今年の2月末に亡くなった伯母は、弱音を吐かない人でした。弱音を吐かない、というよりも弱音を感じる感覚が少ない人、と言った方が正しいかもしれません。

初孫ということで祖母に異様に可愛がられていた私は、家の手伝いをさせてもらえませんでした。母は洋服ひとつたためない私を心配し、実の姉である伯母に学校が長期休みに入ると、預けるようになりました。この結果、私は鳥のヒナのように伯母の後を追いかける子どもとなってしまったのです。

触れなかったハサミや包丁を、やりたいと言うと伯母は持たせてくれます。できないとスッと仕上げてしまうので、子ども心に非常に悔しく感じました。次は絶対成功させようとスイッチが入るため、自然とハサミも包丁も使えるようになっていきます。

伯母のすごかったのは、実技というより作業時の心構えを教えてくれるところでした。

「洗濯物でもね、洗い物でもね、やろうと思って難しいことはないのよ」

そう言いながら家の用事を済ませている伯母を見ると、大抵のことは簡単にできるものという考えが心身にしみ込みます。その考えは、学校での勉強や社会で働く際に心を支える、楽天的な性格を形作る核となりました。

これだけだと、伯母が「鉄の女」のような印象を持たれるかもしれませんが、違います。伯母は「鉄の女」なのではなく「柔軟な女」なのです。物事は難しくないと言いながら、人によってやり方や感じ方が違うと考えており、決して相手に無理強いをすることはありませんでした。

私が「さほど難しくない」作業が出来なくても、叱りもしませんし、不満も言いません。

指導をする場合、どうしても上手くいかないことを指摘しがちになりますが、伯母はできたことをものすごく喜ぶのです。いつかできるようになるし、できない間は他の人がやればいいのだから、というのが伯母の考えでした。

・できないと当たり前のように伯母にやられるのが悔しい
・できて報告すると我が事のように褒められるのが嬉しい

この2つの感情は、楽天的な私を育む核となりました。

学校の長期休暇の間、伯父は会社ですし、従兄弟はアルバイトに明け暮れておりましたので、昼間は伯母と2人きりです。最初の頃は寂しかろうと近所の同年齢の子どもを探してきてくれましたが、伯母と家事を共に行い喋ることを好む私を見て、無理に遊び相手を探さなくなりました。

特に仲が悪かったわけではなく、仲の良い家族だったのに、時間があると伯母を求め、泊まりで遊びに行きました。大人と子どもという枠ではなく人として伯母が好きだったのです。

去年の夏に倒れた伯母を発見し、病院に付き添いましたが、タクシーから降ろす伯母はとても軽く、常に元気で病気をしたことのない伯母とは思えない変わりようでした。

すっかり軽くなった伯母ですが、タクシーで病院に向かう途中も「あんた、今日はいい靴履いているねぇ」と褒めてきます。私も負けずに「伯母さん、よく気づいたねぇ。十分元気だ」と笑いながら背中をさすり続けました。

病院に着くまで、伯母も私も辛くても悲しくても笑い合っていました。泣いてたまるかという楽天家特有の負けん気が発動したのです。

入院、施設への入居は、家族以外は付き添えないため、全く立ち会えませんでした。施設の面会は、当時のご時世から入り口でガラス越しでしか会えませんでした。

楽天家とは言うものの、生きていく上で辛い出来事はどうしても起こります。そのたびに伯母はプラスの発言をして私を支えてくれました。その伯母も今はいませんが、私は毎日を笑って生きています。日々面白いと思うことを新たに発見できるのは、目に見えない伯母が私の中で心を支えてくれているからでしょう。

今、私はnoteというプラットフォームで「毎日note」という活動をしています。「反省しなくてもいい人が反省し生きにくい世の中」だと感じたため、真面目に生きる人達に少しでも明るい話題を届けたいと思ったからです。

少し、間の抜けたクスリと笑える文章を毎日読んでもらうことで、心が明るくなる人を増やしていけたら、と思っています。この考えは伯母が育んでくれたものであり、伯母がいなかったら「毎日note」は始められなかったと思います。

毎日、なにかしらのメッセージを投稿することで、私の世界は広がりました。伯母は私の中で、今も楽天家の師匠として生き続けてくれています。

ライター名:はそやm(はそやん)

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