トクホって大丈夫?6,500億円市場の特定保健用食品との付き合い方

「トクホって大丈夫?6,500億円市場の特定保健用食品との付き合い方」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

ちまたに数多く健康食品として売られている特定保健用食品(トクホ)製品。
誰しも一度は「トクホマーク」を見たことがあるでしょう。

特定保健用食品(トクホ)は、1991年に日本で制度がスタートして以来、国際的にも注目されている健康食品ブランドの一つです。

特定保健用食品(トクホ)は、有効性や安全性について国が審議を行い、消費者庁長官が許可を与えた食品です。
消費者庁へ届け出ることで、事業者の責任で機能性の表示をする食品の機能性表示食品と違って、多くの方にとって「トクホだから健康にいいだろう」という強い信頼性がありますね。

こうした高い信頼性から、なんと、トクホ製品の市場は6,500億円規模にものぼります。
しかし、本当にトクホ製品が約束する「健康効果」はあるのでしょうか?

今回は、トクホの市場規模とその信頼性について深掘りしていきます。

特定保健用食品(トクホ)とは?

特定保健用食品(トクホ)とは、日本の厚生労働省が健康に対する特定の効果を認めた食品のこと。なんと市場規模は6,500億円になります。

年度   市場規模(億円) 
1997年度1,315
2001年度4,121
2005年度6,299
2009年度5,494
2013年度6,275
2017年度6,586
表.特定保健用食品の市場規模推移(公益財団法人 日本健康・栄養食品協会発表より作成)

これらの食品は、一般的な食品とは異なり、特定の健康効果が科学的に証明されている必要があるのが1番の特徴です。

「トクホ」と認定されるためには、国が厳格な審査を行い、国からの承認が必要になります。また、審査が通るためには、

  • コレステロールが高めの方に適する
  • 食後の血糖値上昇を穏やかにする
  • お腹の調子を整える
  • お通じの気になる方に適する

などの効果をそれなりに実証しないといけません。

当然、加えてトクホ製品も一般的な食品と同様に、安全性が確保されている必要があります。

しかし、そうした厳格な審査を通ることができれば、国が認めた「トクホマーク」を使い、上記のようなメッセージを使いながら、特定の健康効果を強調して表示することが許されます。

国が認めたとあって国民からの信頼も厚く、健康食品としての知名度も段違いになります。みなさんも、「トクホだから健康にいいんだろうな」と一度は思ったはずです。

しかし、トクホ製品といえど、その実態はさまざま。
消費者自身がその効果を正確に理解し、適切に選ぶ必要があります。

無批判に「トクホだから健康にいい」で終わらせてしまっては、いくつかの落とし穴にはまることになってしまうのです。

では、どんなことに気をつければよいのでしょうか?

参照:
消費者庁「特定保健用食品について」
e-ヘルスネット「特保(特定保健用食品)とは?」

特定保健用食品……よく見ると?

そもそも、その「トクホ商品」、本当に効果があるのでしょうか?
みなさんは、一度でもトクホ製品が認められた背景となる臨床試験をみたことがありますか?

例えば、体脂肪の低減をもとに、特定保健用食品として認定されている製品について、仮定して考えてみます。

仮に、その製品のもとになっている臨床試験を次のようにしてみましょう。

その試験では、20歳以上、65歳以下の男女200名近くを12週間1日1つ「ある製品」を摂取したグループと、普通の製品を摂取したグループにランダムに割り付けています。

そして、12週間「ある製品」を摂取しつづけることにより、腹部の全脂肪面積が〇〇%減ったとしましょう。

ここまで見ると、「やっぱり臨床試験でもよく検討されているなあ」と思いますよね。
厚生労働省が認可しているだけあって、これくらいの臨床試験がないとパスされません。

しかし批判的に考えるなら、いくつかの「穴」があります。

例えば、ランダムに割り付けしてあるからといって、「ある製品」と普通の製品は、成分が違う以上、味に違いが出てきてしまいます。
そのため、普通の緑茶ではないと感じた参加者がプラセボ効果の影響で、運動や食事のメニューを変えてしまう可能性がありますよね。

他にも、どうしても特定の企業とのタイアップでの臨床試験の場合、「プラスの効果を出したい」と思うもの。
そのため、試験デザインとして「結果が出やすいように」分析してしまうことが往々にしてあります。

例えば、上記の試験の場合、なぜ「体重が〇〇キログラム減った」とか「体脂肪率が▲▲%減った」ではなく、わざわざ「腹部の全脂肪面積が減った」という試験デザインにしたのでしょう。

もしかすると、体重や体脂肪率だと「良い結果」が出なかったのかもしれません。

しかし、良い結果を出さなければ「トクホ」に認定されず、売上に大きく響いてしまう……。
その結果、なんとかして結果を出したい想いから、色々な角度から「よい結果」を抽出して発表されたりするのです。

このように、批判的吟味をしてみると、一見「きちんとしてる」と思われる試験でも「穴」があることがわかるでしょう。

「トクホ」と正しく付き合うために私達ができること

特定保健用食品(トクホ)は、確かに多くの健康効果を謳っていますが、その裏にはいくつかの問題点も存在することがわかったでしょう。

では、私達はどのように「トクホ」と付き合えばよいのか。
少なくとも、「トクホ」に無批判で飛びつく前に、次のことを考えてみてはいかがでしょうか。

①研究データを確認する

例えば、「〇〇という成分が▲▲に効果的!」というキャッチコピーがあったとしましょう。

もちろん「トクホ」ですから、企業がある程度、ちゃんとした研究を行って実証しています。
しかし、企業が主導で行われた研究だけだとどうしても「恣意性」が出てきてしまうのです。

そのため、第三者による独立した研究が、他にあるのか確認しましょう。
今はネットですぐに調べることができます。
少なくとも、複数の企業や公的機関でも紹介されていれば、ある程度は信頼できるでしょう。

②試験デザインを吟味する

また、できることなら、背景となる「試験デザイン」を吟味するものよいですね。
試験を評価する時には、次のことを気にしてみるとよいでしょう。

  • サンプルサイズ: 参加者の数が十分かどうかを確認します。
  • ランダム化されているか: 試験がランダムに割り付けられているか確認します。また、誰がどの成分を摂取しているかわからない「盲目化」されていると理想的です。
  • プラセボ効果: 単純に成分を摂取したグループだけを評価している場合、「プラセボ効果」でよくなっているだけの可能性があります。

③自分の用途と目的にあっているか確認する

自分と条件がかけ離れたグループでの臨床試験で、効果が確認されていたとしても、それが自分にとって効果が出るかはわかりません。

また、「〇〇に効果がある」とわかっても、非現実的で到底続けられない量だったり、金額だったりしたら意味がありませんよね。

トクホ製品のもとになっている臨床試験を見つけたら、

  • 自分にとって本当に現実的な価格や量なのか
  • 自分と似たような人を対象とした試験なのか
  • 自分が求めている効果が臨床試験で実証されているのか

など、実際に自分がその製品を使っていることを想像しながら考えてみるといいでしょう。

ぜひ、みなさんも普段愛用している「トクホ製品」を見直してみて、より正しいトクホとの付き合い方ができることを願っています。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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