第4回ライティングコンテスト佳作

朝の通勤路、満員電車。蒸し風呂のようなバスの車内。
私の目線の先にいる人は皆、揃って下を向いたまま、一点を凝視している。
スマホ片手に親指1本で退屈を埋められる時代。
先人達はありとあらゆる知恵を絞り出し、文明を開化させてきた。
その甲斐もあって、前よりずっと暮らしやすくなった世の中は、何故かどこか窮屈で息苦しい。

看護師になり5年目。
「AIが発達しても、コミュニケーションは図れないから医療や保育には向いていない」
この言葉のおかげで、専門学校時代、私にとってAIは疎遠の存在だった。
入職時の、「医療AIの導入」をテーマとされた研修を受けるまでは。
日本の高齢化は徐々に増加しているのにも関わらず、医療従事者の離職率も増加している。

離職率が増加することで、1人に対する責任感や仕事量が増え、また離職する。
この繰り返しだ。よって、私の職場でも取り入れられていた「医療AI」

寝たきりの患者様は、体位変換をしなければ皮膚が圧迫され床ずれが出来てしまう。
よって2時間毎に訪室しなければならない。それを、自動で除圧してくれるマットレスが導入されていた。おかげで、人員削減につながり、仕事量も減ることで負担が軽減された。

衝撃だったのは、ロボット手術だ。
医師がコントローラーを動かすだけで、ロボットが人のお腹を切ったり縫ったりすることが出来る。自分は絶対にロボットに手術されるなんて嫌だ!と強く思っていただが、医師がナース室で「最近老眼になってきて。」と呟いていると、ロボットのほうが信用できるかも、なんてふと脳裏をよぎる。

こんなにも技術が発達すると、自分の手で失敗する機会が無くなってくる。
だからこそ、失敗が怖くなる。
先輩看護師から、鋭い目つきで「この患者さん、どんな合併症を起こす可能性がある?」なんて聞かれると、内心(あとでパソコンで全部調べちゃおうっと)と機序すらAIに任せる考えがすぐに浮かぶ。

点滴や採血もロボットが実践できるようになるのではないか。
患者様の細い血管をみて、ニコニコしながらこれまた内心(血管どこだ!血管探しロボット早く発明されろ~)なんて思う日々もあるものだ。
あんなに理科や数学の勉強をしても、社会人になるとそんなに使う機会はない。そのように、あんなに専門学校で勉強した疾病や薬も、今じゃスマホひとつで解決されるのだ。

人間は、新しいものを否定する生物だ。はじめは「AIなんて信用ならない」「AIなんて危険」なんて嘆いていたものの、今じゃ「人間の手助け」「楽して便利に」とのキャッチフレーズで書き換えられる。私も今、こうやってキーボードで文字を変換して綴っているわけで。
そして、人間はないものねだりだから、不便だと嘆くくせに便利になったらなったで文句を言う生物だ。

ただ、社会に出て5年経っても、先輩と呼ばれても、ありとあらゆる患者様に出会っても、まだまだ知らない感情がある。これを心のどこかでずっと大切にしなければならない。

患者様から、「貴方の手、あたたかいわね」と目と目を合わせて伝えられる言葉と心の温もりを忘れたくないし、
何が原因でどんな疾病が起きたのか、なぜその薬を使っているのか全部の機序を書き出し、理解できた時の喜びも忘れたくない。
医師も、実際に自分の手でメスを握った患者様から伝えられる「ありがとう」は、ロボットでする手術と、きっと少し違う感覚ではないだろうか。
失敗して叱られても、次どうしたら成功するか考える時間こそが、試行錯誤する時間こそが、仕事の、人生の醍醐味だと思う。

どんなにロボットが進化しようとも、AIが世界を飛び回ろうとも、感情を持つものは生物だけだ。ロボットに感情が取り入れられたとしても、今、感情を持つ私ですら言葉で言い表せない感情が山程あるのだから。

ライター:ホワイトタイガー

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【結果】コンテスト

東京報道新聞第4回ライティングコンテスト (結果発表)

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