子どもの心を強くする!レジリエンス教育とは? 社会で生き抜くために必要な3つの特徴

「子どもの心を強くする!レジリエンス教育とは 社会で生き抜くために必要な3つの特徴」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

レジリエンスとは、直訳すると「回復力」「しなやかさ」を意味する単語です。

もともとは、物理学の分野で物体に対して使われた言葉でしたが、心理学の分野でも使われるようになり、「重篤なストレス状況下で一時的には落ち込みながらもそこから立ち直っていく過程や結果であり、深刻な状況に対する個人の抵抗力」という定義がされています1)
簡単にいうと、「心の回復力」を表します。

生きていると、様々なストレスにさらされることがあります。
人間関係がうまくいかない経験は、誰しもあります。
勉強や仕事で失敗をしたり、恥ずかしい思いをしたり、理不尽な思いをすることを全て避けることはできません。

そのような時に、レジリエンスが高い人はすぐに立ち直り、適応していくことができます。
しかし、レジリエンスが低いとそこから立ち直れず、そのせいでさらに次の失敗をしたり、生活習慣が乱れたりと様々影響を受けます。

子どもの教育では、学力を高めることだけに腐心すると、このレジリエンスを高められず、困難に対処できなくなってしまいます。
今回は、子どものレジリエンスを高めるに、どのような方法があるかを解説します。

レジリエンスの高い子どもの特徴とは

子どものレジリエンスを高めるための教育を行うには、まず、レジリエンスの高い人の特徴を知る必要があります。

受験前の中学生538名を対象にした研究で、レジリエンスの尺度として挙げられたものが、「自己志向性」「楽観性」「関係志向性」の三つの因子でした2)

自己志向性とは、各個人が選択した目的や価値観に従って、状況にあう行動を自ら統制し、調整する能力に関わります。
つまり自分の考え方や感じ方に対して、信頼感を持っているということになります。

楽観性は、未来に対する明るい見通しを持つ性質や、現状が悪くても状況が変わる・変えられると希望を持つ性質のことです。

関係志向性は、他者との関係を重視し、他者との協力を通じて困難を乗り越えようとする姿勢を指します。
人間関係を築く能力や、困難な状況でも他人と協力して解決策を見つけ出す力を持つことを意味します。

つまり、レジリエンスを高めるためには、これらの性質を高めるように子どもに接することが有効であると考えられます。

レジリエンスを高める方法

ここからは、どのようにしてレジリエンスを高めるのかを見ていきましょう。

まず、レジリエンスについてイメージするために、図に表しました。
失敗や困難からの落ち込みから、図のように人は立ち直っていくのです。

レジリエンスカーブ_人が失敗や困難などの落ち込みから立ち直りまでのイメージ図
(筆者作成/無断複製禁)

自己志向性を高めるためには、「自分が頑張れば目標は達成できる」という自己効力感を高めることが有効です。
そのためには、「日常生活の中で達成しやすい小さな目標を定めて繰り返し達成させる」ことが重要です。

勉強をさせる場合で考えると、とにかく勉強させてスパルタで接すると、自己効力感は低くなります。
学習の目標は、月単位や週単位ではなく、1日に達成可能な小さい目標を作り、まずはそれを達成したらしっかりと褒めることが重要です。

スキンシップをとったり。子どもの主張をしっかり聞いてあげたり、意見を汲み取って話すことも重要です。
子どもが自分の意見を述べる環境を作ることで、自分が物事をどのように考えているか認識し、自分で意思決定する能力が育ちます。

楽観性を高めるには、勉強やスポーツなどで、何かうまくいかないことがあったときに、よくない点ばかりを指摘するのではなく、うまくいったことを見つけてフィードバックすることが重要です。
また、どうすればうまくいったのかを、共に考えることも良いトレーニングになるでしょう。

関係志向性を高めるには、身近に自分の行動のお手本となる人を見つけることが有効です。
子どもの同じクラスに、お手本となる人がいないか話し合ったり、部活やスポーツで同学年や近い学年で目標になる人を見つけて、見習う部分は見習い、逆に自分の得意なことは教えてあげられる関係を作ることを目指しましょう。

これらを実践していくことで、自分の発言や信念に自信を持ちつつ、悪い状況の時にも悲観的にならず、状況を打開することを模索でき、他人と協力ができる人になることができます。

まとめ

今回は、社会で生き抜くために重要な精神的回復力、レジリエンスについて解説しました。

人は失敗や困難から立ち直っていくことが、人生において必要です。
自ら、目標を定め、立ち直ることができる。
失敗を前向きに考えることができる。
困ったときに相談すれば克服できる。
そのようなレジリエンス教育は子どものうちに必要です。

子どもの教育では、ついつい勉強させることを重視してしまいがちですが、嫌なことがあったとしても、しなやかに回復する力を育てるための教育もとても重要です。

参考文献:
1.石井京子.レジリエンス研究の展望.日本保健医療行動科学会年報 2011;26:179-186 (2024.02.04取得)
2.石毛みどり,無藤隆. 中学生における精神的健康とレジリエンスおよびソーシャル・サポートとの関連 受験期の学業場面に着目して.教育心理学研究2005;53:356-357

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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