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憧れる存在・憧れられる存在
- 2023/7/24
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- 佳作, 第2回ライティングコンテスト
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19歳、看護の専門学校で出会った彼女は何故か惹かれる雰囲気を持っていた。身長が高いわけでなく、個性的な服を着ているわけでなく、振り返るほどの美女ではない。40人のクラスの中で、グループも違うし話したこともない。
「ねえ、今日の夜ロイヤルホスト行かない?」
連絡先も持っていない彼女から、突然誘われた。え?と聞き返す暇もなく、
「18時でいい?2号線沿いのところね」
勝手だなと思いながらも、はじめて2人で話すことに緊張した。彼女は17時30分に着いたらしく、先に中に入っていた。自分から18時と言ったのに、私が中に入ったときにはもう食事は済んでいた。本日2度目の、勝手だなが頭をよぎる。
学校や恋愛など、取り留めない話をしていたら、自分と性格が真反対だと分かった。私は島育ちで、親が通った小学校・中学校・高校に行き、看護師になりたいと希望は特になく、とりあえず資格を持っていれば何とかなるだろうという気持ちで島から出て専門学校に入学した。親の意見が第一とまではいかないが、親が敷いてくれた安全なレールの上を歩くタイプだ。
そんな私に比べ、彼女は探検心の塊だった。これからどうしていくか考えたこともない、行き当たりばったりで人生を歩んでいくタイプだ。私が彼女に惹かれる理由が分かった。自分にないものを持っているからだ。
何度か2人で遊ぶことが増えた。20歳を過ぎると、一緒にお酒を飲むようにもなった。おしゃれなランチや買い物をする仲ではなく、お互いが空いた時間に連絡をとり、昼にチェーン店で定食を食べるか夜に居酒屋に行く、そんな関係だ。
看護学校卒業後、彼女は横浜の病院に入社した。私は周りと同じよう、専門学校の隣の系列病院に入社した。神戸からわざわざなぜ横浜に行ったのか問うと、
「理由とか分かんない、違う空気を吸いたくて関東って感じ?」
はあ、本当に理解できない。でもそんな彼女の生き方が羨ましかった。しっかり自分の軸を持っていて他人に流されない。もちろん人間関係で悩んでいる姿は見たことがない。
看護師になり3年目、職場にも慣れてきて淡々と過ぎる毎日に飽き飽きしていた。資格さえあれば、と看護師になったため、自分の人生はこれで良いのか考えるようになった。そんな時、彼女から実家に帰るとの連絡があり、久ぶりに2人でお酒を飲んだ。
彼女は半年で退職し、その後働いた脱毛サロンも半年で退職、現在はトラベルナースとして働いていた。旅行が好きな彼女にとって、天職のようだった。『彼女の生き方が羨ましい』彼女に伝えたことはないが、伝えると真反対の自分が惨めだと思い、言葉を飲み込んだ。その時、酔っぱらった彼女がボソッと言った。
「あんたの生き方が羨ましい。私もそろそろしっかりしないとなあ」
一気に酔いが覚めた。
「模範解答のように生きるのが、親孝行にもなるし正しいんだよ。なんで私はこんな反対の人間なんだろう」
続けて彼女が話す姿を見て、息が詰まる。5秒も経たずに私の心の感情が溢れだした。
「ねえ、私こそ。あんたみたいに軸を持って好きなことをしたいよ。いっつも親の敷いたレールに従って、夢のようなことなんて起きたことないよ。困ったらすぐネットや周りの意見。自分のしたいことなんてできない、ってか無いんだけどね」
どんどん出てくる言葉を吐き捨てると、彼女は驚いていた。
私たちは、生まれた環境も違うし考え方も違う。彼女に何で惹かれたか、何でもっと話したいと思ったのか、私と真反対の生き方で羨ましかったからだ。そして、私も、彼女にとってそういう存在だったのだ。
5年目になり答え合わせをした気分だった。これからは、時には直感を信じつつも、安定志向の自分に自信を持って生きていこうと思う。私は彼女にあこがれており、そして私もあこがれる存在だったのだから。
ライター名:ホワイトタイガー