第4回ライティングコンテスト佳作

それは江戸末期の黒船のように突然私たちのもとにやってきた。その名は「ChatGPT」。「ChatGPT」にプロンプトを与えると、人間が書いたような文章をつくってくれたり、問いを与えると回答を与えてくれたりする。

あまりにも利便性が高いため、OpenAIが開発したAIは私たち人間に「仕事を奪われるかもしれない」という恐怖をもたらした。これまでもわたしたちは普段の生活でAIを使っていたが、「ChatGPT」が優秀すぎるがゆえに、「認めたいけど認めたくない気持ち」が相半ばするようになった。

従来のAIと生成AIの違いは、ビッグデータを学習し単に模倣するだけではなく、新たなものを創出できる点だ。これまで不可能だとされてきた、全く新しい文章、画像、音声をつくりだせる。すなわち、現在そのような仕事に関わっている人たちの仕事を奪うということにほかならない。AIの精度が高まれば、これまで以上に人間の仕事を奪っていくことだろう。もちろん、私も恐怖を感じたひとりである。

「AIが仕事を奪う」という点に関しては以前から予測されていた。 オックスフォード大学のカイル・フレイとマイケル・オズボーンが「The future of employment: How susceptible are jobs to computerization?(雇用の未来:仕事は機械化によってどれくらい影響を受けるのか?)」という論文を書いたのは2013年のこと。論文では、全702個の職種についてAIの影響をどれぐらい受けるかを分析している。

その論文に書かれていたのは、電話販売員、保険業者、銀行窓口などルーティンワークが多い職種。約半数の仕事がAIに奪われる代わりに、全く未知の仕事が出てくるということだった。この論文を読んでも、私はどこか他人事と捉えていた。

ところがChatGPTの登場によって、そうした楽観論は覆されることになる。2023年にはOpenAIとペンシルべニア大学が論文「GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models(GPTは汎用技術である:大規模言語モデルが労働市場に与える影響についての早期の見解)」を発表。論文によると、「米国の従業員の約 80%はGPTの導入によって業務の少なくとも10%に影響を受ける可能性がある」としている。

AIの影響を受けやすい職業は、通訳・翻訳家・詩人・作詞家・ライター・記者・ジャーナリスト・校正者・税理士・会計士・エンジニア・グラフィックデザイナー・広報スペシャリストなどホワイトカラーの仕事。それに対して影響を受けにくい職業は、料理人・トリマー・バーテンダー・大工・屋根職人・アスリートなど体を使う職業である。私が従事しているライターもAIに奪われる仕事とされており、ショックが隠せない。

実際にChatGPTの出現によって、私が所属するライター業界でも、論文の通りになってしまった。ChatGPTが出てきたのは一昨年の11月。ライター界は、「仕事を奪われると恐れる人」「人間がAIに負けることなどないと思っている人」の2種類に分かれた。前者はこれまで着手しなかった取材案件に着手したり、自らがAIを使う立場になるための準備を進めたりして、来るべき日に備えた。後者は「自分たちの仕事は奪われるわけはない」と強気の発言を繰り返したのである。しかし後者の意見は徐々に変わっていく。

半年後には「契約を切られた」「ChatGPTが作った記事をリライトしてほしいという仕事に変わった」「案件に受からない」といった声が増えるように。しまいには「ライターを辞めて他の仕事をする」といった声も聞かれるようになった。恐ろしいことに、ChatGPTは明らかにライターの仕事を奪い始めたのである。

AIに仕事を奪われたら私たち人間の誇りはどうなってしまうのか? そこで私には疑問が沸いた。

「人間って何だろう?」
「AIとの違いって何だろう?」

こうした疑問に対し、はるか昔から哲学者たちは問いを繰り返してきた。AIと人間との違いを提示できなければ私たち人間には価値がなくなってしまうだろう。痛みや悲しみなど感情があるからこそ人間といえるかもしれない。「私はAIとの差別化を図るためにどうするべきだろうか?」と来る日も来る日も自問自答する日が続いた。

そんな中、私は取材の仕事で「これはAIにはできないだろう」という体験をした。ある弁護士に取材をすることになっていたのだが、相手は10分ほど遅刻した。そこで直接相手の事務所に電話をし、仕事が長引いてしまったことを知る。実際に取材が始まったが、相手は何度も「うーん……」と考え込み、即答できない様子。どのように相手から話を聞きだせばよいかと思案し、私は相手が話しやすいように誘導したり、辛抱強く待ったりした。
そこで、気づいたのである。こうしたやり取りはAIにはできないということを。

AIは「暗黙知」が苦手である。「暗黙知」とは、哲学者マイケル・ポランニーが提唱した言葉。言語化しづらいが、「なにかおかしい」など、言葉にできないカンやノウハウを指す。取材においては、まさにこの「暗黙知」が必要だ。たとえば取材相手が取材中にオフレコと言わなくても、「これは記事にすべきではない」と自分の経験から判断し、オフレコにするような場合が「暗黙知」にあたる。上述した論文「雇用の未来」でも、交渉や説得のような「社会的知能」は、AIが苦手な分野だということだ。

たとえAIがどれだけ進化しようとも、私が経験したことは私にしかわからない。「その部分こそがAIではなく私ができることなんだ」と私は確信を持った。

今後もAIは高精度になっていくだろう。確かに仕事を奪う一面もあるかもしれない。スキルが必要とされる仕事はすべてAIに置き換わっていくだろう。しかし、負の側面だけではない。AIが便利になったら人間は環境問題の解決や平和への意識など社会問題に目を向けられるのではないだろうか? 私たち人間はより人間らしく、他人への気遣いを重んじたり、創造性を発揮できるようになっていったりするだろう。

だから、AIが私に追いつこうとするなら、私はより自分という人間を確立し、創造性や社会性を発揮できるように訓練していきたい。それこそが人間としての私の価値なのだから。

ライター:今崎人実

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. Meta、改ざん検知したAIグラス数千台で撮影機能を停止 無断撮影対策を強化
    米Metaは、撮影中であることを周囲に知らせるLED表示を改ざんしたAIスマートグラスについて、写真…
  2. 屋根の上の太陽光パネル
    環境省は、2027年度から自治体や民間企業向けに行ってきた従来型シリコン系太陽光パネルの本体購入補助…
  3. 浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)
    中部電力は、耐震設計の目安となる「基準地震動」のデータを不正に操作していた問題を受け、静岡県御前崎市…

おすすめ記事

  1. 累積25年の獄中生活を経て、50代から新たな人生を歩み始めたヨッケちゃん

    2026-4-9

    25年間も刑務所で過ごした男が歩むモノマネ芸人としての第二の人生。空白期間を支えた6万冊の読書と母の手紙

    累積25年の獄中生活を経て、50代から新たな人生を歩み始めたヨッケちゃん。かつては反社会勢力の世界に…
  2. 刑務所内

    2026-1-25

    刑務所の高齢化に民間の知恵を。拘禁刑を背景に導入された新プログラムとは

    2025年6月、懲役と禁錮を一本化した「拘禁刑」が導入されました。受刑者の高齢化が進むなか、個々の特…
  3. 熊本刑務所内にあるリフレクティングルーム

    2026-8-11

    熊本刑務所「リフレクティング」の導入で変わる刑務官と受刑者の関係性

    熊本刑務所が熊本大学大学院と共同研究を行う「リフレクティング」。閉ざされた塀の中で対話が、人と組織を…

2026年度矯正展まとめ

2026年度 矯正展まとめ

【結果】コンテスト

【結果発表】ライティングコンテスト企画2025年9-10月(大阪・関西万博 第4回)

アーカイブ

ページ上部へ戻る