発達障害の子どもたち 私立の小・中学校は適応できるのか?

「発達障害の子どもたち 私立の小・中学校は適応できるのか?」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

みなさんは、「発達障害」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。

以前は、発達障害について、その要素があれば診断する流れにありました。
しかし、現在の考えでは、家庭、学校や社会などの環境に適応できずに支援を必要としたときに、はじめて診断がなされることになっています。

そして、発達障害の原因はわかっていませんが、脳機能の発達の遅れと考えられています。
これまでは「マイペース」「独特」「天然」という言葉で片付けられていた個人の特性は、すなわち「脳の個性」であると考えられているのです。

子どもであれば、いろいろな子どもがいます。
それが、大人、そして自立に向けて発達していくのです。
発達途上にある子どもを、自尊感情や自己評価を損ねるような育て方をしてはならないでしょう。
子どもの特性を理解して、合理的配慮をするのです。

そのため、教育現場においても、発達障害のある子どもに対する教育方法が実践・研究されています。
しかし、そうした取り組みの多くは公立の学校によって行われているのです。

では、発達障害の子どもに対する教育は、私立の小・中学校ではどのように実践されているのでしょうか。

発達障害のある子どもたちの推移

文部科学省の定義によれば、発達障害のある状態とは、
「LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥/多動性障害)・高機能自閉症・アスペルガー症候群などの知的発達の全般の遅れはないが、学習上または対人関係等学校生活上の困難をもつ者」
であるとされています。

発達障害のある児童の人数の推移について、全国的な調査を行っている国立特別支援教育研究所(NISE)は、「通級による指導を利用する発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害)のある児童生徒数はいずれも、平成19年度以降、毎年、増加傾向」1)にあると報告しています。

やはり遅れる私立小学校の対応

私立小学校に子どもを通わせる親にとっても、発達障害は関心事であるようです。

試しに、Google検索に「私立小学校 発達障害」「私立中学校 発達障害」と入れると、サジェストの上位には「退学」というキーワードがあり、子どもの発達障害を理由とした退学に関するネット記事が多く表示されます3)
こうした発達障害のある児童の退学という処置は、私立小・中学校において一般的なものなのでしょうか。

全国の私立小学校・中学校の発達障害のある児童生徒に対して、教育支援の実施状況に関する興味深い研究として、田部絢子(大阪体育大学)と髙橋智(東京学芸大学)が2014年に発表した「養護教諭からみた私立学校の特別支援教育の 現状と課題 ―全国私立小・中学校養護教諭悉皆調査から―」があります。

同研究では、全国の私立小学校・中学校の擁護教諭へのアンケートを通して、各学校での発達障害のある児童生徒への教育支援の実施状況を調査しています。

同研究の調査結果では「発達障害等児童生徒が在籍していると回答したのは、小学校39校 (84.8%)、中学校175校(76.8%)であった。
全調査回答校の在籍生徒のうち、発達障害等児童生徒の在籍率は、私立小学校355名(2.16%)、私立中学校1,051名(1.28%)と算出された」2)と示されており、公立小学校と比較すると少数ではあるが、私立小学校にも発達障害のある児童が在籍していることがわかります。

また、同研究では「発達障害等児童生徒に対して現在行われている学校の対応では、小学校の場合、以下のような調査結果3)になっています。

  • 学級担任の個別的な配慮で対応:33校(75.0%)
  • スクールカウンセラーへとつないだ:20校(45.5%)
  • 家庭への協力を求めた:20校(45.5%)

この調査結果について、「担任やスクールカウンセラー等の対応に任される傾向がみられ、特別支援教育において重視される『校内委員会』での対応や『チーム支援』の整備が遅れている」3)と分析しています。

ここでは、国公私立別・学校別特別支援教育への取り組み4)を表にまとめ、実際に学校別に学ぶ生徒数5)を表にまとめました。
私立小学校では特別支援教育への取り組みが消極的であることが認められるでしょう。特別支援教育にはお金がかかるのです6)

小学校                  
   国立公立私立
校内委員会の設置97.2%100.0%57.3%99.5%
実態把握の実施95.8%99.7%68.2%99.3%
特別支援教育に
関する
教員の専門性の向上
校内研修
の実施
79.2%91.6%41.3%90.9%
外部研修への
教職員の参加
72.2%95.9%36.9%95.2%
特別支援教育を行うための
体制整備及び必要な取り組みをすべて実施
33.3%74.0%4.4%73.0%
中学校
国立公立私立
校内委員会の設置90.9%99.9%52.3%98.3%
実態把握の実施92.2%99.2%58.0%96.1%
特別支援教育に
関する
教員の専門性の向上
校内研修の
実施
61.0%85.5%32.5%81.4%
外部研修への
教職員の参加
57.1%94.1%45.1%90.2%
特別支援教育を行うための
体制整備及び必要な取り組みをすべて実施
20.8%67.9%5.5%63.0%
表1.国公私立別・学校別特別支援教育実施表4)

 小学校中学校
国立45,016人32,077人
公立6,869,318人3,270,582人
私立79,042人255,507人
6,993,376人3,558,166人
私立の割合7.2%1.1%
表2. 国公私立別・学校別在籍する生徒数5)

私立小・中学校の選択-退学か支援か-

上記の研究では、私立小・中学校の対応の遅れを指摘しているものの、発達障害のある児童の退学状況については言及していません。
もちろん、「発達障害を理由として保護者へ退学を勧めたことがあるか」という質問項目があったとしても、保護者を顧客として扱う私立小学校としては「はい」とは回答しないでしょう。

発達障害とは、「脳の個性」に由来するため、それぞれの子どもの特性に合わせた教育的支援を必要とするものです。
こうした個別化する教育的ニーズに、これから私立小・中学校はどのように対応していくのでしょうか。

学校としての利益を追い求めるのであれば、「発達障害のある児童には退学を勧める」という対応も、一つの経営方針として在り得るのかもしれません。
しかし、筆者の児童精神科外来には、私立小・中学校で適切な合理的配慮が行われずに、自己評価や自尊感情が損なわれた子どもが診療に訪れています。

子どもたちの未来をとるのか、学校の利益をとるのか―。
果たして発達障害のある子どもに、私立小・中学校は適応できるのでしょうか?

参考文献:
1.独立行政法人国立特別教育支援研究所発達障害教育推進センターHP「統計情報」
2.田部絢子,髙橋智.「養護教諭からみた私立学校の特別支援教育の現状と課題―全国私立
小・中学校養護教諭悉皆調査から―」,2014,日本教育保健学会年報21 巻, p.19
3.田部絢子,髙橋智.「養護教諭からみた私立学校の特別支援教育の現状と課題―全国私立
小・中学校養護教諭悉皆調査から―」,2014,日本教育保健学会年報21 巻, p.23
4.文部科学省. 特別支援教育に関する調査結果について
5.文部科学省.私立学校の振興
6.文部科学省. 特別支援教育を取り巻く学校施設の現状等
7.文部科学省. 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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