花王株式会社が新たな蚊駆除技術の開発に成功しました。この開発は、花王株式会社のパーソナルヘルスケア研究所と、国立研究開発法人理化学研究所の共同研究によるものです。
表面張力の低い界面活性剤水溶液をミスト状にして蚊に噴霧し、蚊の飛行行動を妨げ、ノックダウン状態にします。この研究成果はScientific Reportsという電子ジャーナルに掲載され、6th Asia Dengue Summit 2023で発表されました。
蚊はデング熱やマラリアなどの重篤な感染症を媒介します。特に、デング熱は地球温暖化や都市化により感染者が増加しており、このような感染症の拡大抑制には、治療薬やワクチンの開発に加え、蚊を駆除することが有効とされています。
しかし、感染症が蔓延する地域で主に使用されている殺虫剤であるピレスロイド類に対し、抵抗性を持つ蚊が増加しているという問題が浮上しています。そのため、持続的に使用でき、かつ抵抗性を獲得しにくい新たな蚊駆除方法の開発が求められています。
この背景から、花王株式会社は「蚊の飛行を妨げ、飛べなくする」ことを目指し、新たな技術開発に取り組みました。そして、蚊の体表面や羽が水になじみにくいという特徴に注目し、蚊の体や羽を濡らすことで飛行行動を変えられるのではないかという仮説を立て、その実現に向けて界面活性剤に着目しました。
界面活性剤の作用で蚊の行動を制御|蚊駆除に新たな可能性が
界面活性剤は物質と物質の境界面(界面)に作用し、性質を変化させる働きがあります。花王株式会社はこの界面活性剤の性質を利用して、水になじみにくい蚊の体表面を濡らすことのできる方法を見つけました。
表面張力低下能の高い界面活性剤を使用すると、効率的に蚊の表面を濡らすことが可能だと判明。そして、この界面活性剤水溶液をミスト状に噴霧するだけで、簡単に蚊の行動を制御できることを発見しました。
花王株式会社と理化学研究所は、蚊の羽に水や界面活性剤水溶液を付着させたときの羽ばたきの様子を解析しました。水を付着させても蚊は羽で水をはじき、飛行を続けることが可能です。その一方で、界面活性剤水溶液を付着させると、蚊の羽が濡れて動けなくなり、飛行を続行できないことが確認されました。
また、表面張力が非常に低い液体を蚊に付着させることで、蚊をノックダウン状態にできることも判明。この現象は、昆虫が酸素を取り込むための気門が液体で塞がることにより、引き起こされるのだと考えられます。
この界面活性剤水溶液によって蚊を濡らす殺虫方法は、ピレスロイド類による殺虫メカニズムとはまったく異なるものです。この開発により、蚊の駆除に新たな可能性が開けることとなりました。