
さらに2割は友人や知人への相談に留まっており、公的な機関・学校関係者、民間の専門家や機関への相談はありませんでした。
多くの性的被害はどこにも相談されることなく、救済などを受けることなく見過ごされているのです。
性被害は急性ストレス障害やPTSDの発症、自殺などの発生率を優位に上昇させます。
加害者と似たような背格好の人、加害を受けた時と近い状況がきっかけとなり、その当時のことが映像や感覚として思い出してしまうフラッシュバックに悩まされる人も多くいます。
回復するまでに数十年かかることも多くあり、いつまでもその経験は心に刻まれます。
性加害が「魂の殺人」と呼ばれる所以です。
ここでは、性被害に関してみなさまに知っていただきたい誤解されやすい事項についてまとめます。
また、性被害に関して3割は相談にすら至らないケースが多いと報告されているにもかかわらず、実際には相談件数が多いことをそれぞれまとめました。
<性被害に関して誤解されやすい事項>
1. 性加害者は見知らぬ人ではない。
性犯罪者は、しばしば家族、友人、知人など被害者に信頼されている人々である。性加害者は発覚を恐れて見知らぬ被害者を選ぶわけではない。
2. 性犯罪はすぐには発覚しない。
見つからない性犯罪の方が圧倒的に多い。見つからなければ、自ら悔い改めることはない。見つかっても全力を尽くして罪から逃れようとする。社会的に地位が高いもしくは高学歴者は見逃されやすい。
3. 性的欲求は抑制可能である。
性欲が強いとは限らない。男性ホルモンが高値とは限らない。他者への攻撃や支配を併せ持つ。性犯罪者は捕まらないような被害者や状況を選ぶもしくは設定する。「より弱い」者や「抵抗しないであろう」者を選ぶ。男子の被害も実際に多い。嗜好の偏りは思春期から現れる。
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | |
殺人 | 781 | 863 | 1,086 | 715 | 888 |
暴行傷害 | 372 | 224 | 249 | 360 | 567 |
交通被害 | 962 | 710 | 921 | 1,052 | 1,041 |
性的被害 | 2,741 | 2,742 | 2,349 | 2,545 | 2,974 |
その他 | 777 | 710 | 762 | 717 | 759 |
性加害から身を守る、性加害に悩む人をなくすために
まずは自分の行動が性加害にあたらないかどうかを一人ひとりが再度確認することが重要です。
軽い気持ちで身近な人に性的な話題を投げかけたり、軽い気持ちで口説いたりすることも性加害となり得ます。
また、男性から女性だけでなく女性から男性にこのような行為をすることも性加害となり得ます。
性加害は相手との関係性に関係なく成立することも頭に留めておくことも必要です。
性被害にあった人を見かけた場合には、一人で抱え込むのではなく、プライバシーを保ったまま相談できる公的な機関への相談を行いましょう。
自分が性被害にあった場合も同様に公的機関に相談をしてください。
性被害によって引き起こされる精神的な症状は、一人で抱え込むのには大きすぎるものです。
精神科や心療内科などへの相談も検討してください。
自分の性被害の体験を話すのは非常に勇気がいることですが、サポートを受けることで立ち直る助けになります。
まとめ
今回は性加害について解説していきました。
軽い気持ちでも被害を受けた側には一生の傷になり得る性加害。
自分の行動が性加害に当たらないか、しっかりと考えることがより重要になっています。
残念ながら日本では、抵抗しなければ同意を得られたとする考えがいまだにあり、多くの性加害が見過ごされている現状があります。
今後、性加害についての認識が我が国で深まることや、被害を受けた人がプライバシーを保たれた状態で相談できる制度の確立されることが強く望まれます。
参考文献
1.法務省.安藤久美子.性犯罪加害者の理解と対策
2.東京都総務局人権部.犯罪被害者やその家族の人権問題
3.法務省.性暴力の被害経験に関する質的調査報告
4.一般社団法人Spring
5.文部科学省. 性犯罪・性暴力対策の強化について
6.Danielle Davis, Loredana Santo. Emergency Department Visit Rates for Assault: United States, 2019-2021. NCHS data brief. 2023 Oct;(481);1-8
7.Karen M Devries, Joelle Y T Mak, Jennifer C Child,et al.Childhood Sexual Abuse and Suicidal Behavior: A Meta-analysis. Pediatrics. 2014 May;133(5):e1331-44. doi: 10.1542/peds.2013-2166