子どもの予防接種 こんなに必要なの?

[子どもの予防接種 こんなに必要なの?」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

はじめての子どもを産み、育てているときに予防接種の種類が多くてびっくりした。

こんな経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
とくに近年新型コロナウイルスの流行などもあり、予防接種のありかたについて考える機会も増えてきた中で、
「こんなにたくさんの予防接種を本当に受ける必要があるのか」
「予防接種を受けることにリスクがあるのではないか」
「予防接種してもかかるのなら意味はない」
といった思いを抱く方も少なくないでしょう。

厚生労働省のホームページの「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」では、コロナ禍における受診控えや病院の受診制限などから、乳児健診や予防接種が適切な時期に受けられていない可能性があると記しています。
そこで今回は、予防接種にはどのような意味があるのかについて解説します。

そもそも予防接種とは

予防接種とはある病気を予防するために、その病気を引き起こす病原体(ウイルスや細菌)や毒素を前もって投与しておき、免疫を作ることです。
当然病原体や毒素をそのまま入れると病気になってしまうので、病原性を弱める処理をしたものを投与します。

接種が「努力義務」とされる定期接種のワクチンは以下のものがあります。

  • ヒブワクチン
  • 肺炎球菌ワクチン
  • B型肝炎ワクチン
  • 四種混合ワクチン(百日咳 破傷風 ポリオ ジフテリア)
  • BCG(結核予防)
  • MRワクチン(風疹 麻疹)
  • 水痘ワクチン
  • 日本脳炎ワクチン
  • HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン

また、接種が各自の判断に任せられた「任意接種」のワクチンには、インフルエンザ、おたふくかぜ、ロタウイルスなどのワクチンがあります。

初めてこれらのリストを見ると、その多さに驚く人も多いでしょう。
予防接種は一度に何種類も接種可能ですので、右腕に2本、左腕に2本、さらにロタウイルスワクチンを経口接種した、なんてことがあるのです。

これだけのワクチンを打つ必要があるのかというのも当然の疑問かと思います。
ワクチンの必要性については次項以降で解説していきます。

子どもの頃にワクチンを受けるべき理由

前項で見てきたように、非常にたくさんのワクチンが存在し、それを生後数ヶ月の赤ちゃんに打たなければいけません。
そのことに抵抗を感じること自体はおかしいことではありません。

しかし、ワクチンを接種しない不利益は非常に大きいのです。

生後間もない乳幼児は、免疫機能がまだ発達しきっていません。
また、病原体に触れたこともないので、免疫の獲得もできていません。
その状態で感染症にかかると、重症化のリスクは大きく上がってしまいます。

ときどき「あまり罹っている人を見ないから予防接種を受ける必要があるのか疑問」という人がいますが、「予防接種をみんなが受けているからこそ、かかる人や重症化する人があまりいないのである」ということを認識する必要があります。

例えば、今では生後2カ月から接種することができるHib(B型肺炎球菌ワクチン:Haemophilus influenzae type b)と、小児用肺炎球菌ワクチン(7 価結合型 肺炎球菌ワクチン:pneumococcal conjugate vaccine: PCV7)はそれぞれ、米国より20年遅れて2008年12 月および2010年2月から接種できるようになりました。

重篤な後遺症が生じる可能性がある細菌性髄膜炎は、Hibと肺炎球菌が80%を占めています。
これらの細菌性髄膜炎が、日本では予防接種が導入後、Hib髄膜炎が100%、肺炎球菌髄膜炎が71%減少したと報告されています。
ただ、予防接種には利益もあれば不利益もあります。

副反応の心配は?

ワクチンの話になると、必ず意識されるのが「副反応」です。
予防接種の副反応でよくあるものとしては、発熱や接種部位の腫れなどがあります。
重篤なものとしては、けいれんやワクチンの成分に対して強いアレルギー反応がおこるアナフィラキシーなどがあります。

ワクチン接種の重篤な副反応については、厚生科学審議会でまとめられた結果が公表されています。
この統計は接種後に健康状態が変わったものを集計しているため、ワクチンとの因果関係が考えにくいものも含まれています。
その上で、ワクチンの重篤な副反応は10万接種に1例程度と考えられます。
ピンとこない人のために比較対象を見てみましょう。

食べ物で重篤なアレルギーであるアナフィラキシーを引き起こした児童の割合は、小学生で0.15%と言われています。
つまり、1000人中1.5人が何かしらの食べ物で、重いアレルギーを引き起こしているということになります。

ワクチン接種によるアレルギーの頻度10万接種で1人ですので、食べ物によるアナフィラキシーの頻度を下回るのです。
ワクチン接種をするリスクは実は大きなものではなく、ワクチン接種をしないリスクの方がはるかに大きいことがわかります。

まとめ

今回は、子どものワクチン接種について解説しました。

生まれたばかりの子に、ワクチンをいくつも打つのは抵抗があるというのは、何らおかしくはありません。
しかし、データを見ていると、予防接種の意義は非常に大きいものです。

接種しないことで、重篤な感染症による死亡や後遺症のリスクが跳ね上がってしまいます。
自分で予防接種するかを選べない子どものために、ワクチン接種はしっかりと行うことが重要です。

参考文献:
1.岡田賢司,菅秀,庵原俊昭,神谷齊:小児の細菌性髄膜炎に対するワクチンの効果. 日本化学療法学会雑誌2016:652-655
2.厚生労働省. 海外渡航のためのワクチン(予防接種)
3.厚生労働省. 予防接種情報

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. 米国のテクノロジー大手Googleは8日、生命活動の核心をなすたんぱく質やDNA、RNAなどの分子構…
  2. 花粉症が嫌われる理由は多くの人にとって明白ですが、意外な利点があることが最近の研究で明らかになってい…
  3. ピアニストのフジコ・ヘミング氏が4月21日、膵臓がんのため92歳でこの世を去りました。リストの難曲『…

おすすめ記事

  1. 「子どもにとってゲームは良い影響?悪い影響?アメリカではIQが上昇する研究報告」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

    2023-10-22

    子どもにとってゲームは良い影響?悪い影響?アメリカではIQが上昇する研究報告

    アメリカの大規模調査では、2022年には71%の子どもたちがゲームをしていると答えています。日本の2…
  2. WILLER EXPRESS株式会社(ウィラーエクスプレス)の社名看板

    2024-4-19

    WILLER EXPRESSの「新木場BASE」から見える安全に対する徹底した取り組み

    WILLER EXPRESS株式会社(ウィラーエクスプレス)は、お客様に安心・安全な移動サービスを提…
  3. 上空から見た羽田空港(空撮)

    2024-4-15

    羽田空港の航空保安施設が支える快適な空の旅。安全運航の裏側にせまる

    日本と世界を結ぶ玄関口である羽田空港。今回は、航空機を安全に飛ばすために必要な様々な施設の中から、対…

【募集中】コンテスト

第5回ライティングコンテスト(東京報道新聞)

【結果】コンテスト

東京報道新聞第4回ライティングコンテスト (結果発表)

インタビュー

  1. ゴミ収集車の死亡事故による呼び捨てでの実名報道で訴訟を起こした品野隆史氏
    現在メディアでは、事件に関して疑いのある人の実名報道では「容疑者」を呼称でつけていますが、1989年…
  2. 青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」代表の渡辺精一様
    協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解したうえで就職先として受け入れる…
  3. 青森刑務所で受刑者に講話を行った受刑者等専用の求人誌「Chance!!」編集長・三宅晶子氏
    三宅晶子氏(株式会社ヒューマン・コメディの代表取締役)は、日本初の受刑者等専用求人誌「Chance!…
ページ上部へ戻る